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第十三話 mOBSCENE

「さぁて、どうしてやろうか……おっと、澄田詩乃は目を瞑っておけ。オマエが見る必要はない」

「っ? あれ? 何で私目を閉じてるの? しかも開けないし!?」


 魔人の言葉の通り、澄田さんの視界は強制的に閉ざされる。明らかにステージからここまでかなりの距離があるはずなのに、あの魔人はどんな芸当をしたというのか。

 そんなことを俺が考得ている間にも、魔人は次の一手を投じ始める。


「まずは出入り口にいるゴミ共、派手にはじけ飛んじまいな」

「? 何を言って――ぐっ、うわっ!?」


 観客は突然として騒然し始める。そんな中で俺と守矢、そして栖原は出入り口に目を向けた。すると――


「なっ、お、俺の腕が、腕がぁああああっ!?」


 腕だけじゃなかった。全身が風船を膨らませているかのごとく大きく膨らみ、そしてついに耐えきれなかった肉体が――


「う、うわぁぁああああ――」


 パァン、と水風船でもわれるかのように、出入り口に待機していた兵士の身体は破裂し、壁一面に赤い液体をばら撒いた。


「うげぇっ!?」


 見なければよかったと、俺は正直後悔した。そして同じように栖原も顔色を悪くし、守矢に至ってはあまりのグロテスクぶりにケホッケホッとえずきはじめている。


「レディースエーンドジェントルメーン!! たった今からドッカン丸ごとテント爆破ショーは内容を変更され、(首)ポロリもあるよ! クソ共虐殺ショーの開催でーす!」

「ふ、ふざけんじゃねぇー!!」


 袖口から一人の男がライフルを乱射しながら魔人の方へと突進する。

 いくつもの弾丸が魔人の肉体を貫き、黒い血が流れる。だが魔人はそれがどうしたと言わんばかりに高速移動で即座に男の後ろへとまわり込み、そして男の首根っこを掴み上げて上へと掲げる。


「ごはぁっ!?」


 メキメキと首の筋肉を破壊しながら、魔人は男に問いかける。


「……空は好きか?」

「ぐあぁあっ、な、なんだって――」

「空は好きかと聞いているんだボケがッ!!」


 蹴り上げを一発。地面に強く設置していたはずのテントの布ごと、魔人は男をはるか空高くへと蹴り上げたのだ。


「正しくは二発、な。一発目で背後から背骨を真っ二つに折って、それから二発目でブッ飛ばしてやった」


 ……はい、解説ありがとうございました。といった感じで、魔人は次々と兵士を素手で文字通り捻り潰していく。


「ケッ、バカが。大人しく緋山励二だけを狙っていればこうならずに済んだのによぉ」

「な、何なんだお前は!? 何なんだお前は!?」


 兵士の一人が怯えて狂い、自らの額に拳銃を突きつけて自殺しようとした。魔人にオモチャのように殺されるくらいなら、一瞬で楽にした方がマシだと判断したのだろう。

 だが残虐性が昂っていた魔人がそれを許す訳がなかった。


「アァ? 何勝手に死のうとしてんだよ」

「ヒ、ヒィッ!」


 拳銃を片手で握り潰し、そのまま男の手も握りつぶす。男の右手からは無惨に血と骨が飛び出し、激痛をその場に物語らせる。


「ひ、ぐわぁぁあああああっ!?」

「テメェは楽に死にたいんだってな……? だったらその望みをかなえてやるよ」


 魔人は男の首を掴み上げ、再び上へと持ち上げる。そしてそのまま徐々に徐々に空へと浮かび上がっていく。


「……ここ、高さ何メートルだと思う?」

「ぐ、あっ――」

「ブブー、残念。正解は落ちる時に重力加速度9.8m/s^2から距離を求めてみろ」


 そう言って魔人は静かに手を離し、男をはるか下の地面へと落としていった。


「まっ、正解が分かる頃には死ぬけどな」


 ドシャッ、と血が詰まった肉袋が散らばる。サーカスのステージが一瞬で赤く染まり、その光景を見た魔人は腹を抱えて笑っている。


「……イカれている」


 この街は、イカれている。だがそれ以上に、あの魔人の方がイカれている。


「殺しは御法度の力帝都市で、一体何人殺す気なんだ……!」

「何人じゃねぇ。“何匹”だ」


 魔人はカルロスを除く全ての兵士を皆殺しにすると共に、俺が小さく呟いた言葉に反応を返してくる。


「テメェ、猿の数え方知ってるか?」

「猿は……一匹、二匹」

「そうだ。間違っても一猿二猿みてぇな数え方しねぇよな? 一人、二人なんざ人間だけで、それ以外のほとんどの生物は匹で数えられている……それって、人間が自分以外の動物を下等なものとして扱っているからだろ?」

「何が言いたいんですか」

「オレのような魔人にとっても同じだ。人間はオレにとってクソッたれな下等生物。だから匹で数えている。まっ、澄田詩乃を含む三人だけは、オレが人として数えるに認めるがな」


 それって俺も匹扱いってことですかね……。


「ああ安心しろ。特例として使える人間だけは人として数えてやる」

「嬉しくねぇー」


 俺の当然の反応に対し、魔人はただわらう。


「ククク、まあ人間を匹と数えるだけで、『上位者』の中でも奇特なオレはちゃんとオマエ等を人間扱いしてやっているから安心しろよ」


 上位者ってなんだよ。初めて聞いたわ。


「――っとまあざっとこんなもんだ」


 カルロスは絶句していた。恐らく相当自信があったのであろう、澄田さんを連れ去って緋山さんに対する戦いを有利に運ぼうとしていたのだろう。ラウラはダウンしているから動けない。だからこそ何とかして一人でも有利に進めようとしていたのだろう。


「クククク……悔しいか? 人間」

「……糞ッ!!」


 カルロスは自棄になったのか爆弾のボタンに手をかけようとした。だがそれを魔人は先に察知していたのか、指先からエネルギー弾を放ち、ピンポイントでスイッチを破壊する。


「オイオイダメだぜぇ、テメェはまだ緋山励二にブチのめされる役目が残ってんのに勝手に死んじゃよぉ」

「いや爆発したらあたし達も死んでいますからそれ破壊して――結局正解か」


 カルロスは現代兵器の通用しない圧倒的な超越者を前に、その場にしりもちをついて後ずさる。

 ――ってかこれだけ魔人にこき下ろされた後に戦うって言われても相当小物を相手にするみたいになっているんですけど大丈夫なんですかね。


「とまあこのままだと緋山励二に消し炭にされて終わりだが、一つだけ対抗策がない訳ではない」

「……何だと?」

「ちょ、何言ってんですか!?」


 魔人は何を考えているのか、カルロスに緋山さんに勝つ方法を教えようとしているのだ。


「取り合えずついてこい、力をくれてやる。それとも野垂れ死ぬか?」

「……いいだろう。その言葉を信じよう」


 魔人はニヤリと笑うと、空間に黒い穴を空けてカルロスと共に去っていく。


「緋山励二に伝えておけ。カルロスはテメェの考えているより数億倍強くなっているから覚悟しておけとな」

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