第二十八話 えっ!? あたし女の子ですけど!?
「てことでまた屋上で作戦会議ですか」
「なんだよ、いけないのか?」
いえ全然。
「それにしても困りましたね。澄田さんの件について向こうが知っているとは」
放課後の屋上にて俺と緋山さん、そして之喜原さんが再び集まる。議題はもちろん、あのラグナロクとかいう組織のことについてだ。
「そういえば肝心の澄田さんは――」
「詩乃なら昨日の時点でヨハンのおっさんと日向さんに話を通してある。昨日の今日だから学校を休みにして家にいる」
まあそうなるでしょうね。俺としても下手に澄田さんまで引っ張り出して敵にどうこうされても嫌だし。
「今回動くのは俺と榊と之喜原の三人だけだ。目的は銀ビルに行って敵の動向を探ること」
「おや? 叩き潰さないのですか?」
「まだ潰すには情報が足りなさすぎる。それにどうもあのオルテガとかいう男、魔法使いくせぇんだよな」
「魔法使い? それは三十歳まで童貞だったらなれるという――」
「ふざけている場合じゃねぇんだよ之喜原! マジで言ってんだぞ!」
「分かっていますよ。その件については、僕もその筋を疑っていたところですから」
魔法使いといえば、確かにこの都市でも存在は認められている。力帝都市から外に出れば胡散臭い霊媒師だのエクソシストなどと言われるが、この都市ではしっかりとそれを認めている……らしい。元々Dランクだった俺は詳しく知らないけど。
「ふむ……魔法使いなら魔法使いでよいのですが、緋山君レベルの能力を防ぐとなると、それこそSランクレベルではありませんか――」
「違ぇよ、防がれたんじゃなくてありゃ一時的に別空間に退避していた可能性が高い。その証拠に、最後に俺達の前から去る時も、一瞬でテレポーテーションみてぇに消えやがったからな」
「なるほど。でしたら話はまた変わりますね」
さっきから之喜原先輩は色々と知ってそうなそぶりで話しているけど、魔法とか使えるのかな?
「之喜原先輩って、魔法使いに詳しいんですか?」
「まあ僕自身は変異種なので使えませんが、仕事柄接触する機会が多いので」
「ヘンテコな組織に首つっこんでいる内に、色々と知識がつくんだとよ」
「ヘンテコとは心外な」
之喜原先輩は少し怪訝そうな表情で緋山さんの方を見た後、俺に向かってにこやかに丁寧に魔法について説明を開始した。
「この都市では魔法使いが認められていることは既にご存知ですよね?」
「はい」
「魔法というものはその名の通り、魔法みたいなことが出来ちゃいます」
「えぇ……」
それ説明になっていないんじゃないすか……。
「そして魔法使いにも例外なくランクが振り分けられ、一番下のランクから順にCランクの魔術師、Bランクの魔法師、Aランクの魔導師、そしSランクの魔導王の順でランク付けされています」
「ふーん……じゃあオルテガってやつはどれくらいの実力なんですか?」
今までの話を聞いた限りで率直な質問をぶつけてみたが、それに対して之喜原先輩は少々困り顔といった様子で答えを出せずにいる。
「実を言いますと、魔法使いは能力と違って詠唱次第でいくらでも様々な種類の魔法を使えますので、専門家でもない限り一見しただけでランクを特定することは不可能といえますね」
「だが昨日の一軒を見る限り、俺の見立てでAランクはあると見た」
「そうですね……それと緋山君の砂を使った通常ですと回避不可の技を回避されたとなると、少し面倒になりましたね……もしかしたら物理系統の技が通用しない可能性すら出てきますね」
「……だからといって、詩乃を前線には絶対に出させないからな」
「分かっていますとも」
物理経緯等が効かない……? となると、澄田さんみたいにある意味幽霊になれる存在か、もしくは――
「――あれ? なんでお二方とも俺を見ていらっしゃるんでしょうか?」
「いや、な? 実体を反転させたら幽霊みたいになってもしかしたら敵に攻撃できるんじゃねぇかと思ってよ」
「偶然ですね。僕もそれを考えていました」
えっ、ちょ!?
「いやいやいや! 俺だって――女の子なんですよ!?」
そう言ってその場で反転してか弱い乙女アピールしてみせるが、元々が男だと知っている二人には通用する気配がない。
「安心しろ。万が一連れ去られそうになりでもしたら、俺が必ず守ってやるから」
「そもそもSランクの貴方がピンチに陥った時点で、Bランクの僕がどうこうできる話ではありませんが」
そう言いながら二人ともその場から立ち上がって、何やら支度を始める。
「さて、そろそろ行くか」
「ええ」
「えっ!? ちょっと待って!? 作戦も何もないですよね!?」
「でもお前が反転したってことは戦闘体勢とれてるよな?」
「えっ!? だからそういう意味じゃ――」
「おいてくぞー」
えっ!? ちょっと待って!? 結局作戦も何もない感じで行くんですかー!?