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黒き竜と黄金の玉


 ――――世界は竜の呪いに侵されていた。



姫:「夜も更けて参りましたね」


王子:「…………」


姫:「どうされたのですか? ずっと黙ったままで」


王子:「……なぜ父上は私達をここに閉じ込めたのだろうと考えておったのだ。はるばる隣国より姫が訪れたというのに、祝宴を催すどころか寝室に閉じ込めるとは」


姫:「それは王様が気を遣われたのだと思います。間もなく婚礼の儀を得て私共は夫婦となります。その前に親睦を深めよということではないでしょうか」


王子:「そのことなのだが、私は此度の婚約を破棄しようと思う」


姫:「な、何故でございますか!」


王子:「説明するよりも見て頂くのが良いだろう…………」


姫:「……そ、そんな、いきなり服をお脱ぎになるなんて、なんと大胆な」


王子:「どうか目を逸らさずに、ここを見て欲しい。この通り、私は『竜』を身に宿しておるのだ」


姫:「そ、それは、竜と申しますか、いわゆる、その……」


王子:「今まで誰にも打ち明けたことはないのだが、私の身体には生まれた頃より竜の頭がぶら下がっておるのだ。この様な呪われた身で妻をめとる訳にはゆかぬ」


姫:「お言葉ですが、私は幼き頃より王子様をお慕い申しておりました。今更その気持ちを消し去ることなど叶いませぬ。何より、私は竜のことも…………」


王子:「……こ、こら、何をしておるのだ。その様な所に口付けをしては姫にまで呪いがかかってしまうかも知れぬぞ」


姫:「ええ。私は既に竜の呪いにかかってしまったようでございます。と申しますより、私はこの竜の、と・り・こ……」


王子:「ああ、手遅れか……良かれと思い我が身の秘め事を告げたというのに、この様な事態となってしまうとは」


姫:「どうか後悔なさらずに自信をお持ちくださいまし。王子様の竜は大変立派でございます。この頭も、首も、携えた金の玉も」


王子:「金の、玉? これのどこが金だと言うのだ」


姫:「一般的に金の玉と呼ばれております」


王子:「一般的に? 私以外にも竜を宿す者がおるとでも言うのか」


姫:「はい。概ねの殿方は……」


王子:「何ということだ。知らぬ間に呪いは蔓延しておったのか」


姫:「それ故、恥ずべきことはございませぬ。どうか私めを妻に。御覧ください、竜も私を求めておいでです」


王子:「こ、これはどういうことだ。朝でもないのに竜が首をもたげておる!」


姫:「竜は私めを食べたいと仰っているようです」


王子:「なぬ? この竜は人を喰らうのか? こんな小さな竜が……」


姫:「いいえ。王子様の竜は大きゅうございます」


王子:「人を喰らうにしては小さいであろう。意味が分からない」


姫:「正しくは人を食べると申しますより、女喰いでございます」


王子:「おなごのみを食すと?」


姫:「はい。そのケがございませんでしたら」


王子:「そのケ? ちぢれた毛しか見当たらぬが」


姫:「私の知る限り王子様にそのケはないかと存じます。竜の中には殿方を好むものや性別を問わぬものもおりますが」


王子:「性別を問わぬか……」


姫:「ただし、性別を問わぬものは両刀と呼ばれる希少種のみでございます」


王子:「両刀、すなわち二本……双頭の竜ということか」


姫:「いいえ。両刀であっても生えているものは一本」


王子:「二本なのに一本? 意味が分からない」


姫:「少なくとも王子様の竜は私という女を所望しているご様子。口付けを繰り返すうちに明らかに先程より肥大していらっしゃいます。異国の格言に、光陰惜しむべし、というものがございますように、光陰を素直に受け入れてくださいまし」


王子:「意味は分からないが、何か間違っている気配はする!」


姫:「素直に竜の本能に従って欲しいということでございます」


王子:「否。竜の狙いがおなごを喰らうことにあるならば、なお婚姻は破棄せねばならぬ。私は姫の身を案じておるのだ」


姫:「私は竜に喰われとうございます。この感情を呪いと呼ぶならば、それは恋という名の呪い。王子様は私めに対して何の感情も抱きませぬか」


王子:「言われてみれば先程から呼吸が乱れ、何かを欲しているような……だがしかし、くっ、これも竜の呪いか……」


姫:「私はもう我慢できませぬ!」


王子:「こ、これ、何をするのだ!」


姫:「………………あっ……」


王子:「………………うっ……」


姫:「……竜に……食べられてしまいました……」


王子:「絵的には、むしろ竜が喰われておる……」


姫:「ああ……内から貪られております」


王子:「ぐっ……精力が吸われるようだ。これも、これも竜の呪いかぁぁぁ!」


姫:「おお、熱うございます。まるで炎に身を焼かれるよう」


王子:「竜に乗っ取られたのか、身体が勝手に動いてしまう!」


姫:「………………あっ、ああ……」


王子:「………………おっ、ふっ……」


姫:「お、王子様、あっ、私は、私は、もう、い、イク……」


王子:「逝く、だと? 命を落とすということか! 死んではならぬ! 死んではならぬぞ、姫ぇぇぇ!」


姫:「ああ、天国が見えて参りましたわ……」


王子:「しっかりしろ! しっかりするのだ、姫……おお、姫が今にも亡き者になろうとしているのに身体が言うことを聞かぬ。竜の呪い、なんと恐ろしいのだ」


姫:「……んっ……その呪いは竜が白い炎を吐き出せば解けます」


王子:「なに! この呪いは解けるのか!」


姫:「呪いが解けると殿方は賢者になると聞いたことがございます」


王子:「竜から解放されると賢者に? 意味が分からない」


姫:「しかしながら王子様はお若い。すぐまた竜は復活なさるでしょう」


王子:「完全に竜を取り除くことは叶わぬのか! 竜め!」


姫:「ああ、早くその終末の炎で、この身を焦がしてくださいまし!」


王子:「それはならぬ! それはならぬぞぉぉぉ!」


姫:「いいえ。私共は近く夫婦となる身。たとえ危険な日であっても危険ではございませぬ!」


王子:「危険なのに危険ではない? ぐはっ、意味が分からない」


姫:「あっ……も、もう、ダメ……」


王子:「もはや、これまで……」


姫:「お、王子ぃぃぃ!」


王子:「ぬぉぉぉ………………羽ばたけ!」



 ※この物語は、あくまで竜との戦いを描いています。



※日間童話ランキング一位獲得作品

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