第三話 わーおテロリスト匿っちまったよ☆
「えっ? どういうこと?」
何か血が凝固して武器になったんですけど!?
「これが私達ヴラド家に伝わる力……人間の血塗られた歴史と共に歩んできた力です」
全くもって意味が分からない。そんなちんぷんかんぷんな俺をよそにして、ラウラはロレッタの言葉の意味を理解したのか、ロレッタに問いを投げかける。
「……つまり、人間が作り出した兵器を模することができるという訳か。その気になれば、この場にアサルトライフルの一挺や二挺出すことも可能だ、と」
「はい、その通りです。お望みとあらば、核兵器ですら精製可能です」
「な、なーるほどね!」
とりあえず、ラウラが知っているという事はまさしく軍事関連のお話ってことになるのかな? それにしてもライフルだの核ミサイルだの物騒な単語が俺の目の前を飛び交っているんですけど――
「それで、ヴラド公がわざわざこの力帝都市にいるという事は、この都市で戦争が起きるという事を示唆しているという事で合っているのだな? だからこそ理由を喋る事が出来ない、という事なんだな?」
「…………」
すっげー、なんかよく分からないけどロレッタがここにいる理由をこの時点で聞き出せそうな勢いなんですけど。
「……喋らないのなら、今からでもここから――」
「いやちょっとそれは――」
「真琴さん」
ひぃ、ラウラから睨まれた!
「ひゃ、ひゃい!」
「これは、貴方を守るためでもあるのです」
「……そ、それで?」
「何度も言っていますように、このヴラド家は戦争屋であり、戦場に現れる死神――私のような紛い物ではなく、戦場で見つかると本物の死神のように忌み嫌われる存在なのです」
「そ、そうなんだ……」
あれ? ってことはこの前のラウラの過去の話に出てきた少年はヴラド家だったりするのかな? いや違うか、アレは別に忌み嫌われていそうな感じじゃなかったし。
「事情が変わった以上、今すぐにでも口を割ってもらおうか」
「……分かりました」
おおう、なんと無理やりな方法。だけど現時点で口を割れたのはラッキーかな。気になっていたところでもあるし、今のうちに聞いておこう。
そう思いつつも俺はロレッタの方を見やると、ロレッタは観念した様子でその小さな口を開き始めた。
「……私は本当はここで爆弾になって、力帝都市を破壊する予定でした」
タイム。やっぱ聞かなきゃよかった。
「えぇっ!? ちょっ、待っ、えぇーっ!?」
「くっ、やはり危険だ!!」
「ちょっと待ってラウラ! ここで下手に撃ったら、爆弾だから爆発するんじゃ――」
「大丈夫です。今は爆弾でもなんでもない、ただのロレッタです」
状況を整理しよう。ヴラド一族の持つ能力は『血戦』。人間の作りだした兵器を自らの血で再現できる力だという。そしてヴラド一族自体は戦争を裏で糸退く戦争屋。其れでもって、このロレッタとかいう幼女はここで爆弾になって自爆するつもりだったってことで――
「――てか、爆弾になるって事は自爆するってこと?」
「はい」
「…………」
俺は数泊おいて無言で後ずさりした。まさか、そんなはずがないでしょ!?
「そういう芸当できるのその能力!?」
「はい。ヴラドの血さえあれば、制限は付きますが一族でない外部の人間でも同じ芸当はできます」
「それはつまり、いま世界で公表されている核兵器の数など実在するものだけであって、潜在的には頭数聞いくらでも用意できると?」
「そうなります」
……世界オワタ。
「ってかそれってSランク級の力なんじゃ……」
「Sランク、とは?」
あ、あれ? 能力を持っているってことは力帝都市のこともSランクのことも知っているんじゃないの?
「……もしかして力帝都市のこと知らない?」
俺が少し小ばかにしたような聞き方をしたのがまずかったのか、ロレッタは不機嫌そうに頬を膨らませて俺に向かって言い返してくる。
「知っていますよ! 私達みたいな力を持っている人が沢山いるんでしょう!? 商売敵だからここで爆発して来いって言われているんですから!」
「いや別に力帝都市はそういう目的じゃないだろうし……」
「じゃあなんで私がここに派遣されたんですか!」
「いや知らないよ……」
とにかく元々は爆発して力帝都市にダメージを与える目的だったっぽいけど、何らかの理由で俺のところに逃げてきたってことか?
「じゃあもしかしてさっきのオオカミってヴラド家の人間だったりするワケ?」
「知らないです。あんな力、ヴラド家に持っている人なんていませんから」
だとすれば力帝都市側の刺客? そうなると俺って結構今ヤバい状況なんじゃないか?
「うーむ……」
「どうしましょうか。やはり子供とはいえここで始末すべきでは――」
「それは無しで。俺はそういうのは嫌いだ」
「分かりました。ではどういたしましょうか」
ひとまず一晩は泊めておこう。何なら明日、緋山さん経由で魔人にでも相談すればいいだろうし。