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第三十話 死闘の序曲

 幸いにも、緋山さんを凍らせた張本人と遭遇するのに総時間はかからなかった。


「――あんたが緋山さんを凍らせたってワケ?」

「…………」


 無言でたたずむ一人の侍。腰元には異様に長い鞘と、それに納められているのであろう刀。真っ黒なフードで目元を隠しているためよく顔は見えないものの、その身に纏いし黒のロングコートは涼やかな風が吹く中でも一切なびかず、氷を扱っているためかパキパキに凍っている。

 俺はそれを見た瞬間から、こいつが『冷血クルエル』なのだと一瞬で理解した。そして敵もまた、俺を見るなり新たな逃走相手なのだと理解している様子。


「……何か言ったらどう?」

「…………」


 侍は俺の問いかけに対して一切返答を返さず、代わりに静かに腰元の柄に手をかける。


「なるほどね。確かにそっちの方が互いに手っ取り早いか」


 俺もまた全神経を集中させて臨戦体勢をとり、目の前の相手の出方をうかがう。


「……フッ」


 ……今絶対鼻で笑っただろこいつ。とまあそれよりも鞘から静かに柄を抜き、その刃を見せるかと思いきや――


「……何それ。柄だけじゃん」


 そう、『冷血』が見せつけてきたのは刃の無き柄。だがそれだけでも、異様なまでの殺気を放っている。


「っ、とりあえずそのスカした態度を改めたらどう!?」


 敵が持つ得物が刃の無い刀なんて、随分と舐められたものだ!!


励起アストラル――」

「ッ!!」


 ――だがそれが最初のミスだった。


「――あ」

「…………」


 俺の首に一筋の赤い線ができた時には、既に男の刀は完成されていた。


「がっ……は……」


 事前に動体視力を反転させて向上させていた。だがそれでも見えたのは一瞬だけ。

 ――奴の刀を見た瞬間、物干し竿というものが脳裏に浮かび上がった。刀身の長さはゆうに二メートルを超えていて、それでいて刀身はというと――氷でできていた。

 一切の空気による濁りの無い、透明な刃。それが一瞬にして俺の喉元を通り過ぎて行った。


「……っ……っ!」


 喉にどろりとした血が溜まり始め、声を出そうにも出すことができない。

 俺は意識が薄れていく中、あらかじめ考えておいたある一つの反転を行う。

 ――必殺せず(アンデッド)


「――ガハァッ! ハァッ! ハァッ……くっ、何とかうまくいった……」


 俺が振りかえると、『冷血』もまた驚いたような雰囲気で後ろの方を振り返っていた。

 恐らく一撃で決めたつもりなのだろう。あっけなく終わらせるつもりなのだろう。

 だが俺にはそういうつもりなど毛頭なかった。


「ハハ……もう少し遊んで行かない?」

「…………」


 どうやら俺の誘いに乗ってくれたようで、血に濡れた氷の刀を解除し、新たに刃を生成し始める。


「さて、どう攻略しましょうか」


 そしてこれが俺にとって、最初の死闘の始まりの合図であった。

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