第五話 二人組
「この二人組が問題ってことですか?」
このエクスキューショナーズについて力帝都市が独自に調べたところ、どちらも元軍隊所属の軍人で、中東の紛争地帯から帰投してから様相がおかしくなったらしい。
画像の片方は大柄で太った男性。名前はカルロス・マクレガー。そしてもう片方は日系人の顔つきだが出身はアメリカという凶悪な目つきの女性。名前はラウラ・ケイ。どちらも戦地で極限下における臨死体験をしたことがあるという調べだそうだ。
「極限下での臨死体験。恐らくそこで何らかのショックを受けて能力が開花したか、あるいは……」
「……単にトラウマか何かで理性がぶっ飛んでしまったがゆえに、能力じゃなくてもどんな手を使ってでも殺して回っているか、ってことですか」
「……そうだな」
それにしても女の人の方、なんか見たことあるような気がする。
そういえばうちのメイドさんが一回眼鏡を外したところ、極端に視力が悪いのでって言いながらこんな目つきでこちらを睨んできてって――
「……もしかして霧咲さん?」
「ようやく気が付いたか」
その瞬間、俺は今まで大量殺人鬼をメイドにしていた事に思わず凄まじい音を立てて後ずさりをする。
「もう少し早く教えてくれても良かったんじゃないんですか!?」
「下手に教えて敵に感づかれても面倒だと思ったからだ」
それでも死と隣り合わせの生活をしていたなんて、心臓がいくつあっても足りやしない。
「で! これからどうすればいいんですか!」
「なんでキレてんだよ……とにかく今は敵の出方をうかがう他にない。それにまだSランクには手を出していない。つまり奴等にもまだ自信がないってことだ。当分心配する必要はないはず」
はずってこれまた不確定なお話をしなさることで……まあいざとなれば反転させれば何とかなりそうな気がしなくもないけど。
「とにかく気をつけろ。VPを見せるなって意味はそういうところもあるからだ」
「はぁ、今から家に帰るのに憂鬱になってきた……」
これを知った上で、まともにメイドさんと顔を合わせることができるのかなぁ。
◆◆◆
「御帰りなさいませ、真琴さん」
「ただいま……」
今日はいつもと違って気分が悪い。何故なら今日からはこちらのご機嫌をうかがっていたメイドを、今度はこちらの方からご機嫌をうかがわなければならなくなったからだ。
「おや? どうかしたのですか?」
「い、いや別に! 何もないよ!」
「そうですか? なんだか顔色が優れないようで、私としてはとても心配なのですが……」
その原因が目の前にいますって言えたらどれだけ楽な事か。だが今は下手に手を打ってしまうのも良くないことだし……。
というか、今まで可愛いと思っていた小首を傾げる動作もこっちに疑いをかけるような動作にしか思えない。全てが怪しく感じてしまう。
眠るにしても、寝首をかかれそうで眼が冴えるばかり。
「おや? いつもでしたらぐっすりとお眠りになられておられる筈なのに、具合でも悪いのでしょうか」
「…………」
「でしたら、私がつきっきりでそばにいて差し上げますわ」
一体何を思ったのであろうか俺のベッドにあの殺人犯が潜り込んできて一緒に寝るのだという。しかもよりにもよってこっちに抱きついてあやしてきた。
「ねんねーん、ころーりーよー♪」
「…………」
……今夜は眠れそうにない。二つの意味で