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第十六話 スーパーでまさかの……?

「申し訳ありません、私の足が治らないばかりに……」

「いいってば別に気にしてないからさ」


 松葉杖を突きながら歩く人に一人で買い物に行かせるとか単なる鬼畜ですし。それにここで歩いている内に、ポロリと何かヒントが得られたりとかしないかなーとか思っているだけですし。


「今日は同じ区画のスーパーに行くだけで、すぐに帰れるから」

「お待ちください! 水曜日でしたら隣の区画まで行けばもっとお安く――」

「そんなことして足を悪化させた方が出費が痛いでしょ?」


 とかいってもSランクなんで出費の痛さなんてなんともないんだけど。


「うぅ……真琴さんのいたわりが心に沁みますわ……」

「そこまで深く考えなくてもいいのに」

「いえ、メイドとあろう者が主に迷惑をおかけするなど、あるまじきことです」


 もうメイドさんごっこだってこっちにはばれているんだけど、まあいいか。


「とにかく今日の晩御飯は俺が作るから、霧咲さんは足を治すことに集中して。その方がむしろ俺の為になりますから」

「分かりました。では……お言葉に甘えさせてもらいます」


 霧咲の負担も考慮して、素早く買い物を済ませて帰った方がいいだろう。

 そう思いながら俺が買い物かごを手に取りつつ、目的のものをポイポイと籠の中へと突っ込んでいく。


「そんな、荷物くらいならお持ちしますわ!」

「いいってば。そもそもついて来なくても俺一人で十分買い物はできたってのに」

「主を置いて家でのんびりするなんて、そんな事できるはずがありません!」


 ここで俺が考慮していなかったのは、普通の人が買い物に来るようなスーパーにメイドを連れてやってきている俺が異様に目立っているという事だった。


「……あー、少し静かにしようか霧咲さん」

「……そのように」


 ラウラも周りの視線を必要以上に集めていることが嫌なようで、俺の提案に素直に乗ってきた。


「後はお茶だけ買っておけばしばらくはもつでしょ」

「ではお会計を――」

「あっ、マコちゃ――真琴くん!」

「す、澄田さん!?」


 ってかさっき危なくなかった!? 明らかにマコちゃんって呼ばれかけたんですけど!?


「…………」

「……ど、どうかしたの?」

「……ハッ! いえ、なんでもありませんわ!」


 何でもないっていうけどさっき明らかにラウラさんの目つきがどぎつくなっていたのを俺は見逃していないんだけど。あー恐ろしかった。


「まさかこんなところで合うなんて奇遇だね!」

「そ、そうですね……緋山さんは?」

「俺ならここだぞ」


 声がする方向に体を向けると、そこには買い物かごをだるそうに手に持つ緋山さんの姿が。


「…………」

「よう、榊。それと、例のメイドじゃねぇか」

「あ……はい」

「へぇー……ぼっちのお前には本当によかったんじゃねぇのか?」


 うーわー、演技だけど思わずニヤニヤしているところとかバレバレな気がするー……。

 そんな俺の心配など杞憂だったのか、ラウラの疑いの視線は全て澄田さんと緋山さんへと向けられている。


「…………」

「何をそんなに睨んでやがる。別にとって食いやしねぇっての」

「ちょっとそれどういう事よ励二! 浮気したら怒るからね!」


 本当にそれ違う意味にも取れかねないのでやめてください。


「そんな、お似合いだなんて……」


 そこも顔赤くしない。あんた一応この人達の敵でしょ。

 とまあ奇しくもあの時戦った四人が揃ったわけであるが、ここで何と緋山さんがとんでもないことを言いだし始める。


「そういえば、お前んとこのメイド怪我してんのか?」

「そうなんですよ、なんかバトルに巻き込まれて怪我したみたいで……」

「そうか? 大丈夫か?」


 そうやってわざとらしく煽るのは止めてもらいたいと思っている俺だったが、緋山さんは更に撃ち抜かれた右足の太ももをじろじろと見つめている。


「っ、そんなに見ないでもらえませんか?」

「悪い悪い、早速力帝都市の洗礼でも受けたかと思っただけだ」

「そんなにこの街では銃弾が飛び交うのでしょうか?」


 ラウラの問いかけに対し、緋山さんはわざと突き放したようにそんなものでは済まないと言わんばかりに大仰にしてこの都市のことを教え始める。


「銃弾なんざ挨拶代わりみたいなモンだ。この都市じゃ魔法はもちろん、能力者によって炎やら雷やら、はたまた正体不明の力まで飛び交うからな」

「……そうですか」

「ああ。メイド修行出まわってきた外の世界では聞いたことすらねぇだろ?」

「……そうですね」

「……あのー、霧咲さん一応怪我人なんで苛めるのはその辺にしておいてくださいよ」


 とまあ俺が仲裁に入った所で、緋山さんは更にとんでもない提案をし始める。


「あっ、どうせならまたアパートで飯食って帰れよ。その方がメイドの負担も減るだろ?」

「えっ?」

「はい?」

「そうだ、どうせならお前もこいよ。メイドなら動けなくても簡単な手伝い位できるだろ?」

「え、ええ……まあ……」


 いやなに考えているんですかあんた!? 敵に自分の家を教えるだけに飽きたらず招待するなんて!


「緋山さん、折角ですけど俺達家で飯食うためにスーパー来たんで――」

「遠慮するなって。飯代なら俺が出すからよ」

「そうそう、Sランクなら何でもタダだからね」

「なっ、なんでも……っ!?」


 都市の外から来ていたラウラにとってはこれが初耳になるのだろう、この都市最強クラスの称号であるSランクには破格の待遇が待っていることを。

 そしてその時に俺は気づくことができた。ラウラはそのことに対して羨望と憎しみが入り混じった感情を内に秘めていたことに。


「じゃあ真琴くん、今日はカレーだからそのためのおやさい取ってきてくれる? 玉ねぎはあるから、ニンジンとじゃがいもをよろしくね!」

「……はい」


 そして俺は澄田さんの笑顔の注文に押し切られて、ラウラを連れてひなた層までついていくことになった。

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