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第一話 追跡者

「……うわ、凄いことになってるな」

「? どうされたんですか?」


 日も沈み、夕飯も終えたころ。キッチンで一人のメイドが皿洗いをしている。

 結んだ髪に右目には眼帯、そしてお決まりのメイド服。それが今のラウラ・ケイのフォーマルな服装である。カルロスの一軒から殺し屋から足を洗って、今は俺のメイドとして正式に雇われている。

 そしてあの一件から俺のマンションの隣が空き室だったことをいいことに、ラウラを隣に住まわせている。まあメイドらしく普段は俺の部屋で家事をしてもらって、寝る時ぐらいに戻ってもらっている程度だが。

 そしてあの一件から三日と立たないうちに、俺の目の前で既に異常事態が起きている。

 ……力帝都市では当たり前のことだが。平穏な日々の方とスリルのある日が今のところ五分五分ほど、Dランクの時からは想像もつかない日々を送っている。


「外を見ておられるようですが」

「ラウラも見てみてよ。あの月、ちょっと異質じゃないか?」

「それでは失礼して……確かに、ちょっとおかしいですね」


 闇夜に浮かぶ満月。だが少し様子がおかしい。

 ――血のように真っ赤に染め上げられた満月は、見る者に一抹の不安と恐怖を植え付ける。

そう、今の俺のように。


「なんか、不気味じゃないか?」

「ええ、確かに……」


 その時だった。

 ――ピンポーン。


「ッ!」


 時刻は既に九時を回っている。緋山さん達なら事前に連絡が入るだろうし、それ以外の知り合いでもこの時間帯にわざわざ呼び鈴を押す人なんていない。

 ……あの魔人も、来るなら唐突に部屋に現れるだろうし。


「……私がでましょうか?」

「確かに、もし敵なら相手は俺一人と思っている筈……だけど、俺がでるよ」

「何故です?」

「なんとなく、大丈夫そうだから。……まあ、いざという時はお願いするかもね」


 ラウラの腰元に控えている二挺のショットガン――通称デスサイズショットガンは、俺が反転によって改造したことによりリロードが必要ない無限弾倉のバケモノと化しているから、多分大丈夫だろう。

 そう考えながら、俺は玄関のドアを開ける。


「どちらさま――って、誰もいない……」


 俺の目線の高さには誰一人立っていない。

 このご時世にピンポンダッシュか? などと思いながら、扉を閉めようとしたその時――


「あのっ!」

「ひゃいっ!?」


 どうやら相手は明けたドアの後ろに隠れていた様子で、その姿をドアの後ろから表し始める。


「た、助けてください!」


 見ると黒髪の幼い少女が息を切らしながら俺の足にしがみついて、助けを求めてくる。


「追われているんです!」

「えっ、ちょっと何から!?」


 能力を使おうにもここだと誰に反転を見られているか分からないから使えないし、かといってこのまま助けられるはずもない。


「あそこにいます!」


 少女が指を指した先――そこには巨大なオオカミらしき獣が、明らかにこちらに向かって殺意をむき出しにして唸っている。


「もしかしてあのオオカミ!?」

「このままだと食べられてしまうんです! お願いです! 助けてください!

「助けるって言ったって――」

「真琴さん、ここは私にお任せを」


 廊下にその身を曝け出すなり、ラウラはその両手のショットガンの引き金を躊躇なく引き続ける。これにはさすがのオオカミも身の危険を察知したのかその場から退散し、どこかへと姿を隠して逃げていく。


「仕留め損ねました……追いましょうか?」

「……いや、今はいい。それよりこの子から、色々と聞きだす必要がありそうだ」

 という事でいきなり怪しい雰囲気で巻き込まれた状態からスタートです。時系列的にはパワーオブワールドでは穂村正太郎が二週間の昏睡に陥っている間に起きた出来事という事になります。

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