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第十五話 厄介ごと

「――というワケで、手伝ってほしいんですけど……」

「僕にですか? 嫌だなぁ、僕がアルバイトで忙しいことは御存じでしょうに」

「バイト先は潰れたって話を聞いていますけど」

「……全く、緋山君の口の軽さには困ったものです」


 全く、之喜原先輩の説得の面倒くささには困ったものです。

 いつものごとくお昼休みの屋上。しかし今回は緋山さんと澄田さんの姿が無く、俺と之喜原先輩の二人だけしかこの場にいない。


「緋山さんと澄田さんはどうしたんですか?」

「あの二人ですか? ……全く、バカップルには困ったものだと思いませんか?」


 その件については全くもって同感ですけど、以前聞いた話だと緋山さんの方が皆勤賞狙っているって聞いたことがあるんですが――


「それが、澄田さんの方がちょっとご病気――いえ、病気ではありませんが諸事情で学校に来られるような安定した容態では無いので、緋山君もつきっきりでいるような状況です」


 言われてみればいつもひなた荘の三人は同じような弁当だったけど、今日の之喜原先輩は俺と同じ購買部のパンを手に取っている。


「風邪ひいているとかそういうのだったら、日向さんとかヨハンさんがいるんじゃないんですか?」


 ひなた荘にいつもいるこの二人に任せて、緋山さんは学校に来ればいいのでは?


「ですがことはそう単純ではありません。なにせ今回は魔人も動いているようですから」

「魔人もですか……」


 確かに以前澄田さんとの関係について意味深な事を言っていたけど、まさか魔人が動くまでとは想像できない。


「……しばらくあの二人は加勢できる雰囲気ではないと」

「そういうことです。ですから緋山君も僕に押し付けたんだと思います」


 押しつけたって……俺も人のこと言えないけど。


「じゃあ之喜原先輩は手伝ってくれるんですか?」

「ええ、まあ……報酬次第ですね」

「報酬って、お金取るんですか……」

「一応僕はこれでもれっきとした能力者ですから、力をタダで貸すという訳でしたら他を当たって下さい」


 なんとなく一筋縄ではいかないことは予測できていたけど、まさかここにきてお金の問題ですか……。


「貴方の様にSランクの身ではお金に不自由はないでしょうが、僕はあくまでBランクです。割引や免除なんてものはほとんどありません」


 この都市ではランクが高い程高待遇なのは周知の事実。しかしBランクのように中堅ランクであれば、待遇はC、Dに毛が生えた程度のものでしかない。


「そうですねぇ……ちょうど欲しかった本があるので、それを買っていただくことで依頼を受けましょうか」

「えっ、そんなのでいいんですか? 何かアルバイトとかしているからもっと自給いくらとかそういう話かと思っていたんですけど……」

「いえいえ、元々ヴラド家というものには興味がありましたし、それに魔法というものをそろそろ本格的に知っておくべきかと思いましてね」

「魔法ですか?」

「ええ」


 確かに今まで相対してきた中に魔法使いなんて数えるくらいしかいない。そもそも魔法使いの知識なんて一番下のCランクから順に魔術師マジシャン魔法師ソーサラー魔導師ウィザード魔導王ロードの順にランク分けされていってることくらいしか知らない。それと魔法を使える時点でどうあがいてもDランクは与えられないらしい(力帝都市における戦いに参加しないと自己申告した場合を除いて)。

 いわれてみればこの程度の知識しかない今、ロザリオの魔導具を通して相手が魔法を使ってくる可能性も考慮しなければいけない。


「……俺も魔法を勉強した方がいいですかね?」

「止めておいた方がいいですよ。魔法も能力も脳の使い方によるものですから。仮に魔法を使えるようになる場合、その時は貴方の今持つ能力を捨てるという意味を含んでいますから」

「それなら魔法を使えなくていいです」

「僕のように微妙な能力の持ち主であるなら魔法に鞍替えしてもさほどダメージは無いでしょうが、貴方の力はSランクですからね」


 その言い方からして之喜原先輩は能力を捨てて、魔法を会得するつもりなのだろうか。せっかく『人形ドール』という自分だけの能力を体得しているというのに。


「フフ、所詮Bランクの能力ですからね」

「でも他にそういう能力を持つ人はいないんじゃないんですか?」

「人形だけを限定的に操作できる能力……念力サイコキネシスを使える人間ならもっと他のものも器用に動かせるかと」


 之喜原先輩は自分の能力を卑下するけど、俺にとっては直感的に物を操作できる能力は凄いと思うけどなぁ。こっちは場所を反転させるくらいしか移動手段思いつかないし。


「さて、と」


 之喜原先輩はパンも齧りかけのままビニール袋に包み終えると、その足で屋上のドアの方へと静かに歩き始める。


「どこに行くんですか?」

「どこって――」


 之喜原先輩が勢いよくドアを開いた先には――


「どうやらお仲間に入れて欲しそうな方がいらっしゃったみたいで」

「あはっ☆ ばれちゃった?」

「我々に何の用です?」

「いやん、今日こそはお話デキちゃうかなーなんて思っただけよぉ」


 扉を開けた先には、明らかに先ほどまで座り込んで盗聴していたとしか思えないロザリンデの姿があった。


「その割にはスネークカムで何やらのぞきをしていたようで」

「……なんのことか、ロザリンデわかんなーい☆」

「……まあいいでしょう」


 之喜原先輩はそのまま何も咎める事無くロザリンデの横を通り過ぎ、階段を降りていく。


「――騙し合いなら、負けませんよ」

「あらぁ? 何のことを言っているのかしらぁ?」


 えっ、ちょっと待って俺おいてかれている!? というかロザリンデはそのまま笑顔でこっちに来るなってば! これ絶対家宅捜索フラグだよね!? 

 ちなみにスネークカムとはドアの隙間からチューブの様に覗き込めるカメラだそうです。

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