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第三十四話 誰にも譲れない

 ――これでようやく、俺達の戦いは終わった。


「……はぁ」


 全てが終わった今、俺は氷のオブジェの前でため息をつかざるを得なかった。


「とうとうあたしも、本気で相手を倒す気になるなんて……」


 まっ、本気を出すには十分な理由なんだけどね。こっちだって緋山さんを凍らされたんだから同じ目に合わせて当然ってとこかな。


「さて、戻ろっかな」


 そろそろ緋山さんを解凍させないと、あのまま冷凍保存されちゃいそうだし。



          ◆◆◆



「励二……すぐに出してもらえるからね」

「出すかどうかはオレが決める」

「もう! 約束破り!」

「だからこれは――どうやら帰ってきたようだな」

「ッ! マコちゃん!」


 緋山さんが氷漬けにされているその周りで、澄田さんと魔人が俺の帰りを待っていた。


「帰ってきたってことは、少なくとも殺されずにはすんだってことか」

「それどころか、逆に氷漬けにして帰ってきましたけどね」


 俺のその言葉を聞くなり魔人はポカンとした表情を浮かべ、そしてその後に大笑いし始めた。


「あいつを、逆に……? ……クックック、クカカカカ、ギャハハハハハァ! そ、それ、超笑えるなぁオイ」

「笑いごとはどうでもいいですから、約束通り緋山さんを元に戻してください!」

「ククク・……いいだろう。だが、その後に奴の言う事に文句を言うなよ」


 ん? どういう意味だ?


「どうでもいいからさっさと解凍してくださいよ。それともあたしがした方が――」

「いや、面白いことを聞かせてもらった礼として、今回特別にオレがしておいてやるよ」


 そういうと魔人は右手に深紫の炎を宿らせ、それでもって緋山さんが中で凍っている塔ごとまとめて焼き払い始める。


「ちょっ!? 何やっているんですか!?」

「ナニって、溶かしてやってんだろうが」

「励二が死んじゃうよー!」

「この程度の炎で死ぬヤツに炎熱系最強を名乗って欲しくねぇなぁ」


 火種がないにもかかわらず紫炎は途中で燃え尽きることなく氷の塔を覆いつくし、そして全てを蒸発させていく。


「あー、後十秒で脱出できなかったら死ぬな」

「誰も殺してくださいなんて言ってないんですけど!?」

「溶かしてくださいしか聞いてないんですけどぉ?」


 あーもう、ほんっとうにこの性格最悪の魔人!


「こうなったらあたしが反転させて――」


 俺が右手を前に掲げた瞬間、紫炎を消し去るかのように砂嵐が吹き荒び始める。


「……フン、面白くない」

「――面白くねぇのは、俺の方もだ」


 砂嵐が消え去った跡には、俺のよく知る一人の男の姿があった。


「緋山さん……大丈夫でしたか?」

「ああ……何とかな」

「よかった……励二、本当によかったよー!」


 涙を流して胸に飛び込む澄田さんであったが、緋山さんの方はというと何か納得がいかないような、不満を抱えた眼差しを魔人に向けている。


「どうして俺を助けた?」

「おっ、やっぱりそう来るよな」

「当たり前だ。あれはあんたから言い出した契約なのに、あんたのほうから破るなんてな」

「そりゃ新しい契約が来たからな。なぁ榊マコ」

「えっ? 契約って――」

「アァ言っていなかったか。オレとの約束はたとえ口約束でも契約になる。そして絶対に守られるようにしている」

「えぇーと、つまりあたしが『冷血クルエル』に負けいたら、あたしは殺されていたってこと?」

「アァ、もちろん。例え死んでいても生き返らせたうえでもう一度殺してやるところだ」


 う、うわぁ……何かいつの間にかとんでもない契約結んでいたんですね。


「そ、それにしてもどうして浮かない顔をしてるんですか?」


 俺は単刀直入に、緋山さんが何故そんな表情をしているのかを聞いてみた。

 すると緋山さんは一つ大きく息を漏らした後、まるで俺が悪いかのような言い方で愚痴を吐いてきた。


「……あいつを倒すべきのは俺であって、お前じゃなかった。別にお前のことを悪く言うつもりはねぇし、本来なら俺はおまえに礼を言わなくちゃならねぇ……ただ弱かった自分に苛立っているだけだ」

「なんで、そんなの関係ないよ! 私は、励二が無事なら――」

「俺が無事だったとしても、詩乃を守れなきゃ意味がねぇ。そうだろ? 魔人」

「よく分かってんじゃねぇか」

「だったら俺が今から何をしに行くのかも分かるよな?」

「ククククッ、当たり前じゃねぇか」


 緋山さんはそういうと俺達から背を向けて、事もあろうに俺がたった今戻ってきた方向へと足を進めようとしている。


「ちょ、ちょっと緋山さん! あんた何をしようと――」

「分かっているなら、止めるなよ」

「だってまたあいつと戦う気なんでしょ!?」

「ああ」

「もう終わった事じゃないですか! なのに――」


 緋山さんは振り向いて俺の肩に手を置くと、フッと初めて俺の前で笑った。


「終わった事だ。だが俺にはまだ終わっちゃいねぇ」

「だから、あいつは――」

「いいか、これは俺の意地だ。止める必要はねぇ」

「でも澄田さんを置いてどうするつもりで――」


 そのまま俺が説得する間も無く緋山さんは砂となって風に乗り、そして一つの言葉だけをその場に残していく。

 ――心配すんな。ただのガキの喧嘩だ。


「……はぁ、もう氷漬けにされてもあたしは知りませんよ」

「安心しろ。次に負けやがったら、オレが粉々に砕いてやるからよ」

「ちょっと待ってよ二人とも! 励二が、励二が――」


 澄田さんは俺と魔人に文句を言っているけど、誰しもがもうああなったら止まらない。


「大丈夫ですよ澄田さん。緋山さんなら、帰ってきますから」

「で、でも――」

「じゃあ逆に聞きますけど、緋山さんがあたしでも勝てた『冷血』に負けると思います?」

「……思わない」

「じゃあ、帰ってきますよね?」

「……うん。私、待ってるから」


 はぁ……全く、男の意地ってやつは俺のような元Dランクには到底理解できない。だけど――


「――大切な人のために戦うための照れ隠しってことくらいは、分かるかもなぁ」

という事で発作する力編は終わりで、後はEX話で各伏線を回収&次回予告的な伏線針をしていきたいと思います。

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