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第三十八話 Perfect World

「くくくくく、ハハハハハッ! ヒャーハハハハッ!!」


 パンドラに秘められていたエネルギー全てが科方へと吸収される。パンドラをすべて吸収したことにより、それまで宙に浮いていた科方は地上へと――俺達のいる銀ビル屋上へと降りてくる。

 そして改めて相対したことで、科方に新たな力が加わった事による強さが――


「――てか実際何がどうなるの?」

「何がどうなるって言われても俺もわかんねぇよ……」

「ですよねー」


 とまあ緋山さんに聞いたところでこれから何が起こるのか分かるはずもないか。


「何が起こるか分からない……ならばてめえらで試してみてやるよ!!」


 今俺達の目の前に立つ科方には、もはや両親や礼儀正しさなどみじんも存在していなかった。


「となれば能力は効くはず――って、あれ?」


 さっきから温度を反転させたり重力を反転させてみたりしているけど、全然効かないってか通じていない気がする。


「ククククク、もはや俺は世界の前でいい子ぶらなくとも愛される存在になった!」


 つまりいつでも補正マックスってこと?


「……あれ? 地味にヤバくない?」

「地味にっつーか普通にまずいだろ」

「ヒャハハハハッ!! そら、さっきのお返しだ!! 全部浮かんじまいな!!」

「うおっと!?」


 流石に逆に空中に浮かばされたとなれば少し驚いてしまう。更に規模も中々広く、周りのビルやダストの連中まですべて浮かばせている。


「これは中々……」

「榊でもここまでできないってか?」


 そうこう言っている間にも相当な高さにまで俺達が足を置く銀ビルは浮上してゆき、そろそろ四方を囲む壁の終わりが見えなくもない気がする。


「……というよりどんだけ高いんだよこの壁」

「千メートルは軽く超えるらしいぞ」

「マジですかっ!?」

「ぐっ、なんでてめえらそんなに余裕しゃくしゃくなんだよ!! ここから落としたらお前等だって――」

「余裕も何も……なぁ?」


 俺と緋山さんの反応の薄さにも理由がある。一つ目は科方のパワーアップ前がそもそもあんまり強くない上に、一皮むけば小物臭い奴と知っているから。二つ目は別に落ちても何とかなるから。

 そして最後の一つは――


「何も世界を動かせるのは、あんただけの特権ってワケだけじゃないってことだよ」


 この世界から愛される? ならばこの世界から嫌われるようにすればいいだけ。


「――反転」


 この世界を。科方藤坐を愛する世界を。


「…………」


 俺はもうそれ以上することはないだろうと、その場に背を向ける。


「もう終わったのか?」

「まあ、後は勝手にって感じで」

「はぁ? はぁっ!? てめえ舐めてんのか!! まだ気づかねえのか!?」


 俺の余裕ぶった態度がよほど頭に来ていたのか、科方はただ怒りに任せていつものように猪突猛進といった様子でこちらへと突っ込んでくる。

 だが――


「――はぁ? まだ気づいていないのはお前の方だろ」


 俺はわざとの様に科方の真似をして更に煽り、科方をより刺激してこちらに向かって来させようとした。

 だがここから先、科方藤坐に世界が牙をむく。


「ごはぁっ!?」


 無防備に殴りかかろうとする科方の頭部を捕らえたのは、たまたま落ちてきた大きさ十五センチほどの隕石。たかが隕石と侮ること無かれ、高高度から落ちてきた落下物が持つ威力は銃の弾丸ですらはるかにしのぐことを。

 当然そんなものを頭部に受けた科方はただで済むはずがなく、更に運が悪い事にビルから足を踏み外してはるか下の地面に叩きつけられる――って死んじゃうじゃん!?


「……今落ちて死んだよな?」

「え……えぇーと、今ので死ぬとは思いませ――」


 トドメと言わんばかりに銀ビルの周りに立っていたビルは一斉に崩れ落ち始め、土煙と轟音をあげて地面を揺らしていく。


「……今度こそ死んだよな?」

「…………あたし知らないっす」

「おいコラ! 一体何を反転すればそんな事になるんだよ!?」

「で、でもあたしは反転しただけで直接的に殺したワケじゃないし――」


 俺の言い訳に反するかのように今まで宙に浮いていた物体は全て落下を開始し、俺や緋山さん、そして澄田さんや要、栖原が落ちていくビルの上でバランスを崩して転がり落ちる。


「詩乃!」


 緋山さんはすぐさま澄田さんの手を掴んで近くの手すりに捕まる。そして俺はというと、要と栖原をがけっぷちのところで何とか掴んで耐えている。


「重い!」

「ば、馬鹿言わないでください! 重いのは栖原です!」

「何を、要の方だって能力で重たいんじゃないのか!」


 というか、重さを反転させればいいんじゃ。


「よっと」


 俺が軽々と持ち上げると、要は予想外といった様子で取り乱し、栖原はすぐさま近くのものに手を引っ掛けて一人でぶら下がる。


「うわわっ!」

「おっ!」

「榊! 何とかできないのか!」

「どっちかっていうと緋山さんは――」

「俺ができるのは噴火と砂になることだろ! 大勢を助けるのに使える能力じゃないだろうか!!」


 言われてみればそりゃそうだ。

 とりあえず落下の加速を反転、減速に。そうすれば落下するにしても徐々に徐々に速度は落ちていく。


「これでひとまず安心という事で」

「周りのダストたちはどうする?」

「どうするって……一応同様に重力加速を減速にしたんで落下しても大丈夫かと」


 減速をしたおかげで何とか怪我もなく地上に戻ることができたけど、肝心の科方はどうなったのやら。


「あいつの捜索は魔人に任せよう。魔人なら何とかしてくれる」

「仮にの話ですよ? 死んでいたらどうするんですか」

「……知らん」

「えぇー……」


 こうして戦闘警戒態勢は解除され、四方の壁が再び地下へと沈んでいく。そして残ったダストの連中やラグナロクの残党、そしてオルテガは均衡警備隊バランサーの手によって捕らえられ、無事収監されることとなった。

 しかしそこに科方の姿はなく、俺は少しばかり不安を携えたままこの事件の幕引きを見送る事となった。


 ――しかしその数日後科方藤坐がどうなったのか、俺は意外な形で耳にすることになる。

取りあえず目下の敵は倒したのでこの編はここで一区切り、後は軽い後日談を流してから次のお話に映ろうと考えています。

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