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第十二話 By The Blood

「貴様、まさかあの時の――」

「そゆことー、ってか男の半裸で鼻血出すとか超ウケたんですけどー」

「殺す!! 今度こそみじん切りにして殺してやる!!」

「きゃー、こわーい!」

「何遊んでんだよ……」


 いやすいません緋山さん、なんかこの人見ているとどうしても遊んでしまうんです。それもこれも最初の出会いであんな綺麗な童貞反応見せつけられたのが悪いんですよ。


「っと、遊びもここまでにして、そろそろロレッタちゃん返してもらおうか!」

「…………」


 おっ? 意外に素直に降ろしたぞ?


「お嬢、ここは下がっていてください?」

「お嬢って……あなたは一体誰なのです?」

「とにかく下がっていてください。あんな奴等に頼らずとも、本家の者は俺一人で蹴散らしますから」

「っ! あなた、もしかして――」

「おーい、余計なおしゃべりしていていいのかなー? っと」


 俺は早速その辺の石ころを手に取り、狼男に向かって投げつける。


反転リバース


 石ころを巨大な岩に!!


「なっ――くッ!!」


 巨大な岩は、確実に狼男を蹴散らさんと真っ直ぐ勢いよく飛んでいく。しかしどうやら俺は、狼男の力を侮っていたようだ。


「ぐぅおおおおおおッ!!」

「……ま、マジで?」

「ぬああああああッ!!」


 男はおおよそ重さ一トンを超すであろう大岩を、その身体と両手でもってくい止める。そしてこともあろうに大岩を持ち上げると、こちらに向かって投げ返してきた。


「っ、反転リバースッ!!」


 俺は手元に戻ってきた小石に目をやり、そして改めて男の方を向きなおす。空想上の産物が現実として目の前にいることに、冷や汗をたらしながらも笑うしかなかった。


「あ、はは……マジで投げ返してやんの」

「どうした! 貴様の力はその程度か!」

「くっ、岩を投げ返したくらいでいい気になってんじゃないよ!」


 あっ、これ言い終わった後に気づいたけど小物臭いセリフだわ。

 俺は指を鳴らし、現在部屋の中にいる俺と狼男を屋外へと反転させる。


「これは!?」

「ちょっと屋上に来ただけじゃん。そんなに心配しなーい」

「一体どんな力が……!」


 教えませんよ。今のところは。

 そんなこんなで日も傾き始めた今、俺と狼男の顔が日の光で赤く染まり始める。そして太陽の代わりに上ってくるのは満月。昨日と同様、血のように不気味に赤く染まっている。


「……さて、そろそろ本気出してもいいんじゃない?」

「貴様もまだ本気ではないだろう」

「そりゃそうだよ。あんな狭い部屋で本気出したらロレッタまで被害がでちゃうからね」

「敵にしては賢いが愚かだな。ここであれば俺も暴れられるという事も忘れたか!」


 男は両手の爪を獣ように鋭く尖らせ、更には口元の牙すら雄々しく見せつけ始める。

 まさに獣、まさに獣人。とまあここまではいいけど、それであのスピードも付け加えられたらちょっと困るかな。


「それにしても八重歯凄いね」

「黙れ。この牙によって貴様は引き千切られ、食い散らかされるのだからな」

「あたしにむしゃぶりつくってこと? 変態だねぇ」

「黙れッ!!」


 おっと、挑発もここまでか。

 狼男はその獣の筋力が付与された脚によって素早く接近をすると、そのまま下段からこちらの顎をかち上げにかかる。


「ちょっとぉ、その攻撃はつい最近見たばっかだから回避は簡単すぎるかな!」


 既に対『冷血クルエル』戦で見た事があるし、それよりも遅いから身体能力反転だけで余裕でかわすことができる。俺は逆にカウンターとして男の伸びた腕を絡め取ると、そのまま反転させた筋力で持ち上げて関節技を決めると同時に地面に叩きつける。


「ぐっ!」

「これで、右手は使えないかなー? 当分夜の相棒とはサヨナラだね」

「ふ、ぐ、ふざけるな!!」


 ぶらりと垂れ下がる右腕を庇うそぶりもなく、男は残った左腕でもってまだ戦おうとしてくる。


「ねぇ、どうしてそんなに必死なのさ! あの子に何の目的があって――」

「貴様には関係ない! これは俺一人の問題だ!!」


 あちゃー、こりゃ一旦再起不能にしてからじゃないと話を聞いてくれなさそう。


「ちょっと頭を冷やして、クールにいこうよ」

「貴様に言われる筋合いなど無い! 貴様を殺せば、俺は冷静になれる!!」

「あっそ、ならしょうがない」


 殺されるとなったら正当防衛するしかないよね。


「ここから先は、あたしも殺すつもりでいくよ」

「来るがいい。貴様の喉笛を引き裂いてくれる!」


 男は単調ながらも素早い突進でこちらを捕らえようとしてくる。だから、俺にその手は通用しない――


「掛かったな!」

「へっ? っ!?」


 急に体が動かなくなった!?


「貴様にとってはただの正々堂々とした戦い(あそび)のつもりかもしれないが、死合うと宣言した以上、こちらもどんな手を使ってでも殺す」


 目線だけ動かして足元をよく見ると、俺の影に突き刺さるように小さな黒いダガーナイフが突き刺さっている。


「今の突進はフェイクだ。本命は魔導具を使って影を突き刺し固定すること。これで貴様はその影同様身動きができなくなる」


 何ですと!


「もはや口も動かせまい。貴様がどう力を行使するか知らんが、これで終いだ!!」


 男は堂々と近づき、俺の喉笛に爪を立てようと左手を伸ばしてくる。

 だが残念、俺の能力は喋っていなくても――


「通用するんだよなぁこれが」

「なっ!?」


 確実に影を固定されたはずなのに、固定された影に反するかのように俺の身体は自由に動き出す。


「貴様、元々影が無い者――吸血鬼ヴァンパイアか!?」

「いやいや、そんな異形の者(イモータル)な感じじゃないでしょ。これもあたしの能力を応用しただけ」

「そ、そんなふざけた力があってたまるか!!」


 もはや打つ手立てがなくなったのか、男はそのまま俺の喉を引き裂こうと左腕を横に薙ぐ。しかし勿論それも軽く回避できるわけで、俺は素早く懐に潜り込むと、渾身の力を込めてこの場における最強の攻撃を繰り出す。


「喰らえ!」

「なっ――ぁっ!?」


 あまりの激痛を前に、男が言葉を失う。それも当たり前のことであり、この場における最強の攻撃――男にとって最大ダメージとなる金的を繰り出してやったのだから。


「ぐ、ぐぅ……ッ!」


 当然のことながら男は股間を押さえてその場に倒れてうずくまる。まあ、タマが潰れない程度には手加減しておいたから大丈夫でしょ。てか女の子の身体のはずなのに見ているこっちも痛みを感じるのは何故でしょうか。


「き、さ、ま……ァ!」

「とりあえずそのまま悶絶してから落ち着いて、それから下で改めてお話しましょうか?」


 俺は悶絶する男をその場において、屋上から立ち去って行った。

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