第二十八話 これにて決着?
「グハハハハッ! 力が昂る……みなぎってくるぞぉ!!」
なんかそのうち「化け物? 違う……俺は悪魔だ」とか言いだしそうなくらいに筋肉モリモリマッチョマンになってきているんですけど……。
「あの魔人から一体何を飲まされたらこんなことになるんですかね」
「ですからさっきから魔人の血だって言ってたじゃないですか」
「クククク……まずは貴様から死ねッ!!」
カルロスは地面を割って道路を舗装するアスファルトをべきべきと引き剥がすと、それをそのままブンと守矢の方へ投げつけてきた。
「うわっ! あぶなっ!」
「伏せて!!」
俺は守矢の後ろからエネルギーを収束させたレーザーを放ち、守矢の目の前でアスファルトの歪な円盤を木端微塵に破壊する。
「……随分と、不愉快な力だ」
「あんたに言われたくないね」
今度はどうするか。直接肉弾戦をしてもいいだろうが、俺個人としてはこの身体でカルロスに触れたくないというワガママな気持ちがあるにはある。
「やはり貴様の方から先に叩き潰すべきだったか!!」
「うげっ、こっちに来たし!」
「榊の前にうちの相手をしやがれです! 岩壁!!」
「邪魔をするなァ!!」
先ほどラウラの規格外のショットガンにあれだけ耐えることが出来ていた壁が、カルロスが腕を振るっただけで一瞬にして砕け散る。
「なぁっ!?」
「守矢は先に行って。ここはあたしがやる」
「なっ、ここは元々うちが――」
「いいから先に行ってて! あんたさっきの一撃で壊された時点で、あいつがヤバいレベルまで来ているって分かるでしょ!?」
「……むぅ! 榊なんて知らないです! バーカバーカ!」
そう言いながらも素直にこの場から退避する守矢ちゃん可愛い。なーんていう余裕もないか。
「ちょこまかと逃げおって、まだ追いかけっこが足りないか!」
「いや、その必要はないよ」
俺は堂々とカルロスの前で仁王立ちをして、守矢達を追おうとするその行き先の前で立ちふさがる。
「――だってこの場であたしが倒すから」
「……できること以外を口に出さない方がいいぞ! 小娘がッ!」
跳躍。そして拳を地面に向かって突き出しての落下。
「ヤバッ! 退避退避!」
直感でこの攻撃はまずいと思った俺の回避行動は、見事に的中した。
拳と地面が接触した瞬間、周囲半径二十メートルくらいは地割れに襲われ、見事地面にはクレーターができている。
「素晴らしい……猪口才な能力とやらより、やはり純粋な力こそがあるべき姿!」
「うへー、とんでもないことになってきたなー」
「クククク、余裕を持てるのも今の内だぞ?」
余裕も何も、今のままなら別に勝てないわけでもないし。ただ力が強いだけならいくらでも対処法はあるんだよね。
「励起せよ――」
「チャージなどさせぬわ!!」
カルロスはその巨体に似合わぬスピードでもって俺との距離を詰めてくる。
「うわ、面倒くさっ!」
流石に回避行動をとりながらチャージなどという、そんな右手で三角を左手で四角を書くような思考はまだできない。俺の現段階では能力は一つのことにしか集中して発揮するくらいで、二つ同時はなかなかうまく行かない。
「どうした!? 倒すのではなかったのか!?」
「ちっ、分かったよ、倒せばいいんでしょ倒せば!!」
俺はその場に立ち止まってチャージに時間がかかることを反転させて急速にエネルギーを集めてカルロスを撃ち抜こうとした。だが図体が大きいこととそれが凄まじいスピードで距離を詰めてくることから中々事象に集中することができない。
「そら! 挨拶代わりだ!!」
「がっ!?」
思考を変換、脆弱な体を丈夫に!!
即座に防御に能力を集中させたが、それでもカルロスの腕力は俺の想像を上回る強さだった。
カルロスの腕の分回しにより俺は水平に薙ぎ飛ばされ、自らの身体でビルを何棟も破壊してようやくその速度が収まっていく。
「ごほっ……女の子に手を挙げるなって、昔、言われなかったワケ?」
「貴様はただの女ではないからな。それに紳士にも堪忍袋というものがあるのだよ」
カルロスは更に走り寄って踵落としで踏みつぶしにかかるが、俺は残っていた体力でとっさに回避し、更に負傷状態を反転させて即座に全快へと肉体を回復させる。
「つくづく、鼻につく能力だ。いくら回復しようと無駄だ。一体どこまでいたぶられれば気が済む?」
「あんたこそ、決定打を与えられていない時点で話にならないじゃん」
互いに挑発を返したところで、カルロスはその異様に膨張させた右腕に黒いオーラを纏い始める。
――ん? 黒いオーラ?
「……よかろう、ならばこれを受けても立っていられるかどうか、その身で試してみるがいい!!」
「待てよ、確か緋山さんが言うには魔人が黒いオーラを待とうと都市一辺が壊滅するって言っていたよね?」
もしかして今の状態まずくないか?
「さあ!! 魔人の血よ、私に更なる力を!!」
カルロスは自身の右手を、まるで天でも掴むかのように空に掲げる。すると右手の中には俺が以前にも見た事があるあの超々高密度の暗黒エネルギー体が発生し始める。
「これをさく裂させれば貴様でも跡形もなく消し飛ぶだろう!!」
まずいまずいまずい! 一体どうすれば――
「――ん? 超々高密度のエネルギー?」
……なるほどねぇ。
「いいじゃん。やれるものならやってみなよ」
勝負は一瞬。アレがもしエネルギー体ならば、俺にも十分反撃の手はある。
俺はわざと無防備な体制のままカルロスの前に立ちふさがり、そのエネルギー体を逆に放つように挑発を始めた。
「いいのか? 本当に消し飛ぶぞ?」
「何? もしかして自分の力に自信ないワケ? 分かる分かる、その気持ち分かるよー。だって一番の奥の手があっさり破られたらどうしようもないもんね」
「貴様にこの力が、敗れる訳がないだろう!!」
さて、そろそろ来るか。
「いいだろう!! この都市もろ共、あの役立たずだったラウラもろ共、消え去るがいい!!」
カッチーン。だましていたとはいえ仲間の悪口を言うとか最低だわこいつ。
「来なよ、その自信をへし折ってやるから」
「言われずとも!!」
来た!!
「ッ! 励起せよ!!」
「何!?」
カルロスの手から放たれた暗黒の球体は、そのまま地面に着弾することもなく俺の右手へと吸い寄せられ、そして収縮を開始する。
「馬鹿な!? 絶対的な破壊のエネルギーだぞ!?」
「そのエネルギーを発散させることで、周囲に壊滅的な被害を与えるんでしょ? だったら逆にエネルギーを収束させたらどうなっちゃう?」
「何だと!? どういうことだ!?」
「物理を少しは勉強しようね、軍人さん」
俺はそういうと今度は発散を収束させ、その収束先を自分から反対側にいる相手へと反転させる。
「じゃあ、自分のエネルギーで風穴を開けてみよっか」
――収束し励起せよ!!
真っ黒なレーザーが、文字通りカルロスの胴体に巨大な風穴を開け、そしてそのまま区画を封鎖していた壁の一部に接触し爆発、見事壁の一部に巨大な穴を開けた――ってこれまともに地面に着弾していたらこの辺一帯全部消し飛んでいたんですけど!?
「馬鹿、な……」
「……ふ、ふふーん。これがアンタとあたしの実力の差よ」
「く、そ……」
あまりのダメージの大きさにカルロスはその場に倒れる。まあ俺の見立てだと魔人の血のおかげか気絶しているだけで死なないように思える。
「さて、澄田さん達の元へと戻らないと――」
そう思って俺が振りかえった先――第六区画内、遥か先にまるで芸術品であるかのような美しさすら持つ巨大な氷の塔が建設されているのを目にすることになる。
「なに、あれ……」
そしてその氷の巨大な塔を作り出した犯人が、俺に一つだけある事を教えてくれることになる。
――今までの殺し合いなど、ごっこ遊び程度の戦いだったということを。
というワケでこの編のラスボスはカルロスではないです。榊は虫ボスであるカルロスを倒し終えて、今から真のボスへと立ち向かいます。