第二十六話 中二の目覚め
「ハーハハハハハ!! 気分爽快だ! これが魔人の言っていた『血の力』か!!」
必死で追っているが、それでも一向に追いつける気配がしない。第六区画はとっくに封鎖されているものの、その壁すら飛び越えるのではないかと思えるくらいにカルロスは軽々と建物の上を跳躍して移動している。
「まーあれだけぴょんぴょん飛び跳ねておいて、普通の人間なわけがないか」
「んん? まだ追ってくるか」
対物ライフルをいくら撃とうが、存在しなければ意味がない。恐らく銃弾など効かないと理解したのであろう、カルロスはライフルを捨てて今度はその辺にある標識や信号機を投げつけてきた。
しかし俺はそれら全てを軽くかわしつつ、更に距離を詰める。
一撃でまずは落とす。そして即座にラウラを連れてその場を脱出する。カルロスにはまだ色々と撃ちこみたいところだけど、今はラウラを連れ戻すことの方が先決だ。
「励起せよ――」
エネルギーが発散することを反転し、右手に全て集約させる。そしてカルロスの懐まで飛び込んだところで反転を解除し、全てを発散させる。
「――ばら撒け《スキャターブレイク》ッ!!」
敵の懐にて、文字通りエネルギーの奔流がばら撒かれる。エネルギーは高熱となり、閃光となり、爆音となり、衝撃となってカルロスの肉体に襲い掛かる。
それにしても、必殺技を言うって地味に清々しい気分になるのは気のせいだろうか。それとも俺が中二病患者なのだからか。
「ぐおぉっ!!」
爆発にも似た衝撃波にカルロスはなす術もなく直撃し、その反動でラウラを空から下へと落としていく。
「ッ! ラウラ!」
ビルの隙間から落ちていくラウラの後を追って、俺もまた落ちていく。
「捕まえた!!」
ギリギリのところでラウラの足を掴み、そして反対側の手でベランダの縁へと手を引っ掛ける。
「ふぅ、ぎりぎりセーフ」
「ぐぉおお……貴様ァ!!」
そして両手を塞がれた俺の頭上から、態度を豹変させて怒りをあらわにしたカルロスが襲い掛かってくる。
「まとめて死ぬがいい!!」
グレネードランチャーを乱射しながら落ちてくる男に対し、俺はとっさながらに何も思いつかない。
「どうすればいい……!」
「――黒天井!!」
「ぬぅっ!?」
突然俺の視界が真っ黒に染め上げられる。そして数秒遅れて黒い視界が榴弾の衝撃で何度か揺れるが、黒い空はびくともしない。
「今のうちに!」
俺はその黒い仕切りがカルロスの追撃に時間稼ぎしてくれているのだと思い、ベランダから手を離してラウラを抱きかかえ、即座にその場から離脱する。
「大丈夫ですか榊!」
「あの黒い壁、守矢が張ったの!?」
「そうですよ! 今のうちに急いで――うわぁっ! こっちに来た!」
どうやらカルロスの標的は変わったようで、今度は守矢たちを追い回しにかかっているらしい。
「……あたしも追わないと」
俺はラウラを近くの安全な物陰へともたれかからせると、すぐに戦いに復帰しようとした。しかし――
「ま……待ってくれ……」
どうやら気絶から目を覚ましたらしく、ラウラが俺の右腕を明らかに女の子とは思えない握力で握ってくる。
「痛っ! もう、ラウラってば握力強すぎ」
「す、すまない……だがそんな事より、伝えたいことがあるんだ」
「何? って、それより止血をしないと――」
「止血など、その気になればこの服を破ってすればいい……それより、もっと大事な事だ」
そんなに大事な事なら急いで喋ってくれないと、ラウラの身体の方が持たない気がしてならない。
「カルロス……あいつは、化け物だ……」
「化け物? あー、なんか魔人の血を入れたって話でしょ? まっ、あんな動きしてれば誰だってそう思っちゃうよね」
「知って、いるのか……?」
「知っているも何も、その魔人とあたし知り合いだし……あんたの想像通り、頭が相当イカレているけどね」
「ならば、なぜその魔人とやらは我々に味方した? そして何故我々を騙した?」
「……多分あの魔人はあんまり深いこと考えていないよ。そんな事よりその前にさぁ、あんた自身がカルロスに騙されているらしいよ?」
「……そんなの嘘に決まっている! あの男は仮にも戦場で共に戦った者だ! そんなことあるはずがない!」
「だって魔人がそう言っていたんだもん。聞きたかったら今度会った時に聞けばいいじゃん」
「何……?」
「それじゃ、また後でね。あ、そうそう」
一つだけ言うこと忘れていた。
「今日の夕飯、期待しているから」