義母をヒーヒー泣かしてやるぜ!
お前らだって、見てえだろう?
アレだよ。アレ。
血のように真っ赤な幾重にもかさなる『ビラビラ』を思い浮かべてみろよ。それはまだ恥ずかしそうに閉じていて、仄かに湿り気を帯びているんだ。甘い芳香も漂っている。これがクパァと開けば、どんなに魅力的か。想像しただけで興奮しねえか?
いや待てよ。閉じたままというのも捨て難いな。壁に覆われ、割れ目から小さく覗く赤い秘部。これも良い。いわゆるチラリズムってやつだ。
お前らも好きだろ? チラリズム。いいや、お前らだけじゃねえな。どいつもこいつもチラリと見えるものが好きなはずさ。
考えてもみろよ。ほら、皆既日食。世界中の男女がチラリと見えるお天道様に大興奮だぜ。いわば本能なのさ。隠されているものを見てやりてえっていうのはな。恥じることはねえよ。正直になれよ。
俺は正直になることに決めたぜ。
やってやるんだ。
俺は幼い頃に母を事故で亡くした。それからというもの、親父がたった一人で俺の面倒を看ていたんだ。母親の記憶はない。なにせ死んだのは俺が二歳の時だからな。だから俺にとっては親父と二人きりの生活こそが当たり前の日常だったんだ。
ところがだ、ある日、そんな日常が一変した。俺の家に女が転がり込んできたんだよ。
その女は親父の新しい嫁だった。つまり、俺の義理の母親だ。
母親といっても歳は俺とそれほど変わらねえ。二十代後半だ。どんな馴れ初めがあったのか知らねえが、老いぼれ親父にはもったいねえ。
その肌は水を弾きそうなほど艶やかで、その唇は火照ったように桃色。一つに束ねられた黒髪は触れればスルリと指が通り抜けちまいそうだ。化粧っけはねえが、それが却って素材の良さを引き立てている。
そんな女が、手を伸ばせば届くところに常にいるんだぜ。常にな。
女は親父と籍を入れる際に仕事を辞め、専業主婦なんだ。いつも家に居やがる。
そして俺も、いつも家に居る。春から大学三年生になった俺は、必須科目はほとんど履修済み。受講数が少ねえのさ。彼女もいねえし、平日、休日かかわらず、年がら年中、在宅中って訳だ。
つまりよ。分かるか? 日中は密室の中で女と二人きりなんだぜ。少し前まで男臭かった室内の空気は、今では女の放つ濃厚な香りで満たされている。
お前らだったら我慢できねえだろ?
俺は耐えたぜ。これでもな。だが女を母親として扱うことなんて簡単には出来ねえ。どうしても意識しちまう。
女は、毎日昼飯時になると、俺のことを呼んで椅子に座らせる。そして、俺のために用意した料理を目の前に並べ、「愛情込めたよ」とか言いながら、首を傾げて笑うんだ。その笑顔はぎこちない。女も意識しているんだろう。
それを見る度に俺は思った。大きく膨らみ、剥けて先端が赤く染まったソレを、グリグリと押し付けてやりてえってな。
そんなある日、そう、五月の日曜日、チャンスが訪れた。親父が出張で何日も家を空けることになったんだ。俺は、やることに決めた。
親父が居ない間に、女と深い深い仲になってやろうじゃねえか。
午前中のうちに俺は必要な物を買い揃えた。酔い易いスパークリングワイン、縛るための帯状の紐、それから、いや、これはなくても良いか。生で出したほうが、女も喜ぶかも知れねえしな。
俺は女が泣く姿を思い浮かべ、クックッと喉の奥で笑った。
そして、夕食後のことだ。
俺はさり気なくスパークリングワインを差し出し、一緒に飲むことを提案した。
女は戸惑いがちにコクリと頷き、グラスを用意するために俺に背を向けた。
今ならやれるんじゃねえか? 俺は思った。
急いで用意したものを鞄から取り出し、女に忍び寄る。すぐ背後に立ち、そっと声を掛ける。女が振り返った瞬間、俺は、ビンビンに直立した一本のソレを押し付けるように突き出し、言い放った。
「母の日、おめでとう。お母さん……」
赤くビラビラとしたカーネーションを受け取った女、いや、俺の新しい母ちゃんは、子供みたいにポロポロと涙を零し、「ありがとう」と呟いた。
これで少しは深い関係になれたかもな。
お前らも見てえだろ? 母ちゃんが喜ぶ姿をよ。
※『カクヨム』週間ミステリーランキング一位獲得作品