第二話 女の勘ならぬ男の勘?
「……は?」
「ですから、一等当てたらメイドさんがタダで雇えるそうなので連れてきました」
ひなた荘に見ず知らずの人間を連れてくるなんて本当はいけないんだろうけど、そもそも澄田さんが引いてくるように言われたから仕方がない。
俺は今、霧咲百花と名乗るメイドを引き連れてひなた荘の玄関に立っている。玄関先には俺と霧咲、そして緋山さんに澄田さんに今回ヨハンという日向さんのいう極潰しが表に立っている。
穀潰しがいるくらいだし、ここならどんな人でも引き取ってもらえる……はず。
「てことで引き取ってもらえますか?」
「……頭大丈夫か?」
「大丈夫です。むしろこんな福引を見つけた澄田さんの方が色々と凄いんじゃないかと」
「えっ、ええっ!? 私は普通の商店街の福引だって貰ったんだけど!?」
「あのー……」
霧咲は自分の行き先の押し付け合いに苦笑いしている様子であるものの、何とかこの場で発言権を得ようと静かに声を挙げる。
「ん? 何だ」
「結局私は、どちらの方に――」
「待て、そもそもどうして一等がメイドなんだ? そこの説明をしてもらわないと意味が分からないんだが」
緋山さんが言うのも至極当然で、俺も実はよく分からないまま押し付けてきたような感じでここまで来たんだよね。
「そういえばそうだよね。私はてっきりティッシュ箱か土鍋セットでも貰えたらラッキーくらいにしか思っていなかったし」
やっぱり澄田さんはそこらへんを狙っていたか。しかしどうして一等が自分自身なんだ?
「……実は私、メイド修行の為に世界を旅して周っております」
メイド修行で世界中を旅ってあんた中々すごい事していますな。俺なんて生まれてこの方日本から出ていった事が無いし、そもそも力帝都市に根付こうとしていますし。
「それで?」
「それで最終的に行きついたのがこの力帝都市なのです。そしてここなら私が今まで鍛え上げてきたメイド力が認められると信じて、ここにやってきたのです」
「そんなに真面目に考えているならお金持ちの人の所に行って、やとわれてくればいいんじゃないの?」
澄田さんが真正面から正論をぶつけるが霧咲は首を横に振って、それでは駄目だと反論を振りかざす。
「資産家、お金持ちに仕えるのがメイド……確かに世間一般のメイドのイメージ、それが正しい姿……ですが」
「ですが?」
「私は思うのです。世界にご奉仕してこそ、世界一のメイドになれるのではないかと」
満面の笑顔で言われると反論しようにもできないし、確かにそれなら全てが力によって判断される力帝都市に来て正解なのかもしれない。
「そして私は最初に運を試すことにしたのです」
「運?」
「はい。しがない商店街の福引でどんな方にご奉仕ことが出来るのか、というのも少し興味がありまして」
言っていることが少々支離滅裂な気がするのは俺の気のせいですかね……?
「……まあ、どんな考えを持っているのか知らねぇが、これで少しは分かる事もあった」
緋山さんはそう言って腰をあげて、霧咲さんをひなた荘に迎え入れるのかと思いきや――
「榊、お前の家で雇え」
「えっ、ええっ!? 何でですか!?」
「いいだろ別に。メイドだから何でもしてくれるだろうしよ。それに……」
緋山さんは次の言葉を口から発しようとしたが、その前に誰かの方を見返して鋭く睨みつけている。
「…………何だ、その目は」
緋山さんが警告するように言っている相手はなんと霧咲。そして俺は霧咲の方を向いたが、そこに緋山さんが言うような怪しかったり敵意があったりといった目は無く、いつも浮かべているような優しい目しかしていない。
「てめぇ何か隠しているな?」
「まさか、滅相もありません」
「そうか。どっちにしろひなた荘にはてめぇにくれてやる空き部屋もない。大人しく榊の家に勤めるこったな」
「えっ、ちょっと待ってください、俺の家も部屋なんてものは――」
「安心しろ。こいつは永久に使えるなんて長い期間するつもりはねぇだろうよ。恐らく何らかの目的があるはずだ」
そんな危ない人を俺が雇うってひどい話じゃありません?
「とにかく何かあったら連絡を寄越せ。それと――」
緋山さんはそっと俺に近づくと、霧咲に聞こえないほどの小さな声でそっと耳打ちをしてくる。
「あいつにVPを見られないように気をつけておけ」
「わ、分かりました」




