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第三十三話 逆転劇

「グギャギ……ギャガガガガガァ――――!!」


 ――俺の一撃が、『冷血』の奥に潜んでいた眠れる龍を叩き起こしたらしい。


「……ちょっとやりすぎちゃったかなー、あはは……」

「グオゥアァアアアアア!!」


 咆哮と共につららがまき散らされ、俺は強制的に距離を取らされる。更に龍はその姿こそ龍であるものの、動き自体はあの這いまわるような人間の動きでもって、俺の方へと走り寄ってくる。


「気持ち悪いんだっつぅの!!」


 俺はレーザーブレードをふりまわして敵との距離を取ろうとしたが、俺が集めた熱エネルギーなど、絶対零度の肉体の前ではすべて無意味だった。


「グオァアッ!!」


 とうとう熱エネルギーも切れた俺に向かって、氷の龍は前足で押し潰そうとした。だが何もブレードが効かなかった場合の対策を打っていない俺では無い。


「くっ、交換(チェンジ)!」


 俺と龍の背後にある自動販売機の位置を反転、俺の代わりに無実の自動販売機が音を立てて踏み潰され、墓標代わりに氷の柱がいくつも地面から突き上がって生えてくる。


「うへぇ、ベキベキに潰されているし」

「ゴガァ!」


 龍は自分が潰した者に首を傾げたが、俺の声が背後から聞こえるなり背骨を延長させたような氷の尻尾でこっちを弾き飛ばそうと振り回してきた。


「マジ全身凶器だわ!」


 凶器であり狂気の沙汰である。肝心の龍の心臓ともいえる『冷血』の身体は奥深くにあるようだが、全身が氷や氷柱つららでできている龍の肌にさえぎられ、真面な方法じゃ触れることも出来そうにない。


「攻防一体……ある意味最強かも」


 やはり遠くから熱エネルギー弾を――


「ォォォオオオオオァアアアア……!」


 あ、ダメだ。何かダイヤモンドダストな感じの氷のブレスを吐いて一瞬で辺りを凍らせまくってる。


「逃げれば吹雪で凍らされて、近づけば氷柱で串刺し……しかもあのブレスだとよっぽど高温のものじゃないと通用しなさそうな気がする。

「どうしよっかな……衝撃反転で自滅させるべき……? いやいやいや、あたしが逆の立場なら破壊した部分から速攻で凍らせて修復させて、同じ轍を踏むようなことはしないはず」


 だとすれば狙いは低温のブレス。これなら向きと温度を反転させれば一気に逆転できる。


「更に仕上げに熱エネルギー弾を生成しておこう」


 念には念を入れて、完全勝利を目指す。俺はまず距離を取ってわざと敵の前で熱エネルギーを再び収束させ始める。


「グォオオオオオァアアアアアッ……!」


 もちろん当たり前だがそれを制止させようと吹雪の様な荒々しい龍の息吹ブレスが飛んでくる。


「掛かったね! あたしの狙いはそっち!」


 即座に氷のブレスを反転、爆炎が龍の口に逆に襲い掛かる。


「ゴァアアッ!?」


 舌を火傷したかのように、燃える口元を両手で凍らせて一気に鎮火する。すると――


「はぁ、本当にバカねあんた。そんな急な温度差を与えると――」


 ――氷にヒビが入るよ?


「ッ!?」


 文字通り氷の龍の全身にヒビが走り、あれだけ堅固だった鎧が一気に脆くなっていく。


「それを叩き潰すのが、あたしのやり方!!」


 軽い拳を反転!!


「一気に決める!!」


 ――砕けろ(ブレイク)!!


「ゴギァッ!!」


 背中から氷を砕き、その奥に潜む『冷血』に車の衝突のごとき重たい一撃を叩きつける。


「ガッ、は――」

「追加でもう一発!!」


 その場で更に二撃目を背後から加え、そのまま地面に拳で叩きつける。

 地面は割れ、辺りには氷の代わりにアスファルトの破片がばら撒かれる。


「これで終わり――ぐッ!?」


 またも遅れて、鈍い痛みが俺の全身を駆け巡る。


「い、いつの、間に……」

「ククククク……」


 『冷血』はその冷静な判断でもって、手元に落ちていた氷の破片の鋭い刃先で俺の心臓を貫いていた。


「テメェも逝っちまいなぁ!!」

「ハハッ、ここに来てまともに喋っちゃうワケ?」


 『冷血』は氷の破片をわざと強く握り、手から血を流す。すると氷の破片は成長し、俺の身体を徐々に徐々にその絶対零度で蝕んでゆく。


「あー、こうやって緋山さんも凍らされたんだ……」


 心臓から首にかけて凍り、氷は一気に全身に侵食していく。


「……もう少しだったのになー」

「……クヒヒッ」


 俺の最期の言葉を聞き終え、もう一つの氷のオブジェが出来上がった途端、『冷血』は狂ったように笑い始めた。


「クヒャヒャヒャ、ヒャーハハハハハハッ!!」


 『冷血』は自身の完全なる勝利を確信した。このSランク同士の戦い二連戦を、完全に制覇したのだと確信していた。

 だが――


「――ふぅ、今頃どんな幻想を見ているんだろうね」


 ――だが、現実に凍って動きを止めているのは『冷血』ただ一人だった。『冷血』は不気味な笑みを浮かべたまま、自らを凍らせてその動きを止めている。

 ギリギリで必殺せず(アンデッド)を発展したものを考え付いておいてよかった。はっきり言ってこれを思いつかなかったら、凍っていたのは当初の通り俺の方だっただろう。


「……死返し(デッドリバース)


 自分の必殺の一撃を喰らうって、どんな気分なんだい?

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