第二十七話 Seizure Of Power
「――さてと、カルロスはどこにいるかなー?」
といっても大抵ドンパチやっているところとしか思えないんだけどねー、と思っていたところで早速煙が上がっているところを発見。
「さっさとぶっ飛ばして、夕飯を食べよっと!」
◆◆◆
「逃がさん!! 私の邪魔をするのであれば、ここで消しておかねばならん!!」
「そうですか、でしたら消されないようにもっと邪魔してあげないとですね!」
守矢は両腕を指揮者のように振るい、カルロスの前後左右、死角から執拗に岩塊を発生させてはカルロスの追跡から逃れようとしている。
しかし魔人の血を飲んでいるカルロスにとっては、岩盤など銃より素手で破壊した方が効率がいいようだ。
「無駄なんだよ! 君の能力とやらは既に見切っている!!」
「っ! だったらこれはどうですか!」
守矢が天に向かって手をかざせば、カルロスの頭上に突如として四方十メートルを超える巨大な立方体が現れ、そしてカルロスに向かってまっさかさまに落ちてくる。
「立方塊!!」
「ッ!? だがこの程度で私が止められると思うな!!」
――守矢は自身の目を疑った。何故ならカルロスは守矢の目の前で、重さ十トンを軽く超える塊を両手で押し上げ、あまつさえこちらに投げつけて来ようとしてきているからだ。
「栖原に詩乃さん! 逃げてください!」
「でも要ちゃんが!」
「あの塊はうちで何とかします!」
「ボクも加勢し――」
「邪魔ですから! 先に行って下さい!!」
「ハーッハハハ! 小娘一人に止められる訳無かろう!!」
「それはどうはどうでしょ――う!?」
二人を見送った後に再びカルロスの方を振り返る守矢だが、その表情からは一気に余裕が失せ、代わりに恐怖というものが少しずつ押し寄せてくる。
「フハハハハ!! 何だこれは! 軽石ではないか!」
カルロスの右腕は異様なまでに膨れ上がって発達し、守矢が召喚した立方体を片手で持ちあげている。
「早く逃げてはどうかね!? そうすれば三人一緒に仲良く潰れることができるだろう!?」
「……誰が逃げるもんですか。お前なんて、うち一人でお釣りが出るレベルですぜ」
守矢は暴走しつつあるカルロスを食い止めるべく、その場に一人残る。だが今のカルロスを相手に、一人で戦おうなど無謀でしかない。
「――だからあたしが乱入するんだけどね」
「っ! ……せっかくうち一人でかっこよく片付けようと思っていたのに、榊はもう少し遅れてくればよかったのに」
「ありゃ、そりゃごめんね? ダウンしている守矢を連れて帰った方が良かったかな?」
「うちはあんな醜男にやられませんよ!」
「……目の前で好き放題言いおって、両方ともここで死ぬ運命なのだよ!!」
カルロスはそういって肥大化していた右手で掴んでいる塊をこちらへとぶん投げてきた。だが――
「――あんたが投げたのってこのサイコロ? サイコロでどうやって殺すのさ?」
「あ、えっ……?」
「出ましたよ、榊の嫌味が」
「うるさーい聞こえなーい」
巨大なものなど反転させて小さくしてしまえばいい。そして今度は――
「このサイコロ、返すよ」
「えっ、はぁっ!? うわぁああああ――」
俺が投げ返すと今度は守矢が最初に放った塊の乗数倍の質量と大きさを持った立方体がカルロスへと向かっていく。
もちろんそんなとんでもないものをとっさに持ち上げることなどできるわけもなく、カルロスはその巨大なサイコロの下に潰される結果となった。
「……って勢い余って圧殺しちゃった感じ?」
「そうなりますね。これで榊も立派な犯罪者です」
「えっ!? ちょ、なんであんたは平然としているの!?」
「そもそもうちが関わってた世界だとこんなの日常茶飯事でしたし……この前の魔人の殺り方は流石にむご過ぎましたけど」
「えっと……生きてますかー……?」
俺は恐るおそる巨大なサイコロの方へと声をかけてみるが、当然ながら返事などあるはずもない。
「……やっちまったぜー!?」
「安心してください。榊なら旧居住区でも立派に暮らしていけますよ」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
俺と守矢がワーワーキャーキャーと騒いでいると、ズズンという重たい地鳴りのような音と共に、サイコロが少しだけ動き始める。
「……マジで?」
「……良かったですね、榊。あいつ生きていますぜ」
「いや生きているなら生きているでとんでもないんですけど……」
次の瞬間岩塊を突き破って、土ぼこりと共に飛び上がる人影が姿を現す。
「き・さ・ま・らぁー!!」
「げぇっ! 生きてるし!」
しかもなんか右腕だけじゃなくて体全体がさっきより巨大化していない?
「くっくっく……魔人の血が、私に更なる力を与えてくれる……!!」
「……もしかしてこれ、早く倒さないとヤバい感じ?」
カルロスはというと、今度は余裕をもって一歩一歩俺達の方へと距離を詰めるために歩いてくる。
「貴様等……よもや生きて帰れると思っていまい……」
カルロスは地面を揺らし、こちらに威圧感を持って更に近づいてくる。
「……あのー、もう今後一切邪魔しないんでラウラ連れて帰らせて下さ――」
「貴様等全員、皆殺しにしてくれるわぁ!!」
結局こうなっちゃうのねー!




