番外編 ぶれいく・おぶ・わーるど ~性転換編 その1~
完全に一発ネタ回です。世界観崩壊注意。
清々しい程の青空のもと、ある時俺はふと思った。我ながらとんでもない発想だ。
「――この世界の全員を性転換させたらどうなるんだ?」
街中を歩いてふと思いついたにしてはああ恐ろしい。自分の天才的な頭脳に震えが出てくる。
「気になる……気になるなぁ~」
だがこれには一つ問題点がある。今の自分は女の子に性転換することで能力を発揮してきたが、世界を反転させた際にどうなるのであろうか。
「男の子の時に能力を使えるようになるのか……? 矛盾して能力が使えなくなるとか、そんな事はないよね……?」
困った……リスクが出てきた。
「……えぇーいままよ! いざとなったら魔人とかその辺が何とかしてくれるはず!」
俺は思い切って、空に向かって両手を掲げてこう叫んだ。
「――性転換せよ!!」
その瞬間、俺の周りの世界が一瞬だけ眩く光り、目を覆う事となった。
◆◆◆
「――どうなった?」
あたしは……あれ? 女の子のまま?
「……もしかして、失敗した?」
本当に全体にかかっているなら、今のあたしも男の子に戻っていてもおかしくはない筈。
「はぁ、なぁーんだ、失敗した――」
「おい、榊!」
あたしが肩を落としていると、すぐ後ろから聞きなれない少女の声が聞こえる。
「へっ? えぇーっと……誰ですか?」
「はぁ? あたしだよ、あたし。あんたと同じ学校の先輩の緋山励美だってば」
「ひ、緋山さん!?」
言われてみれば顔つきとかどことなく緋山さんのような気が――って、女の子になるとロングヘアーになるんですね緋山さん。
「…………」
「……ん? どうしたの? あたしの顔に何かついてる?」
「いや、別にそういう訳じゃないんですけど……」
緋山さん女の子になると意外と可愛くなるんですね……あたしはまたてっきりあの顔つきに髪型が変わるだけかと思っていたんですけど。
「ところで澄田さんの方は――」
「ああ、詩乃ね。詩乃なら――」
「ごっめーん! もしかして待っちゃった――って、そこにいるのはマコちゃんじゃん!」
なんとも無邪気で活発そうな少年が出てきたが――もしかしてこれが澄田さん?
「あ、ども……」
「いつもうちの励美がお世話になってます!」
「だからあんたはあたしの父さんじゃないんだから……」
「へっへー、でも彼氏だもんね!」
「っ、そりゃそうだけど……」
うーん、こりゃ新感覚。顔を真っ赤にする緋山さんに萌える日が来るとは思わなかったわ。
「っと、ごめんな榊。これからちょっと詩乃の買い物に付き合わなくちゃならないから――」
「ごめんねーマコちゃん」
「ぐっ、マコちゃんマコちゃんって、あたしには何もなしかよ……」
「はいはいごめんごめん、励美ちゃん」
女の子になった緋山さんって嫉妬するタイプなんですね……っと。
「って、緋山さんが女の子になっているってことは、あたしの実験は成功ってことか!」
テンションが高くなったあたしはその後も性転換した知り合いを見つけようと、その場を歩き始めた。
すると意外な面子と顔を合わせることになる。
「あっ、てめぇは!」
あたしを見つけるなりずかずかと歩み寄ってきたのは、男用の学生服をまるで特攻服のようにボタン全開で着こなす不良っぽい少女だった。
「はい? えぇーと、あたしにそんな物騒な知り合いいなかったはずですけど――」
「あぁん? てめぇ、この『焔』に喧嘩を売ったのをもう忘れたのか?」
ってことは、コイツが穂村正太郎!? えぇー!? こんな黒のチューブトップ一丁に学ラン羽織った貧乳不良女が穂村ってこと!? 言われてみれば目つきの悪いところとかあいつそっくりだけどさー……。
「……それにしても貧乳の癖にチューブトップって、色気ゼロだなぁ」
「いっ!? い、色気なんかあたいに必要ねぇんだよデカ乳女!! 胸が大きい方が女としてのランクが高いとでも言いてぇのか!?」
はいはい、お決まりの不良の癖に初心な反応ありがとうございます。しかも貧乳コンプレックスとかごちそうさまです。
「とにかくあたしの方は別に要はないんで――」
「あたいの方は用があるんだよ、この女装野郎」
「えっ!? な、なんで女装野郎なんですか!?」
「てめぇあたいから逃げる時にどうしてか知らないが途中から背姿が男に変わっていっただろ? 忘れたとは言わせねぇからな」
えっ、ちょっと待って、もしかして最初の反転の時も性別が反転されているの!?
「レディースダストに所属している奴が実は男だったなんて、バレたらどうなるのか分かっているのか?」
「い、いやだからそれは――」
「あっ! せなみーつけた!」
「はっ!? なっ、お前、家から勝手に出てくるなと言った筈だぞ!?」
「でもお兄ちゃんがせなをさがそうって言っていたぞ」
「ったく……なんでよりにもよってこっちが圧力かけてる時に出てくるんだよ……」
せなってことは、穂村の元々の名前からして正奈って呼ばれているのかな。それにしても銀髪のショタっ子二人になつかれている不良少女って、薄い本にありそうな展開ですなぁ。
「お前ら、さっさと帰れ!」
「やだ! 今日はせながお外でご飯食べさせてくれるって約束だぞ!」
「だから、家で待ってろって――」
「もうじかんもいちじ? を過ぎているぞ! お腹へったぞー!」
「クソッ!」
おやおや、女の子がクソとかはしたない言葉を使うものじゃありませんよ。
「女装野郎、この勝負は一旦お預けだからな! 見つけ次第またあたいが問いただしてやるからな!」
「せなー、ごはんー」
「うるさい! とにかく、覚悟しておけよ!」
……なんか、そっちはそっちで大変みたいですね。
「この分だと、いつもの女子会――もとい、男子の集まりに出るのが怖くなってきたんだが――」
◆◆◆
「――遅かったじゃないですか!」
「榊くん、待ってたよ」
念の為男に反転できるかどうか事前に確かめたうえであのちっこいがきんちょが恐らく守矢なのだとして――
「――あんた誰だよ!?」
「ひ、酷いよ榊くん! ボクだよ! 栖原茜だよ!」
名前そのまんまだけど、男の子っぽい女の子から女の子っぽい男の子になっているんですけど。
「あ、ああ……ごめん、可愛い女の子が座っていたから誰かなーなんて思っちゃって……」
「やっぱり……ボクなんて、男の子に見られないんだ……」
あぁーくっそ! しょんぼりしている姿が余計に可愛いしぐさになっているんですけど!
「今日は詩乃くんは緋山さんとデートだそうで、今日のメンバーはここにいる三人だけみたいです」
「まったく、あの二人の惚気っぷりには毎回毎回頭が痛いですよ!」
こっちはそれを性別逆転した状態で見ているんでダメージも二倍ですよ。
「で、今日のところは駄弁って終わりって感じですね」
「そ、そうなんだ……」
ともかく、この場は適当に過ごして家に帰るとしよう。そしてできれば早めにこの反転を戻さなくては。
◆◆◆
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、榊お嬢様」
って今度こそ誰だお前はー!?
「おや? 私ですよ。貴方の執事、ラウラ・ケイですよ」
あんたも名前変わんない代わりに外見がとんでもないことになってんなおい! なんだよこの爽やかイケメン執事は! あたしとどう考えても釣り合わないっつーの!
「……あー、もう疲れた……」
「? もうお眠りに?」
「うん。おやすみ」
さて、朝起きたころには全部元通りに――って、あたしの布団に当然のように添い寝で入ってくるんじゃねぇー!!
「やっぱり元の性別の方がよかったかもー!!」
さて、全員性転換させるとどうなるか、少しでも楽しんでいただければ幸いです。次回からは新しいお話へと入っていきたいと思います。頑張ります。