EX2話 力への渇望
「ようやく終わったか……」
「どうやら僕がいない間にカタがついたようですね」
「そういえばなんであの時に之喜原さんは来なかったんですか?」
「俺は一応連絡したんだけどよ、着拒していやがったんだよ」
「違いますよ、ちょっと携帯の電源を落としていただけです」
之喜原の言い訳は後に問いただすとして、緋山がわざわざ屋上に来た目的は別の所にある。
「ラグナロクの件、この都市がどう扱っているか分かったか?」
「まあ報道を見ればなんとなく」
榊真琴は購買部の総菜パンを片手に、緋山の問いかけに軽く答える。
ラグナロクの本来の目的――それは全ての人間に同等の力を与えること。
この力帝都市の存在意義を根底から覆すような野望は明かされる事無く、ただ違法な薬品実験を繰り返した製薬会社としか報道されていない。
「全員に平等に力を与える。そうして何になると思う?」
「そんなの俺に言われても分かりませんよ」
「いいえ、ある意味もっとも答えに近いものを持っているかもしれませんよ」
元々Dランクだった存在――榊真琴だけが、ある意味答えに近いものを持っているのだと、之喜原は不敵に笑っている。が、榊は首を傾げるばかりで何の答えも持ち得ていない。
「……仮に、だ」
「ん?」
しばらくの沈黙の後、今度は緋山から問いかけが投げつけられる。
「仮にお前がDランクのままで、目の前に能力が使えるカプセルがあったとして……それを使うか?」
「使うって……使う訳無いじゃないですか。それにあんなに危険な――」
「それは結果論だ。カプセルだけが目の前にある状況で、危険も何も知らされていない。ただ能力を――“力”を手に入れられるとすれば? どうする? 榊」
「…………」
榊は黙りこくった。それは首を傾げて何の答えも持ち得ていないからではない。
答えを持っていたとしても、答えられない。答えることはできない。
「……使っていただろ?」
「……使っていたかもしれません」
「そういうことだ。俺も例外じゃねぇ。力があれば、それを欲するのが人間だ」
人間は力を欲するもの。相手よりいかに優位に立ち振る舞うかを、自然と息をするかのごとく模索する生き物。緋山はそう言いたかったのである。
「フフフ……例外なく力を欲する……99%は当たりですね」
「1%はずれがいるのか?」
「いるかもしれませんね」
之喜原は単に緋山を小ばかにしたかっただけなのだろうか、わざと異論を言ってはにやにやと笑っている。
「まっ、元々もろに欲していた側の人間が言う事に間違いはあんまりないでしょうし」
「うるせぇ、黙れ」
緋山励二は静かに怒りの炎を灯すと共に、之喜原の足元周りを警告代わりに熱していく。
「おっと、熱い熱い」
「相変わらず仲が悪いですね」
「チッ! そもそもこいつはまた面倒な組織に首を突っ込んでいるって話だからよ」
「その件については僕の独断ですから、ひなた荘に迷惑をかけるつもりはありませんよ」
之喜原は現在イルミナスという組織に身を置くことになったようで、緋山としてはあまり好ましいことではなかった。
「ラグナロクっつぅ面倒な組織を体験しておいて何を考えていやがるのか――」
「それはそうと、科方藤坐の現在を知りたくありませんか?」
之喜原はそう言って自らが持つVPを触り始め、とある動画を榊達二人に見せ始める。
「何だこれ、Valtubeがどうしたってんだ」
Valtube――個人の趣味や企業の関連動画、そして一番の需要であるこの都市で起きたあらゆる戦闘動画が保存されているサイトを、之喜原は二人の前で開く。
「ここに科方藤坐の戦闘動画があります。見てみましょう――」