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第二十話 ジョークとマジの線引きって大事ですよね

「はぁぁぁぁ……」

「榊はさっきからため息ばかりついて、どうしたんですか?」

「守矢には関係ないでしょー……はぁ……」


 分かっていたとはいえショックだー……何とかラウラを手懐けられないかなんて考えていた俺もバカだったかといえばバカなんだけど、それでもショックだわ……。


「ため息ばっかついていたら、幸せが逃げますよ?」

「もう既に不幸だからだいじょうぶー……」

「そう言われたら何も言い返せないでしょうが……」


 休日なのでいつもの喫茶店で四人集まって駄弁っているが、この日俺だけがテーブルの上でぐだっとしている。


「なぁんでぇー……信じていたのにー……」

「榊のやつ、もしかして彼氏にでもフラれたんですかね?」

「まさかそんなことする人いるの? マコさんはボクと違ってすごく女の子らしくて可愛いのに」

「えっ!? マコちゃんいつの間に彼氏できたの!?」

「いや、そういう話じゃないんですけど……」


 勝手に彼氏持ち設定にされるとは、最近の女子の想像力は逞し過ぎる。


「だったらどうしたっていうんですか?」

「……同居人がどっかいった」

「同居人!? ってことはやっぱり同棲していたって事じゃないですか!」

「なるほど……女の子らしくなるためには、同性が必要っと――」

「いやいやいや同居人も女だしそもそも女の子らしさに同性とか関係ないからね!?」

「でも詩乃さんの方は緋山さんって人と一緒に住んでいるんでしょ?」

「えぇっと、アパートが一緒なだけで部屋まではまだ――」

「まだってことはいずれってことですね! 緋山の野郎はこんなにいい人を適当に扱い過ぎです!」

「そ、そんなことないってば!」


 話が横に反れて行き過ぎたところで、俺はテーブルから頭をあげて片肘を付いた状態で気だるげにメニュー表を開く。


「どうしよっかなー……お昼ももうそろそろだし、トーストでも頼もうかなぁ」

「じゃあうちはホットケーキでも注文しましょうか! もちろん支払いは榊のカードで!」

「なんであたし確定なのよ……まあふところは痛くないからどうでもいいけど」

「私は自分の分は支払うからいいよー」

「何言っているんですか、澄田さんだけ自腹にするわけにもいかないでしょ」

「わぁっ、ありがとう!」

「ボクはどうしようかな。最近こうした糖分が高い食事はとっていないし……だけど栖原流の為にはこの体系を維持しないと……」


 まるであたしと守矢の食べ方だと太りますみたいな言い方やめてください。守矢は知らないけどあたしの方は一応反転させるたびに結構頭使うから糖分は必須なんですよ。


「茜ちゃんって結構食事とか気を使っているんだね。私のアパートだと励二も含めて男の人が多いから夕食とかも結構カロリーが高くなりがちで、ちょっと気をつけないとすぐにお肉が付いちゃうから……」

「胸にですか?」

「違うってば!」


 それにしてもラウラはどこに行ったんだろうか。カルロスも全然こっちに銃撃が聞かないことを知った上で、まだ頑張るつもりなんだろうか。それとも魔人の手ほどきで何か新しい手段でもひっさげてくるつもりなのか。


「どっちにしろ全部反転させれば、どんな逆境でも勝てるんだよねー……」

「榊は何を言っているんですか?」

「いーや、なーんにも」


 こうして喫茶店でのんびりしている間にも、相手方の作戦は進んでいるんだろうか。そう思いながら手元のアイスコーヒーを口に含む。


「……ッ! マコちゃん!」

「え? どうしたんすか?」

「これ見てよ!」


 澄田さんがVPをいじっていると何やらとんでもないものを見つけたようで、焦った様子で俺の方へと画面を向けてくる。するとそこには「第六区画にて不審者情報」との知らせが載っている。内容によれば発砲事件も起きているとのことで、十分な注意喚起をするとともに均衡警備隊バランサーによる警戒網も敷かれるとのこと。


「第六区画といえば上等学院高校がある区画じゃないですか……まさか」

「その、まさかかもしれない」


 俺と澄田さんは即座に立ちあがると、会計を済ませて急いで出て行こうとする。もちろんなんで出ていくのかなんて守矢と栖原には理由が分からず、まだ注文が済んでいないのになんて愚痴をこぼしながら俺達の後をついていく。


「ちょっと待ってくださいよ! まだホットケーキ食べてないんですよ!?」

「そんな事より急用ができた。急いで第六区画に向かうよ」

「っ! ……うちは、行きたくないです」

 それまで走ってついて来ていた守矢であったが、行き先が第六学区と分かった途端に足を止めて踵を返そうとしている。

「どうしたの? 一緒に来てもいいんだぞ?」

「一緒に行きたいんですけど、うちは行けないです」

「マコさんがああいっているんだし、ついて行ってみようよ。……あっ、まさか学生証を忘れたとか?」


 俺は栖原のこの言葉で、どうして守矢が付いてきたがらないのかが分かってしまった。


「……もしかして、守矢は――」

「あっ、そうだった……要ちゃんは学校に行っていないんだった……」


 旧居住区を取りまとめる守矢姉妹。ダストのようなはみ出し者の統率を取る人間が、普通の学校に通っているのかと言われるとそうではないことくらい、少し考えればわかるはずだ。


「……うち、今回は帰らせてもらいますね」

「……何言ってんの、守矢にもちゃんとついて来て貰うよ」


 俺は守矢の手を引っ張って、無理やり第六区画へと向かうための駅へと足を進めていく。


「何言っているんですか! うちが入れるわけが――」

「入れるよ。あたしが何とかする」


 入れないなら、入れるように反転させればいい。


「とにかく、『ブロック』の力も必要なんだから手を貸して?」

「……本当にうちでも入れるんですか?」

「だから、何とかするっていってるじゃん」

「……その言葉、信じますからね」

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