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第三十一話 化けの皮を剥がすととんでもないものがたまに出てきます

「さぁて、次はどうやってあたしを殺す?」

「…………」


 相変わらず反応がないっていうかあっぶねー、意識が飛ぶ前で良かったー。てか今ので学習したわ、もし意識が飛んでいた場合の方の反転も仕込んでおかないと本当に死ぬ。


「無言で来られるとあたしの独り言みたいで虚しいんだけど」

「……………」


 ……どうやら先に化けの皮を外す必要がありそう。


「それにしても、随分と寒くない? ここら辺」


 そういうと俺は凍った地面に手を当て、その0℃を肌で感じ取る。確かにあいつの足元から伝って来る冷たさが、この辺り一変を銀世界へと変えようとしている。

 現にあいつが辻斬りをして通り過ぎた瞬間、俺は凍えることによって痛覚を失っていた。

 まあ綺麗に斬られたせいで一瞬切られたか分かんなかったのもあるんだけど。

 とにかく、こんな寒々しいフィールドで相手に有利なまま戦わせるつもりは毛頭ない。冷たいとこっちの動きも鈍るのもあるしね。

 というワケで。


「――反転せよ(リバース)

「ッ!?」


 凍った世界は、俺の一言で一瞬にして熱の世界へと変えられる。1


「プラス100℃の世界へようこそ」

「ッ……!」


 おっ、ようやく苦々しく歯ぎしりしてくれたね。それでこそ俺が目の前に立つ意味がある。


「さあ、本気でおいでよ。あたしも緋山さんの借りを返すためにちょっとばかし本気を出すから」

「…………」


 相変わらず無言――っていうか、顔の表情まで凍りついている感じ? 無表情のままだし。


「……シッ!!」


 だが確実に、自分と戦うに値する敵と認めてくれたようだ。


「おっと! 二度もくらわないよ!」


 一度目と同じ、刀で頸椎を狙って一突き。そして続けざまにこちらの足を奪おうと氷の刀を地面に突き刺す。


「すっご! ささった先から凍り始めているし!」


 それにしても遠距離から攻撃を仕掛けてこないとなると、身体強化フィジカルチューンか? それとも遠距離技を隠しているだけか?

 そして何より感心したのは(寒心したとも言えるけど)突き刺した氷の刃はそのまま引き抜かずに自らの手でへし折り(この時グロい事に手を切ってるんだよね)、そして新たに刃を生成している。更に突き刺した刀からは延々と地面を凍らせ続けている。


「そうやって徐々にこの辺一帯を凍らせて言った感じ!? 中々怖い能力だねそれ!」

「…………」


 すると今度は刀を振りかぶり(この時も何故か刃に手を這わせて血を擦りつけながらも軽く刃を折ってるんだけど)、今度は刀を振りぬいてその刃を飛ばしてしてきた。


「へぇっ!? そんな使い方あり!?」


 俺の驚愕にすら何の反応も返さずに『冷血クルエル』は次々と投刃を繰り返し、辺りを一瞬で元の氷の世界へと戻していく。


「っ、自分の能力を熟知している感じかな!?」

「…………」


 それにいても防戦一方で中々手出しができないのが俺としては悔しい。まあSランクだけあって隙をさらさないのが普通なんだろうけど、それにしても何もできないのはコッチの心の余裕もなくなっていく。


「こうなったら少しだけ退散!!」


 俺は即座にその場から退避し、少しだけ落ち着きを取り戻してから再び敵の下へと向かおうと算段を立てた。


「何か武器が無いと……そうだ!!」


 武器持っていて貸してくれそうな人が一人だけいた!



          ◆◆◆



「――ってなワケでショットガンを貸して!」

「何故そうなる……」


 ラウラがいない所からいる所へと自分を反転させれば一発。というかこの能力あれば瞬間移動テレポートいらないな。


「とにかく駄目だ」

「どうして?」

「どうしてって……武器の扱いも知らない上に、そんな規格外の改造品を――」

「現在では製造を中止されているはずの4ゲージ口径のショットガン。チョークはモデを採用し、主に近距離中距離でその威力を発揮。更に特注のバックショットにより人体に一度に44発の穴を開ける。戦場の死神が好んで使っていることから、ついたあだ名がデスサイズショットガン。まあ即死できる大口径(デスサイズ)ってのもあながち間違いじゃないかも」

「……な、何故知っている?」


 知らないなら知っていると反転させればいい。すぐに知識を得ることが出来る。


「これ借りていくね」

「まっ、待て! それでも常人が一発撃てば肩が外れ――」

「大丈夫だいじょうぶ」


 ――能力者が常人なワケないじゃん。



          ◆◆◆



「…………っ、ッ!」

「やっほー! 戻ってきたよー!」


 駆けつけ二発、地面に二つの小さなクレーターができる。

 『冷血クルエル』はというと、その名の通り冷静にその場を回避していた。確かにいくら剣の達人でも、迫りくる44×2、88発の鉛玉を全て斬り捨てるなんて真似ができるはずもない。


「どう? あたしのメイドから借りてきたんだけど、更に改造して弾が装填されている数を有限から無限にしてみたんだー」


 つまりリロード無しで延々と撃ち続けることができるという事。


「これで互いに武器を持つことができたし、今度こそ本気でりあおうよ!」

「…………」


 相変わらず返事はなし、か。それも一興。


「だったら無理やりにでも喋らせてあげよっか!」

「…………」


 今度はこっちがやり返す番。飛んでくる刃を左手のショットガンで全て撃ち落とし、お返しに右手のショットガンを乱射して『冷血』を後ろへ後ろへと下がらせていく。


「ホラホラぁ、下がってばっかりじゃ何もできないよぉ!?」


 さっきまで自分がやられていた分倍返しにしてやる!

 敵もとうとう防戦に入ったのか、氷の刃を飛ばさずに右手の回避に集中するように。


「本当にそれでいいのかなー?」


 俺は両手のショットガンを目の前に突き出し、狙いを『冷血』へとキッチリ合わせる。


「さっきの二倍だよ!」


 暴力的な発砲音と薬莢が絶え間なく落ちる音が、交響曲アンサンブルを奏でる。相手も防御に徹するだけあってか、今まで凍らせていた壁や地面を滑るようにして移動し、狙いを定めさせまいと高速移動にかかっている。


「確かにこりゃいちいちマグマを発生させて追いつくスピードじゃないかも。だけど今あたしが持っているのは、高速の弾丸を放つショットガン」


 狙いを定められないのなら、定めなければいい。ただし、辺り一面を掃射して全てに穴を開けてやる。


「ここまでやるんだから、耐えてみせてよね!」


 ――全方位一斉掃射(ジェノサイドサークル)!!


「アッハハハハハハッ!」


 視界に入るもの全てを見境なく撃ち抜き、破壊する。辺り一面に無限に近い鉛玉がばら撒かれる。建物、標識、信号機、舗装された道路、道端の花壇。俺を中心にして全てを破壊していく。

 そしてひとしきり撃ち抜いた後、俺はだらりと両腕を下げてその場に一人立つ。


「あーおかしかった。銃撃つのって意外とストレス発散になるよね――って」


 肝心の『冷血』は?


「どこ!? どこにいるの!?」


 俺が丁度真後ろを振り向いたところで、俺の視界の先に膝をついて顔を押さえる『冷血』の姿がそこにある。


「……もしかしてヘッドショットしちゃった系?」


 だとしたら死んじゃうんだけど……まあ緋山さんを氷殺ひょうさつしたんだし一度や2度死んだくらいで――


「クククク……」

「へ?」


 今笑った?


「ハハハ……ヘハハ、キャハハッ!」


 やばい。肩震えているし、変な笑い声が聞こえてくる。

「ギャーハハハハハハハハァ!!」


 『冷血』は顔から右手を外して、天を仰ぐかのように大笑いをした。右手のひらには一切血がついておらず、代わりに氷の小さな破片が見える。


「クックククク……」


 そうして俺と『冷血』はついに、本当の意味で目があった。

 ――その顔は割れていた。いや、違う。顔の表面に張っていた氷が、あいつの感情を凍らせていた氷が、俺の鉛玉によって割れたのだ。

 そしてそこに見えるのは、『冷血』が今まで氷の内に秘めていた一つの感情。


「ヒャーハハハハッ!! ギャーハハハハハハハハァッ!!」

「……狂ってる」


 ――『狂える』。それがあいつの能力のもう一つの意味だった。

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