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第二十五話 嫌な予感程よく当たるもの

 侵入者は合計して四人。そのうち一人はラウラで、一人は既に倒した。これで残りはカルロスともう一人が相手になる訳だが――


「なんか引っかかるんだよね……」

「何がです?」

「あの魔人が手を貸した割りには拍子抜けというか、何というか……」

「あの男の狂言回しだっただけじゃないですか?」

「それならいいんだけど……」


 納得いかないとは思いながらも、俺達は血痕を追っていく。するとある高校の門前で地面の血痕がきれ、代わりに門にかすれた血の跡が残されている。


「学校の敷地内に入っていったってことか」

「上学じゃないから学生証使って校門を開けることはできないし……」

「何を言っているんですか! 普通に乗り込みましょうよ!」


 守矢はじれったいと言わんばかりに先に門に足をかけて中へと入りこむ。続いて栖原も門を軽々と越えて中へと入っていくが、俺と澄田さんは中々足が進まない。


「? どうしたんですか二人とも……」

「どうしたんですかって……そりゃ二人ともズボンだからいいかもしれないけど――」

「私達スカートなんだよね……」


 そうそう、パンツが見えちゃって恥ずかしい――


「スカートが門に引っかかったりして越えられなかったら嫌だなーなんて――」

「なんか絶妙にあたしの考えと違っていますね……」

「ふぇ? マコちゃんは何が嫌なの?」

「何がって、スカートがめくれたら嫌じゃないですか」

「なんですかそれ。男子はいないはずですけど」

「そもそもマコちゃんの場合、スカートを反転させたら終わる話じゃん……あっ」


 あっ。


「……さーて、ズボンに反転させてのぼろっと」

「あっ! 私にもやってよ!」 


 こうして無事に学校内に侵入することに成功した俺達は、グラウンドに点々と落ちる血の跡を再び追っていくことにした。



          ◆◆◆



「ここにいるはずなんだけど……」


 血痕は校内をぐるぐるとまわっているようだが、一向にその大元にたどり着くことができずにいる。


「まさかダミーとかじゃねぇですか?」

「そんなはずないでしょ。こんな短時間で用意できる代物じゃないだろうし」


 そうこうしている内に、遂に血痕は保健室の扉へと繋がる。


「なるほど、ここで応急手当をするつもりですか」

「血もまだ乾いていない……もしかしたらまだいるかも」


 遂にラウラに追いつけると思っていた俺は即座にドアに手をかけ、勢いよく開いた。すると――


「っ、誰だッ!」

「あたしだっての」


 予想通りとでもいうべきか、やはりそこには目を負傷したラウラが壁にもたれかかっていた。


「……血をたどってきたか」

「よく分かっているじゃん。さっ、帰るよ」

「そんなことなど無理だ」

「何言ってんの? あたしが帰るって言ったんだから、一緒に帰るよ」


 そう言って俺は手を差し伸べるが、ラウラはなおも逃走を図ろうと立ち上がり、その場から後ずさりをする。


「……守矢」

「言われる前に、外は封鎖済みです!」

「ちっ!」


 保健室の出入り口、及び窓は全て守矢の石塊によって封鎖済み。これで誰にも邪魔されずにラウラを説得できる。


「どうしてそんなに無理だって意地はるの? あたしは別に気にしてなんか――」

「貴様のようなッ! 日の光の下に立てる人間と、私のような闇の中でしか生きる道がない人間とが、どうして一緒にいられる!!」

「…………」

「生まれてからずっと、私は暗い闇の中でしか、生きられない……」


 ラウラは消え入りそうな声と共に、再びその場に力なく座り込む。

 俺はそんなラウラの半生を知っている。彼女は幼いころからずっと、力がないと生きていけない場所に放り投げられていた。ある意味、力帝都市より厳しい世界にポツンと一人、放り投げられていた。


「……あんたが言う意味って、あたしが日の光側の人間だから、闇の側にいるあんたが一緒にいられないってこと?」

「…………」


 ラウラは黙ったまま、静かにそこにうなだれている。それが俺に対する答えだと、ラウラは訴えている様だった。


「……でもさぁ、あたしが日の光であんたを照らしたら、あんたがいた闇って消えちゃうんじゃない?」

「ッ!」


 ラウラは驚いたような表情でこちらの方を向いたが、それもすぐに馬鹿にしているのかと怒りを交えた声で吼え始める。


「貴様がか? 貴様風情が!? 私の闇を、世界を知らないで――」

「そんなの元々知ったこっちゃないよ」

「何だと……」

「最初から言ってるじゃん。あたしのメイドだから、日の光の下にいるあたしの元まで連れ戻しに来たって。それ以上に何か理由でもいるの?」

「ッ……そんなこと、できるはずが――」

「出来るから、ここに立っている」


 俺は改めて、ラウラの目の前に手を差し伸べる。


「……だから、帰ろう?」

「…………」


 俺はただじっと待っていた。ラウラがその手を握り返すのを、日の光の下に戻ってくることを。


「……私は、そっちにいてもいいのか?」

「いいってば。文句がある奴はあたしがあんたの代わりにぶっ飛ばす! ……それで十分でしょ」

「……うぅっ……私は、私は……」


 ようやくラウラは救われることになる。ようやくラウラは、日の光の下でも生きられるようになる。

 俺はその時は、そう思っていた。


「私は――」

「おっと、まだ仕事は済んじゃいないだろう?」

「なっ!?」


 守矢の作り上げた岩盤が、一撃の下で破壊される。土煙が立ちこめる中、その場に現れたのはカルロスだった。


「くっ、貴様……」

「おっと、自分だけ逃げようとしたゴミ虫のいい訳なんて聞きたくないねぇ。ってなわけで、今からお仕置きだ」


 カルロスはその腕力でもって一撃でラウラを黙らせると、肩に担ぎ上げてその場を立ち去っていく。


「逃がすか!」

「おっと、折って来て貰っては困る」


 そういうとカルロスはその場を逃げ去りながら、片手で対物ライフルをぶっ放してこちらを牽制してくる。

 ……ん? 片手で対物ライフル?


「どんな筋力してんだっての!」

「ハッハッハ! 魔人の血が、私に力をくれたのだよ!!」


 あの人ほんっとうに面倒事しか残さないんだから!!


「ハッハッハッ! ここまで来るがいい! 来れるものならな!!」

「着いて行ってやるさ、どこまでもね!!」

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