第七話 幸せは来ないが不幸は向こうから歩いてくる
「――えぇっ!? マコちゃんてばまた厄介ごと抱え込んでいる感じなの!?」
「えぇ、まあそうですけど……てか男の時にマコちゃん呼ばわりは止めてくれませんか?」
「ったく、どうしようもないアホだな」
「右に同じです」
上等学院高校屋上にて、何故か俺は説教まがいのことを受けていた。緋山さんに之喜原先輩、そして珍しく澄田さんが昼休みを屋上で過ごしている。
で、緋山さんはというと、結論から言わせてもらうと『冷血』に勝利したとのことだ。なんでも、自分の身体もマグマや熔岩にすることができるようになったみたいで、それで体を凍らされずに済んだ上に、逆に『冷血』を地下千メートルの流砂の下に沈めたらしい。
流砂で沈めたのは流石にやり過ぎなのでは一瞬思ったが、冷静に考えたら緋山さんも一回氷像にされているんだしおあいこなのか?
「お前当初は目立たないようにするって言っていたよな?」
「でも厄介ごとが向こうから来られたらどうしようもないじゃないですか」
「……ハァァ、ったく……」
ため息つきたいのはこっちもなんですけどね。何が楽しくて秘密抱えた幼女を預からなくちゃいけないんですかね。
「そういえばその子は今どうしているの?」
「家でラウラに預かってもらってる。一応定期的にメールで連絡はくれているし、今のところ追っ手も襲って来ないみたいですし」
「そうか……それにしても、ヴラド家、か……」
緋山さんが神妙な顔つきをしているが、何か知っているのだろうか。
「外部の人間がどうして力帝都市に目をつけたんだ? 目をつけるにしても、理由が浅はかすぎる気がするんだが」
「フフ、緋山君に軍事関連のゴタゴタが分かるはずもありませんよ」
「だったらお前は分かるのかよ」
「さあ、どうでしょうねぇ」
相変わらず緋山さんを茶化すことにかけては之喜原先輩の右に出る者はいないよなぁと思いつつ、ラウラが作ってくれた弁当を口へと運ぶ……うん、うまい。特に卵焼きが甘くてうまい。
とまあ俺は今のところお昼休みを満喫しているが、緋山さんはまだヴラド家のことについて思案を巡らせている様子だ。
「ヴラド……ヴラド……何か最近聞いたことがあるような――」
「あらぁ? もしかしてワタクシの噂をしておいででしょうかぁ?」
「あぁん? ……誰だお前」
この屋上へと続く扉の方向に体を向けると、そこには同じ上等学院高校の制服を着た、そして見慣れない外国人の少女が扉に寄りかかっている。
「まさか上等学院の最強Sランクがこんなところでたむろしているなんてねぇ……驚きだわぁ」
「だからお前は一体誰なんだよ……」
「ワタクシ? ワタクシの名前はロザリンデ=ヴラド、超カワイイ系の女の子よぉ☆」
「っ! ……マジですか」
明らかに異質な少女が、俺達の目の前にいる。そしてさっきまで話題となっていたヴラドの名を語っている、
俺は小声で驚きながらも、ヴラドの名を名乗るもう一人の少女の方をじっと見つめる。そしてさっそく之喜原先輩がロザリンデに言葉で詰め寄り始める。
「……そのロザリンデ=ヴラドが何の用で? まさか宣戦布告に来たとでもいうのですか?」
「いえいぇ、転校生としてこの学校最強のSランクにご挨拶をと思いましてぇ☆」
「そうか……思い出した」
「何を思いだしたの? 励二」
「いや、昨日この学校に転校生が来たって話でよ、確かその時聞いたのがこいつの名前だって話だ」
「……そうなんだー」
「……なんでそんなに機嫌悪ぃんだよ」
そりゃ澄田さんの知らないところで他の女の人の話をしているとなっては、気分がいい彼女さんなんていないでしょう。
「ったく、時々お前はそうやって意味が分からないところで不機嫌になるよな」
「いいもん! いつか私が急にいなくなったりしても知らないから!」
「おいおい、そんなこと俺がさせるわけないだろ」
「……ほんとう?」
あーあー、いつものお惚気話は放っておくとして、俺にとってはロザリンデの方が重要案件なんですけど。
「あらあらぁ、随分とお熱いみたいねぇ」
「緋山さんのことはどうでもいい。それよりあんた、何の用でここに?」
「だーかーらぁ、この学校最強のSランクにごあいさつに来ただけよぉ」
「チッ……わざわざ俺に挨拶か。だったらさっさと失せろ」
いや失せなくていいです。もう少しいてもらって、用件ついでにポロリとヴラド家のことをばらしてもらったりとか――
「――ノンノン、実はワタクシ、聞きたいことがありましてぇ」
「ハァ、ったく何の用だ?」
そこでそれまでふざけていた雰囲気のロザリンデが、一瞬にして張りつめた空気をその場に蔓延させる。
「――実はちょっと、義理の妹を探しているのでしてぇ」