超・番外編 ぶれいく・おぶ・わーるど ~クリスマス編 その2~
「ねぇねぇ、お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「どうしてお兄ちゃんなんだ?」
「アクセラちゃんは一人っ子だから、お兄ちゃんとかそういうのを知らないのっ! だからお兄ちゃんになってくれる人を探してたの!」
「それって一歩間違えれば援助――ゲフンゲフン、とにかく俺も一人っ子だからその辺よく分からないけど、それでもいいなら勝手に呼んでもらって構わない」
いや本当にどうしてこうなったのか。別に悪い気持ちはしないけど別の気持ち悪さは出てくるぞこれ。
とまあ俺一人で勝手にギクシャクになりながらも駅のホームにて第二区画へと向かう電車を待つ俺とアクセラ。確かにはた目に見れば兄妹に見えなくもないが、俺の挙動不審な動き方がその考えを改めさせる原因になっているのかもしれない。
「ねぇねぇお兄ちゃん、お兄ちゃんってランクいくつ? A? B? 流石にSは無いと思うけど……」
その流石のSです。だけどこの場は――
「――俺のランク? 俺は何の力も持たないただのDランクだ」
「うっそだー、お兄ちゃんってその割にはなんか余裕そうだし、アクセラちゃんの予想だとBはあると思ったのにー」
「はは、そりゃ力を持たないことに諦めを持っている人間なんてこんなもんだよ」
「そうかなぁー?」
そうなんです。元Dランクが言うので間違いないです。
「ふーん、アクセラちゃんはお兄ちゃんのその謎の余裕に、ミステリアスを感じるのです!」
「そうですか」
こうして俺とアクセラが他愛のない会話を続けているが、俺にとっては天敵ともいえる存在の接近に気づけなかったのは痛かった。
「――ったく、お前ら飯のことになると途端に元気になるよな」
「しょうたろーこそ、しょくひがうく? って喜んでいたではないか」
「それはお前の姉ちゃんが最近バカ食いしまくっているからだろうが! ったく――あん? あの後ろ姿は……?」
足早に近づく足音。その音にすら気づかない俺。
そしてこの三秒後、俺は後ろから力強く肩を掴まれることになる。
「おい!」
「ひゃうっ!?」
恐るおそる後ろを振り返ると、そこには俺が現状最も苦手とする人物の姿がそこにある。
「お前確か、前に集団で俺に襲い掛かってきた中にいた奴だよな?」
何で番外編の絡み方がそのパターンなんですかね!?
「うるせぇ、本編でまだまともに相対していないからだろうが」
「あんたまでメタ発言されると俺もどうすればいいのか分からなくなるんでやめてもらえますかね!?」
「お前も大概だろうが、ったくよぉ……」
俺にガンを飛ばしながら絡んでくるこのガラの悪い男の名前は、穂村正太郎。能力名『焔』。Aランクに昇格するための関門として立ちはだかっているBランク内では最強の存在らしい。
ところでわざわざ俺を見つけ出して声をおかけになられた理由はなんでしょうか?
「別にお前を今からブチのめすとか、そういうつもりじゃねぇ。ただお前らを束ねている奴に一つだけ言伝してもらいてぇだけだ」
「伝言ですか……?」
「ねぇねぇお兄ちゃん、この人達誰?」
「しょうたろー、このみょうに馴れ馴れしいひとは誰だ?」
「…………ん」
「誰って――お前等何やってんだ」
穂村の呆れた視線の先には、二人羽織りをするかのように幼い幼女二人に抱きつくアクセラの姿が。
……正直、ものすごくいいですそれ。穂村がいないのなら写真撮っておきたいレベル。
「……なんか今物凄くお前を殴りたい気分になった」
「え、えぇ……」
と、とにかくここは大人しく伝言を聞いておくとしよう。
「伝言っつぅか忠告だな。次俺に襲い掛かったらこの前以上にタダじゃおかねぇ――」
「ただじゃおかないってどういうことかしら?」
「あぁん? ――ゴハァッ!?」
あー、なんか今日はよくドロップキックを見るような気がするぞ。というよりそもそも一日に二回もドロップキックを見る日なんてそうない気がする。プロレスが趣味の人はしょっちゅう見るかもしれないが。
「まったく、なんでアタシを誘わずに勝手に立食パーティでようとしているワケ?」
「べ、別にお前を誘う必要ねぇだろ……」
「あるわよ! 一応アンタのライバルなんだから!」
「どこの世界に、ライバルを誘う奴がいるかよ……ぐっ……鳩尾は効くぜぇ……」
とまあ駅のホームで突然穂村の横からドロップキックをかましてきたのは、恐らく穂村と同年代の少女。学校の制服にコートを軽く羽織ったコーディネートに肩まで伸びたロングヘアー、そして挑発的な瞳。彼女も中々の美少女であるが、それより目を奪われるのは――
「……んー? 何見てんのかなー? この変態さん」
「い、いや何も見てないですよ……」
とっさに目を逸らしたけど……この子胸でっけー。つーか女の子になれるから分かるけど、これでもまだ着やせしている方だと見た。多分脱いだら女の子の時の俺より巨乳の可能性すら出てくる。
「……フーン。まっ、その手の視線はアタシも慣れてるしどうでもいいけど」
「いや本当にそういうつもりで見ているんじゃないですって!」
「それよりお前、よくSランクの関門を前にして平然としていられるな」
「へっ?」
えっ? この子が今のSランク昇格のための関門?
「『観測者』って聞いたこと無いかしら?」
「……あっ!」
確か以前VPで適当に能力者を検索している時にみたことあるような……あっ。
「……時田マキナさん、でしたっけ? 確か時間を操る能力者だったような――」
「ピンポンピンポーン、大当たりー」
「ねぇねぇお兄ちゃん、この人達知り合い?」
「あぁー! 一体どこから現れたのだ! 今日しょうたろーはわたし達とご飯を食べるのだぞ!」
そしてまだ二人場折り解除していないのかそこの三人は。時田の方は一瞬アクセラの方を見て誰なのかと気になっていたような視線を送っていたが、それもすぐに下の幼女二人への呆れた目線へと変わっていく。
「相変わらずイノちゃんの方はうるさいわねぇ。少しはお姉さんを見習って静かにしていたらどうなのよ。それにアタシも一緒に食べたっていいじゃん。ね、『焔』」
「チッ、勝手にしろよ」
見たところ二人は付き合っているのか……? いやそれにしては穂村の方がそっけなさすぎるような気がしなくもないが。少なくとも時田の方は穂村にご執心の様子。
……俺なりの女の勘ってやつだが。
「そろそろ電車が来るわ。乗りましょ」
「なんでお前が仕切ってんだよ。そしてなんでお前も一緒に来るような雰囲気になってんだよ」
「そりゃ行き先一緒ならそうなるでしょうよ」
「チッ! やっぱり今日は家にいた方が良かったか」
「家にいたらいたでアタシが文字通り引きずり出すけどね」
「クソが!」
向こうは向こうで大変みたいですね。っと、電車に乗らないと。
「電車に乗るよ」
「うん、お兄ちゃん!」
「……お前まさかシスコンじゃねぇだろうな」
どうして皆話がそう飛躍するんですか!
◆◆◆
「――さっすが第二区画、AIがどんな状況にも対応した街並みに変化させられるって聞いたけど、まさか区画一帯を完全にまっ平らにするとは思わなかったわ」
「俺の目がおかしくなければ遠くにステージが見えるが」
「うっさい! 揚げ足盗らないでよ『焔』!」
喧嘩するほど仲がいいの体現はいらないんで。それと微妙にいちゃついている様にも見えなくもないんで止めてもらえますか。せっかくのクリスマスですよ。
「まったく、クリスマスに一人ぼっちと思ってアタシが折角ついてきてあげてるのに」
「俺にはイノとオウギがいるから別に……」
「ロリコン」
「うっせ」
これ実際にぼっちなのは時田さんの方じゃ――
「何か言った?」
「いえ何も!」
こっわ、さっきから魔人じゃないけど心を読まれているかのような感じ。
「それにしても市長がわざわざこの辺区画全部を会場にしただけあって、人もそこまでぎゅうぎゅう詰めってワケじゃないわね」
「それに意外と一人で来ている奴も多いみたいだな。まっ、大半が端末いじくっている所からすると行くところがないからここに来たか、それともここでバトって行くつもりか」
そう言われてみると結構一人で来ている人同士が会話していたりという事が……あれ? 俺もしかしてぼっちで来ていても大丈夫だった?
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「あっちでご飯食べようよ! アクセラちゃんはもうお腹がペコペコなのだ!」
「しょうたろー、おねぇちゃんもお腹が空いたって言っているぞ」
確かにこの寒空の中テーブルの上で湯気立つ暖かい料理はお腹にくるものがある。
「じゃあ早速お皿を取りに行こうか」
「うんっ!」
「あっちは随分と兄弟仲がいいのね。それに比べて――」
「バカッ! 誰がチキンの丸焼き丸ごととっていいって言ったんだ!」
「でもおねぇちゃんこれくらいなら食べられるって――」
「他の人のことを考えろ!!」
「……あっちは大変そう」
◆◆◆
「――そういえば」
「ん? どうしたの?」
あー、やっぱり聞いていいのかこれ? 常識的に考えたら駄目だよなぁ。
「……一つだけ聞いていいか?」
「いいよー、アクセラちゃんに答えられることなら!」
「……友達とかと、ここに来なくてよかったのか?」
「…………」
あっちゃー、やばい。やっぱり地雷踏んじゃうよね。
とはいえこんな冴えない男といる必要も無いと思うし、それこそ友達の一人や二人――
「アクセラちゃんには友達いるよ! でも皆、彼氏さんがいるんだって」
「そ、そうなのか……」
最近の女子中学生は進んでますなぁ。
「でもね、アクセラちゃんは彼氏よりお兄ちゃんが欲しいの! だってほら、サンタさんにもお願いしたし!」
そう言ってアクセラはまだ封筒に入れていない手紙を広げてこちらに見せてくる。
……うん、確かに書いているね。というか中学生でまだサンタクロースを信じている純粋な子を俺は初めて見た気がするぞ。
「でもサンタさんに頼む前に、お兄ちゃんができちゃった!」
「それはよかったな」
「うんっ!」
まあここまでツッコみどころが色々あったけど、この子の屈託のない笑顔が見れたから良しとしようかな。
「……なんか前のステージで余興があっているんですけど」
「お嬢ぉぉぉおおおおおおお!! どこにいるんだぁああああああッ!!!」
な、なんかホスト系のワイルドなお方がヤバげな言葉を吐いているんですけど。
「クリスマスぼっち専用絶叫大会だって! お兄ちゃんもでる?」
「い、いや、アクセラがいるから別にでないよ」
うん、アクセラがいなかったら多分優勝できていたと思う。あの人にも勝てる気がする。
◆◆◆
「今日はありがとうっ! 一日だけだったけど、お兄ちゃんと過ごして楽しかった!」
日も完全に落ち切った夜、クリスマスイブももうすぐ終わる。後はサンタを待つだけだが、この力帝都市にはサプライズとして大抵の家のポストに謎のサンタクロース(噂によれば市長らしい)がプレゼントを押し込みに来る。
「そりゃよかった。またどこかで会えるといいな」
「うんっ! それじゃ――」
アクセラは俺にさよならを言う前に、突如として糸が切れたかのようにその場に倒れ伏す。
「ッ!? おい、大丈夫か!?」
「おっと、ここまでだ」
焦って近づこうとする俺の目の前をさえぎるのは、あのわがままな魔人。
「退いてくださいよ! アクセラが倒れたんですよ!!」
「安心しろ。これはヤツの発作に過ぎない」
「発作って……だったら、なおさら病院に連れて行くべきじゃ――」
「いったたたた……あれ? ここは――」
アクセラが起き上がると同時に、魔人も何故かすんなりと道を通し始める。しかしそんな事などどうでもいい。
「大丈夫だったかアクセラ! 怪我とかしていないか!?」
「大丈夫……? アクセラちゃんは大丈夫だけど……あなたは、誰?」
「ッ!?」
記憶が……ない?
「っ、何をしたんですか!?」
「何もしちゃいねぇよ、少なくともオレはな。コイツがこうなる原因はコイツの体質、そしてこいつが今学んでいる魔法の代償だ」
「代償って……ッ! だったら今すぐ止めにいかないと――」
「バカかテメェ。本編はまだロレッタの件で忙しいだろうが」
「でもこの子の方が――」
俺が言い返そうとした瞬間、魔人は鬼気迫る雰囲気を携えて俺へと一気に詰めよる。
「だったらなおさらのことクリスマスなんざクソみてぇなイベントに浮かれていないで、さっさと本編進めてこのガキを救いに行けよ!!」
「――ッ!」
魔人は俺の襟をガッと掴み上げて言い放ち終えると、乱雑に襟から手を突き放す。
だがそのおかげて、俺は一つだけ気づいたことがある。
……そうだった。元々ぼっち以前に、俺にはもっと大事なことがあった。
「……くくっ」
「何笑っていやがる」
「いや、魔人に言われるまでもなく、そのつもりですよ」
そういうと俺はその場に背を向け、静かに立ち去ろうとする。
「……全部変えてみせる。ロレッタも、アクセラも」
――そして、何もできずにいるDランクの己でさえも。
はい、要約するとクリスマス糞くらえというお話でした。最後はかなりシリアスになって色々気になるところを残してしまいましたが、必ず回収してすっきりできるように頑張ります。少し早い予告ですが、年越し編ではシリアス無しでキャラ同士駄弁っていくお話になる気がします。




