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第三十一話 導火線に火がついたみたいです

「――で、殺風景なところに閉じ込められると」


 なーんかお決まりな感じなんだけど、独房っぽいところに閉じ込められてどうするつもりなんでしょうか。


「っと、早速脱獄するべきか……」


 その前に監視カメラが無いかの確認をしないと。逃げ出したことがばれてしまったら面倒だしなぁ。


「……二か所、かな」


 天井と、分かりづらいけど部屋の隅に一台。ほとんどの監視カメラは上についているという思い込みから、仮に上に異変が起きても下の監視カメラがばっちり撮影しているって寸法か。

 となると、まずは監視カメラを無効化することが優先かな。その後鍵がかかった状態を反転させて堂々と出てもいいけど――


「監視カメラを反転させるとどうなるか……」


 作動を反転させて停止――はバレるか。監視を反転……反転……どうすればいいんだよ。

 映像……映像――


「――動画を静止画に反転か……」


 そうと決まれば俺ができる限り大人しくしているように見える映像が取れるようにして、その後動画を反転させて静止画にする。


「そしてその後どうするかっていうと……廊下にも監視カメラがあると思うし……てか建物内にはほとんど監視カメラや人の目がある可能性が――って!」


 屋内と屋外で反転させるとどうなるの?


「……反転」


 すると視界が一瞬眩しくなり、次に俺の視界に映ったのはあの銀ビルの外の風景。


「……出来ちゃったよ」


 後ろを振り向くと銀ビルの外装が見え、俺は確かに地面に両足をつけて立っている。


「緋山さん達は大丈夫なのかな」


 助けに行かなくてもいいのかな、と思っていたその矢先――巨大な爆炎が玄関のガラスドアを破壊する。


「うわっ!?」

「榊! 予測通り先に脱出していたか!」

「予測通りって、キミは明らかに破れかぶれで片っ端から爆破して出ていきましたよね?」

「そうは言ってもてめぇも仕掛けていた人形型爆弾を片っ端から自爆させていただろうが!」

「はて、なんのことやら」


 ガラスの破片が飛び散る中、緋山さんと之喜原先輩が文字通り銀ビルから飛び出してきた。二人の背後には炎が上がり、火災警報がけたたましい音を鳴らし続けている。

 それにしても之喜原先輩予想に反して結構過激で笑えないんだけど。ていうかヘンゼルとグレーテルってそういう事だったの!?


「いえ違いますけど? ヘンゼルとグレーテルは文字通り、超小型の人形を道中落として遠隔で操作することにより帰り道を把握しておく作戦ですよ」

「ついでに小型爆弾で追っ手を妨害するえげつない作戦でもあるがな。どっちにしろ」

「それはそうと、情報を聞き出せそうな人の一人くらいは連れてきましたか?」

「一応な」


 そういえば緋山さんが小脇に抱えているのは研究員っぽい人なんだけど……。


「離したまえ! 私の最高傑作がまだあそこに!!」

「もう遅いっての。之喜原が建物にとってクリティカルな所を爆破しやがったから、あと数分しないうちにこのビルは倒壊する」

「おやおや、それだとまるで僕が大量殺人犯みたいな言い方ではないですか」

「実際それくらいぶっ殺すことになるんだろ? このままだと」

「ええ。ですから呼んだんでしょう? あの魔人を」


 そう言って深夜の道路を見る之喜原先輩の視線の先に――


「――よぅ。オレをわざわざ呼んだってことはまーた尻拭いかよ。いい加減自分のケツは自分で拭けるようになれよ」


 空からまるで隕石の様に降ってきてアスファルトを割って着地してきたのは、俺の部屋に勝手に入ってきたあの魔人だった。


「つーかオレの代わりにテメェがやれって言ったはずだよな?」

「えっ? あたしっすか?」


 確かに言われたけど、実際にしなくちゃいけないとか思ってもいなかったです。


「死体を反転させれば――って、まだそこまで拡大解釈できねぇか」


 なんかボソボソって言われたけどよく聞こえないんですけど。


「とにかく、だ。何の用だ」

「この燃えている建物内で避難できていない人をここに呼び寄せていただきたいんですが」

「ここに……? 誰もいねぇじゃねぇか」

「ん? どういう意味だ?」


 俺も魔人の言っている意味が分からず首を傾げるばかり。


「言っておくが焼死体になって灰になったからって意味じゃねぇぞ? マジでいなくなっていやがる」

「おや? それはどういう――」

「――我々も随分と舐めてかかっていたようです。Sランクが大人しく捕まっているなど、少し考えればあり得ない話でした」


 俺達が燃え盛る銀ビルの上の方を見上げると、そこには宙に浮かぶオルテガの姿が。


「ハッ、その程度のおツムしかねぇ奴の研究なんざたかが知れてる」

「そうだそうだー、緋山励二もっと言えー」

「何煽ってんですか!?」


 魔人が何の目的でもって緋山さんを煽っているのか知らないけど、少なくともオルテガの余裕を崩し始めていることだけは分かる。


「……とにかく、パンドラが無事でよかった。これさえあれば、何度でも我々の計画は復活できる」

「……へぇー」


 オルテガの言葉は魔人に不敵な笑みを浮かべさせるに十分だったようで、何やら怪しげな俺の目からは怪しげなたくらみを企てている悪役のように思える。

 まあそれは置いておいて。


「そんなに大事なものなら、俺達の前で宙ぶらりんに浮かばせておいていいのか? 俺ならここからでも十分にぶっ壊すことができるが」


 夜の闇にまぎれてよく見えないが、確かにそこには不気味な黒い満月が浮かび上がっている。


「とにかく、こうなったら少し時間を稼がせていただきます」

「んだと?」

「明朝、楽しみにしていてくださいね」


 少し語気を荒げたオルテガは捨て台詞を残すと、不吉な満月と共に消えていく。


「……で、結局オレを呼んだ意味は?」

「……無くなったな」


 魔人は少し苛立ちを交えたように言い放ったが、緋山さんは特に何もといった様子で軽くいなす。


「そうか……じゃあ今からオマエの修行な」

「ハァ!?」

「一分後に分身送り込むからそいつブチ殺してから帰れよ。じゃないとひなた荘まで壊滅しに向かうからな」

「ふざけんなよ! 何で今から――」

「じゃあ頑張れよー」


 その場にがっくりとうなだれる緋山さんに、自分は関係ないといった様子でさっさと帰宅し始める之喜原先輩。


「……じゃあ、あたしも明日学校があるんで――」

「ハァッ!? ちょ、待てよ!」

「し、失礼しまーす!」


 俺も聞かなかったことにして、得意の逃げ足でその場を急いで去っていく。

 ――その後後ろで巨大な爆発が何度も何度も起こった事なんて知らないです。



          ◆◆◆(ここから三人称視点になります)



「――ここはどこだ! 私をどうするつもりだ!」

「どうもしねぇしむしろオレはテメェの味方だと言える」


 ほんの数分前、魔人は緋山達の前から消え去る際に、ちゃっかりと研究者である阿形を別空間に連れ去っていた。


「味方……だと……?」

「アァ。味方、だ」


 魔人は言葉巧みに冷や汗をかく研究者を惑わし、自分の思うままの計画を進めようとしていた。


「テメェの資料――『究極の力』とやらが気になってな」

「『究極の力』……ああ、あの双子のホムンクルスを使った実験のことか」

「そうだ。あの二匹はこちらの手で避難させてある……オルテガは元々興味を示さなかったのか、見捨てて他の研究員の転移に精を出していたようだが」

「何だと……あの詐欺師め!!」


 阿形は憤りを感じて青筋をたてるが、魔人だけが自分の研究材料を助けてくれたことがより信頼を寄せる一因となる。


「クククク、まあ落ち着けよ。二匹はオレが助けてやってんだからよ……あの二匹、『イノ』と『オウギ』を連れて、テメェはラグナロクを抜けろ。そして別の組織に入れ。そっちの方が面倒を見て貰える」

「その組織とは……一体何だ?」


 人道的に考えて表だっておこなえない実験でも、裏に紛れればいくらでもすることができる。


「その組織か? 組織の名は――」


 ――イルミナスだ。

そろそろこの編の七割まで来たので、次の編の複線ばら撒きも始めたいと思います。

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