第六話 おお榊よ、共倒れとは情けない
「――はぁああああ……」
「マコちゃんも大変だね。優秀なメイドさんが一転してあんなことになるなんて」
「本当ですよ全く……」
「俺の忠告を無視するからだ」
「そもそも緋山さんが余計なこと言うから余計意識せざるを得ないんでしょうが!」
ようやく訪れた週末がいつもより愛おしく感じる。それほどにあのメイドと一緒の日々は俺にとって疲れを与える原因であったことは間違いない。
今回は俺と澄田さんと緋山さんの三人で、特に当てもなく休日の街を歩いている。傍から見れば一人の青年が巨乳の美少女(自分で言うのもアレだが多分そう)二人を引き連れて町を練り歩くという大変羨ましく見える状況だが、実情は緋山さんと澄田さんの二人がデートしていて俺はそれに引っ付いていっているだけという、近くにいる俺の方も大ダメージを受けている状況である。
「それにしても周りの視線が痛ぇな……」
「だって励二、傍目に見れば堂々と二股かけている人にしか見えないもん。しかも私はともかくSランクのマコちゃんもついているし」
「そういえばそうだったな」
緋山さんが言うには、Sランクの人間が同じSランクとつるむのは基本的にあり得ないことらしい。それも加味して考えれば納得がいくと緋山さんは自問自答して終わらせたが、じろじろ見ている男と同じ側としては明らかに女の子二人連れ回していることへの羨望のまなざしの方が強い気がするが。
「そうだ! せっかくマコちゃんがいることだし、また服でも選ぼうよ!!」
「……また着せ替え人形っすか」
俺が明らかに嫌そうな顔をすれば、澄田さんは不満なのかとでも言いたげに頬を膨らませる。
「ダメなのマコちゃん?」
「ダメっていうかなんというか……」
「…………」
「緋山さんだって複雑な表情をしているから今日は止めておきましょうよ」
「なっ、別に俺はどうでもいい――」
「どうでもいいなら、今度は励二にも手伝ってもらおうかな!」
「なっ、ふ、ふざけるのはやめろ詩乃!」
「……ん?」
おやー、緋山さんがまたテンパり始めたぞー? これはこの前の続きを一方的に続けられるチャンス到来かー?
「だってほら、榊だって嫌がって――」
「別にあたしは緋山さんが嫌じゃないならいいですけど?」
「ハァ!? お前今何て――」
「だったら別にいいよ、ね!? 励二」
澄田さんの言葉の裏に潜む圧力を前に、緋山さんは渋々首を縦に振らざるを得なかった。
そしてここから俺の復讐(?)が始まる。
「くっくっく、むっつりスケベの化けの皮をはがしてあげましょう……」
「どうしたのマコちゃん?」
「ひゃっ、何でもないです!」
◆◆◆
――というわけで、俺達は女性用ファッションの専門店に向かう事となった。
もちろんその途中も羨望の視線が向けられる訳だが、悪知恵の働く今の俺はそれすら利用する。
わざとスカートがめくれてパンツが見えそうになるような身の振り方をして周りを挑発するとともに、緋山さんにプレッシャーを与えていく。いやぁ我ながら清々しい程に○ッチですなぁ。
「……おい榊」
「なんですか?」
「お前まさか、この前の仕返しとかそういうくだらねぇこと考えていないだろうな?」
「まさか! そんなことないですよー」
「顔と言動があっていないぞ」
すいませんねぇめっちゃニヤニヤしてしまって。まあ澄田さんはよく分かってない様子で先を歩いているし、このままでいてもオッケーって感じ。
「励二にマコちゃーん、到着したよ!」
「てめぇ、後で覚悟し――ッ!?」
「さてさてー、到着し――ッ!?」
俺と緋山さんはその店を前にしてほぼ同時に絶句した。それは澄田さんが予想に反するようなとんでもない所に連れてきたからだ。
「マコちゃん多分恥ずかしがってまだ下着一着しか買っていないよね? だから今日はここにきたよ!」
いやいやいや!! それは俺もろ共卒倒してしまう場所なんですけど!?
澄田さんが連れてきたのは女性下着の専門店。パッと見ファッション性の高いおしゃれさを感じさせるかもしれないが、(中身が)男である俺と緋山さんにはとても入りづらいところ。
「バ、バカッ! 俺は別のところで時間を潰させてもらう!」
「分かったけど遠くに行っちゃダメッ! 励二は向かいの喫茶店で待っててよ!」
「あ、あたしもちょっといいかなー? 家にある下着を反転させれば――」
「そんなことするよりも、事前に持っておいた方が便利だよ!」
「便利とか不便の問題じゃないんですよ!?」
「とにかく行くよ、マコちゃん!」
ちょ、ちょっと待って! 何で毎回毎回引っ張られてるの!? なんかまた着せ替え人形よりひどいことになりそうな気がするんですけどぉー!?




