第六話 能力の使い方 ~入門編~
「守矢四姉妹……?」
聞いたこともない。
「くっ、誰だ!?」
「だから聞こえませんでした? 守矢四姉妹の三女、守矢要だって」
そう言って守矢要と名乗る少女は、地面に手を置き石柱を次々と発生させる。
「とりあえず石塊で軽くボコらせてもらいますぜ!」
「うわっ!」
とっさに石柱がこちらに向かって突き進むように発生する石柱を回避すると、辺りにいた人が散らばっていく。
「と、とにかく君は逃げるんだ! あの子の狙いはボクだけのようだし、君だけでも!」
「いやいやいや、この状況で置いて行けるわけないでしょ」
能力を駆使したバトルの練習にはちょうどいい相手になりそうだし。
「何をゴチャゴチャと……Cランク以下二人が束になろうがBランクのうちには勝てませんよ!」
あっ、この子Bランクなんだ。
「本当に練習相手としては丁度いいかも」
次にあの子が石柱を繰り出してきたときが能力を試す時。
「くらいやがれです!」
アスファルトが盛り上がり、柱となって次々と襲い掛かる。
「おおぅ!?」
別に精製できるのは石の柱だけじゃないのね!? それに――
「塊雨!!」
足元の影が大きくなり、そして影がいくつも生まれる。
「これは――上か!?」
俺はとっさに後ろへと下がると、目の前に洒落にならない大きさの岩が落ちてくる……あのさ、完璧に殺意マックスできているよね?
「ちっ、逃がしましたか」
「大丈夫ですか!?」
「あ、うん。こっちは大丈夫」
取りあえず栖原はこっちの心配するくらいには余裕みたいだ。しかしあの守矢って子、舌打ちしている時点でもうね……それにしても、敵の攻撃に法則性は無いものか……。
「うちの能力、『塊』を前にしてもあんまりビビらないみたいですね。珍しいです」
あ、意外とアホの子だこの子。
「石の塊、アスファルトの塊……塊の反対は――」
「外野のくせに何をブツブツと呟いていますか! ぶっ潰しますぜ!」
先に俺の方を潰しに来たのか、先ほどの十倍もの大きさの巨大な岩が、俺の頭上に突如現れる。
「これで終いです!」
「塊……あっ!」
これがあった!
俺が手を上にかざし、頭上から降り落ちる巨岩を片手で受け止めるかのような姿勢を取ると、守矢は勝ち誇ったかのような表情を浮かべ、勝利を確信する。
「何を考えているかと思えば、その岩は一トンもある巨岩――」
「巨岩? あたしには小石に思えるけど?」
そう。最後に俺の手に乗ったのは、砂利にも満たない小さな石。
「なっ!? どういうことです!?」
「何って……これがあたしの能力だから?」
そう言って小石を後ろに放り投げ、わざとの様に相手を煽る。
「ふ、ふふ……ふざけてんじゃねぇですぜ!!」
怒りに任せて今度は地面から石柱を次々と発生させるけど、それも俺が地面に手を当てて反転させれば――
「――全て砂の山になる」
石の塊――つまり、岩を反転させると砂になる。
「……な、なんで……」
「なんでって言われても……これがあたしの能力だから?」
「くっ……ここはいったん撤退して――」
「あっ! 要ちゃん久しぶりー!」
あっ、まーた何もない空間から出てきちゃったよ澄田さん。しかも要ちゃんとかいって親しそうに守矢の後ろから抱きついてるし。
「なっ!? 詩乃さん!? 緋山のやろーと一緒のはずでは!?」
「励二ならほら、あそこで待っているよ?」
うわっ、マジだ。しかも「躊躇なく能力使いやがって……」とでも言いたげな目でこっち見ているし。
「要ちゃんさー、一般人二人に迷惑かけちゃいけないよ?」
「ちげーですぜ!? 片方はCランクの男女で、もう片方はうちの能力が効かないやべーやつで――」
「男女ってなんだよ男女って!」
栖原はそう言って怒っているけど、澄田さんはずっとこちらの方を気にかけている。
「うーん、Cランクの子の方は知らないけど、片方は私の知り合いの榊ちゃんだよ」
「えっ!? 知り合いでごぜーますですか!?」
どうやら澄田さんの知り合いと分かるなり、守矢は顔を真っ青にしている。
「そんな人をぶっ殺そうとしていたんですかうちは……」
「いやもう気にしていないから……」
「あっ! そういえば!」
澄田さんは何かを思い出したかのようにその場から消えると緋山さんの方へと現れ、そしてまたこちらの方へとにっこりとした表情で現れる。
「そういえば榊ちゃんって、下の名前なんて読むんだっけ?」
あっ、やべっ。考えていなかった。
「……榊マコです……」
「マコちゃんさ、こっちに来たばかりだから服とかまだ揃っていないよね?」
あっ、言いたいことが分かったぞ。
「え、あ、うん。揃っていないです」
「じゃあさ、一緒に今から買い物にいこ? 励二のカードを使えばタダで服貰えるし」
「それいいかもですぜ詩乃さん! 行きましょう!」
「えっ!? あっ、ちょっとボクは!?」
「あっ、そういえばきみも要ちゃんが迷惑かけちゃったし一緒においでよ」
――というワケで、俺は研究所に行くより先に服を買い揃えるショッピングへと足を運ぶこととなったのであった。