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第七話 平穏な日常からの反転

「ちょっと話し合いましょうよ澄田さん!」

「話しあうって? マコちゃん下着が無いのは本当のことでしょ?」

「そりゃそうですけど……!」


 目に毒、目に毒だこれは! 何だこの空間は! 男には刺激が強すぎる!!

 どこを向いてもパンツ! ブラジャー! 逃げ場がない! 


「……やっぱムリ!」

「あっ! マコちゃん待って!」


 榊マコは逃げ出そうとした! しかし袖を掴まれてしまった!


「お願い! これは私の問題でもあるの!」

「下着選びが何の問題になるんですか!?」

「…………」


 そこから先、澄田さんはぱたりと喋るのをやめて静かになってしまった。


「……澄田、さん?」

「……ごめんね、マコちゃん。私の個人的な問題だから、マコちゃんには関係無かったよね」


 ……何かそういう雰囲気は無条件に俺が悪いみたいになるんですけど。


「…………」

「ごめん……ごめんねマコちゃん、私一人だけ舞い上がっちゃって」


 なんかなみだでうるうるになった目を擦り始めたし……もう、分かりましたよ。


「はぁ……あたしでよければ力になりますよ」

「ほんとに!?」


 急に元気になっちゃってまぁ。でもそれでいいのか。何か澄田さんが元気ないとこっちまで調子狂っちゃうし。


「でもあんまし過激なのは――ハッ!」


 過激な方が緋山さんにとってはかえって意識するのか? いやいやいや、あんまりアレなのを着ると今度は澄田さんから引かれかねないし、そこはうまくバランスを取らないと。


「? マコちゃん難しい顔してどうしたの?」

「えっ? いや、なんでもないですよ。気にしないで」

「そう? あっ、これとかいいんじゃない?」


 そう言って澄田さんが取り出したのは少々刺激が強い赤色の下着。


「これとかマコちゃん穿いてたらびっくりしそう!」

「穿かされる本人が今一番びっくりしてますよ」


 なんかもう大人のお姉さんが穿いていそうなレベルのエロさを醸し出しているんですけどそれ。布面積少なすぎませんかねそれ。特に後ろの方。少なくとも健全な高校生が穿くものではないことは理解できるぞ。どっちかっていうと……あれだ、その……とにかくまずい。


「あははー、あたしにはちょっと無理かなー……?」

「大丈夫! 私には無理でもマコちゃんならきっと着こなせるって!」


 それって単に俺を実験台にしているだけじゃないですか!? 


「無理ですってば!」

「ぐすん……」

「分かりました、着ましょう」

「ありがと!」


 ……絶対ヤバいと思う。



          ◆◆◆



「――やっぱりダメだ!」


 この下着のせいなのか、自分の身体のはずなのにエロすぎる!! 自意識過剰か俺は!


「これ穿いて試着室出るの……?」

「ごちゃごちゃ言ってないで早く出てきてよー」


 ……恥ずかしくて死にそう。

 俺は大きく深呼吸して、そして静かに試着室のカーテンを開ける。


「――どうですか」

「…………」


 ほら、流石に(元々が)女の子の澄田さんですらドン引き――


「すっごく可愛い!?」

「ええっ!?」


 ちょちょちょ、ちょっとこの人センスずれていませんか!? ……あっ、今分かった! この人エロいとかそういうのが分からない純粋な人なんだ! だから今までも下ネタ発言しても平然としていられるんだ! 


「これ励二にも見て貰おうよ!」

「ちょ、それ待って――」

「もしもし、励二? うん、買い物終わったよ! それで見て貰いたいものがあるんだけど……うんうん、大丈夫だって! マコちゃんは友達だし、元々はほら、同じ男の子だから大丈夫だって!」


 あーあー、緋山さんにまで大ダメージいくぞこりゃ。今回の勝負(?)はおあいこということになりそうだ。


「とにかく早くお会計して店を出てね。私達も出るから、じゃあまた後で」


 澄田さんはそこでVPを切ると、にっこりとした笑顔でこちらの方を向く。


「では買った後に改めて着てから行こっか!」


 勘弁してください……。



          ◆◆◆



「はぁ……」


 心中お察ししますよ緋山さん。下着店前まで一人で呼び出された挙句待つハメになった上、これから俺こと榊マコによる視界の暴力が待っているんですから。


「なぁ、そっちで十分満足したならそれでいいだろ。毎回の事だが俺まで確認する必要ないだろ」

「ダメだってば! こういうのってやっぱり男の子がときめくやつがいいって本に書いてあったもん!」

「おいその本寄越せ。今すぐ焼いてやる」

「右に同じ」

「どうしてさー!? 私も励二の彼女として色々頑張っているんだよ!?」


 頑張る努力の方向性を間違えていると思うのですが気のせいでしょうか。いいえ、その通りです。


「ちゃんと魔人さんから貰った本の通りにしたのに、どうして怒られなきゃいけないの……」


 ……間違った知識の原因あいつかよ。


「……次会ったら色々聞かなくちゃいけねぇな」

「……右に同じ」


 原因も分かった所で緋山さんが大きくため息をついたところで――


「――ッ!?」


 俺達の目の前で。否、正しくは俺と澄田さんの目の前で。

 

 ――緋山励二の頭が派手にはじけ飛んだ。


「……うそ……励二っ!? 励二っ!?」


 力なくその場に倒れ伏す緋山励二。辺りは騒然とし、街を歩く人々は雲の子を散らすようにして一斉に近くの建物へと避難に取り掛かる。

 そんな中俺は慌てふためき泣きそうな声になる澄田さんとは対照的に、物事を冷静に考えることが出来ていた。


「……早く起きてくださいよ。応急かどうかわからないすけど、頭部を砂にして致命傷回避しているの分かっているんですから」

「えっ……?」


 そして俺の言葉に応じるように、緋山励二は頭部をさせながらその場に立ちあがる。


「――ってぇ……マジで痛ぇ」

「砂にするのが遅かったからですかね?」

「知るかよ。弾丸のスピードに対応出来た俺をまず褒めろ」


 緋山さんの言う通り、緋山さんの足元近くには一発の弾痕。そしてその後をたどるように、緋山さんが視線を向けた先には――


「――おやおや、確実にヘッドショット決めて脳漿をぶちまけた筈なのに、どうして生きているのでしょうねぇ」


 その手に持つはスナイパーライフル。そしてスナイパーライフルを持っているのは最近俺達が見たことがあるはずの顔。


「最初に狙うSランクを間違えたみたいだな。カルロス・マクレガー」

「おやおや、Sランクに名前を覚えてもらっているなんて光栄です」

「そしてもう一人」


 俺はその「もう一人」という言葉を聞いて、嫌な予感がしながら道路の向こう側のカフェの入口へと顔を向ける。


「……マジ?」


 するとそこに立っているのは俺のよく知るメイドが一人。だがいつもの眼鏡の奥には、あの殺意に満ち満ちた鋭い瞳。


「ターゲットとの接敵を確認」


 そしてその両の手に持っているのは、普段映画で見るようなものとは明らかに大きさが違う、巨大な散弾銃ショットガン二挺にちょう


「……ラウラ・ケイか」


 ラウラは緋山さんの問いかけには一切答えず、ただ一言こう言い放つ。


「――ターゲットの殲滅を開始する」

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