第十一話 つかの間の休憩
「この度はご迷惑を……」
「いいってば。力帝都市に来てバトルに一回も巻き込まれないなんてありえないことなんだから。俺だってDランクだから何にもできずにいるし」
互いに嘘をつきあいながら、帰路をたどっていく。ラウラは自らたたかいに身を投じ、そしてその相手はDランクではなくSランクの能力者、榊マコ=俺。ラウラは申し訳なさそうに何度も頭を下げているが、むしろ怪我をさせたこっちの方に非があるんだよね。
「それにこうして肩を貸していただけるなんて、真琴さんに仕えられて本当に良かった……」
こっちとしても役得(他人の胸に合法的に手を回せる)なので本当に良かったです。うん、やっぱり自分のとは少し違う触感。少し筋肉質だからかポヨンポヨンというよりはゴムボールより。とはいっても触ってて幸せになれるから良し。自分のより他人のを触って分かるおっぱいのありがたさというものがあるのだろう。
……澄田さんのに触ったら緋山さんに消し炭にされそうだからできないけど。
「今日はもう休むと良いよ。流石に足撃たれたメイドさんに色々とお願いするのは気が引けるから」
「そんな、この程度なら動けます! この程度なら……」
それは戦場でもあった事なの? と口から出かかったけど何とか抑えられた。危ない危ない、眼鏡の奥でラウラの目つきが一瞬あの時の目つきになっていた。
反転するにしてもその前に眉間に穴をあけられかねないし、それを除いてもまだ色々と本格的な相手にしたくない。
「……? 私の顔に何か?」
「いっ! いや何でもないですよ!?」
「そうですか?」
こうして普通にしていれば美人だし可愛いのになぁ。勿体無い。
とまあそうこうしている内に家のアパートに備え付けてあるエレベーター前まで来ることができた。
「もうすぐ家だよ。しばらくメイドさんはお休みして、家でゆっくり休もう」
「恥ずかしながら、そうさせていただきます」
よし、これでしばらくラウラは動けないはず。
後はカルロスだけをどうにかすれば、何とかなりそうな気がする。
◆◆◆
「それで今のところ動きなしでオッケーってこと?」
「そういうこと」
「ふーん……じゃあ励二がカルロスを見つければ、万事オッケーってことでいいのかな」
メロンクリームソーダ。喫茶ねこやでは隠れた人気メニューだ。そして今回俺と澄田さんは同じもの、つまりこれを注文している。
「それにしても気になるのが、ラウラって人の方は利用されているって話。一体魔人さんから何を聞かされたの?」
「何をって言われても……ラウラ・ケイの子どもの頃の話を聞かされたぐらいで、具体的に騙されているっていう内容までは教えてくれませんでした。その前に起きちゃったんで」
「そっか。じゃあまだ分かんない感じなのかな」
「でも聞いた限りだと、殺し屋とかになっても仕方がないのかなと思ったりもするんですけどね」
クリームソーダにのせられたアイスを一口くちにいれながら、澄田さんは何やら複雑な表情を浮かべる。
「……どうかしたんですか?」
「ううん、何でもないよ」
それにしては随分と物言いたげな表情をしていましたよ、ええ。
「動きがないなら、要ちゃんや茜ちゃんと遊んでも大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ。いざという時はあたしもいますし」
「じゃあ今度の週末四人でここに行かない!?」
それはそうとでまるで待っていましたと言わんばかりに、澄田さんはニュースの時と同様にVPである特集記事について俺に見せてくる。
「今度第二区画で世界で有名なサーカス団が公演するんだって! 私初めてだし見にいこうよ!」
そういえば俺もサーカスのショーは見た事が無いなぁ。確かにいい気分転換になるかもしれない。
「じゃあ今週の日曜日に」
「第二区画駅でおちあおうね!」