超・番外編 ぶれいく・おぶ・わーるど ~クリスマス前編~
クリスマス編です。前後編に分かれています。世界観だいぶぶっ壊れていますご注意ください。
どうも、榊真琴です。今年も憂鬱な二日間がやってまいりました。
「クリスマス……畜生めぇ!!」
あのモミの木にぶら下がる装飾の数々が憎らしい。こちとら一人暮らしだからプレゼントも糞もないってのに。更に言うならそこらじゅうで二人腕組みしているカップル、普段はいないはずなのにどうしてこういう時に限って増殖してんだよ! どこから湧いてきたんだ!
「そしてこの天気だよ!」
この空から降りてくる白い低温の結晶体。何で力帝都市はわざわざ天候操って人工雪降らせてまでホワイトクリスマスなんて無駄に凝った演出してるんだよ!! おかげでこっちはひと月先にダッフルコートを出さなくちゃいけなくなったじゃないか!
「これではあの季節感ゼロの魔人やヨハンさんと同類みたいになってしま――」
「誰が季節感ゼロだゴラァ!!」
「ごはぁっ!」
何故か俺の隣の開いている空間からドロップキックが飛んでくる――って、あんたどこから聞いてたんですか!?
「クリスマス……畜生めぇ!! のところから」
「ほ、ほぼ最初からじゃないですか……ぐはっ……」
「で、どうする?」
「何がですか?」
苛立ちを募らせている俺は、普段は丁寧に応対している魔人に対してすら声に怒りを交えてしまう。だがそんないつもとは違う俺に魔人は引いているのか、いつもより少し押さえたような雰囲気でいる。
「なんでそんなにキレてんだよ……」
「今日の俺に、まともな応対を期待しないでくださいよ」
「お、おう……」
ああ腹立たしい。クリスマスという単語を聞くだけで虫唾が走る。魔人じゃないけど目つきもいつもより澱んでしまいますわ。
「……それはそうと」
魔人は今までの事が無かったかのごとく雰囲気を改め、そして俺の方へと一枚の手紙を差し出してくる。
「なんですかこれ」
「招待状だ。差出人はこの都市の市長二人。なんでも、力帝都市の全員を招待した立食パーティを第二区画で開くつもりらしい」
へぇ、そこにぼっちで行けってことですか。
「何言ってんだ? テメェにはラウラっていうペットが――」
「ペットじゃなくて、メイドですけど! ……でも、ラウラも何か国 に帰って一人暮らしの祖母の下で過ごすって聞いているし……」
「ロレッタはまだ登場していないって設定だっけか? ……なんつーか、とことんボッチだなテメェ。哀れすぎて魔人のオレですら同情しちまうぜ」
「えぇ……」
魔人の同情ってそんなに付加価値ありますかね……? それにさり気ないメタ発言辞めてもらえませんかね……。
「うるせぇ。世界観壊れているんだからどうでもいいだろうが、ったく……仕方ねぇ、少し話がこじれちまうが、無かったことにすれば話だしな」
な、なんか物騒な言葉がとぎれとぎれに聞こえてくるんですが……。
「オイ、榊真琴」
「はい」
魔人はどこから取り出したのか紙とペンで何やら書き始め、そしてその切れ端の紙を俺に渡してくる。
「テメェこの立食パーティに参加する前に、この場所に行ってちょっと少女連れてこい」
「えっ、ちょっとどういう意味ですか? それに誰を連れてくれば――」
「多分向こうから話しかけてくるだろうし、テメェはとにかく行って来い」
そうやって指示された場所は――
「――第一魔導大学付属女子中学校、校門前?」
◆◆◆
「――いやいやいや、それはない」
女子校の前で一人立っているとかそれなんて不審者? このままだとVPに不審者情報待ったなしなんですけど。
「もしかしてあの魔人、俺を茶化したかっただけ……?」
……だとすれば流石の俺も反転して、恐ろしい仕返しをしなければならくなりますなぁ……!
「こうなったら即座に反転して――」
「あっ! もしかして白髪のおじさんが言っていた『お兄ちゃん』ってあの人のことかな?」
お兄、ちゃんですと……? しかも白髪のおじさんってあの魔人のことでは……?
「……いやいやいや、流石にない――」
「ねぇねぇ、榊真琴くんって貴方の事?」
「いやそうだけど! なにこの無理やりとってつけたような展開は!?」
「別に今の編のロレッタが作者の中でヒロインに格上げしていいのかどうか未だに迷っているからテコ入れしてるワケじゃねぇぞ。ちゃんと色々考えて先行して登場させているんだからな。すぐにこいつも本編に出てくる」
「だからあんたは毎回どこから出てきてんの!? そしてメタ発言酷過ぎるんですけど!?」
確かに別の作品で番外編に先行して出てきた登場人物とかいたけどさ、そこまで露骨に言い訳する必要ないからね!?
魔人は魔人で本編よりある意味生き生きしているし……あーもう、世界観滅茶苦茶だよ。
「注意書き書いてるから大丈夫だ。多少はっちゃけても許してもらえる」
「そんなことねぇよ!」
「あっ、白髪のおじさんだ! おじさん、この人が『お兄ちゃん』になってくれる人?」
「だから白髪のおじさんじゃ――ってそんな事はどうでもいい。オラ、さっさと自己紹介しろ」
「あっ、そうだった」
しまったとでも言わんばかりに小声で言っているけど聞こえていますよ。とまあ小柄な年下の中学生のお迎えに行かされたわけだけど、割と可愛い……というより女の子になった俺よりも可愛い、のか……? 胸は中学生なだけに控えめだが。
いやそもそも女の子の時の自分と比較している俺も俺な気がするが。
そんな訳で身長とかその辺は普通に中学生なのに、何故か雰囲気と言動が子どもっぽい。そんなロングヘアーの少女が俺の前に立っている。
少女はさえない俺を見てにっこりと満面の笑みを見せた後、頭を下げると同時に元気よく自己紹介を始める。
「えーと、アクセラ=エギルセインですっ! 魔法をちょこっと齧っています! 今日はえすこーと? を、よろしくお願いしますっ!」
「……榊真琴です。宜しくお願いします――ってエスコートってどういうことですか?」
「どうもこうもそういうことだよ……つーか、大丈夫かこの二人。この後間違い犯したりとかしねぇよな?」
「あんたがブッキングしたんでしょうが!!」
という事で、本編未登場キャラがあと一、二名登場する、かも……しれません。ですが今あっている本編で出てくるか、そのすぐ後の編で登場する予定です。ご期待頂けるとありがたいです。良いクリスマスを。