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第二十六話 Sランクの授業

「――つまり測定不能な程に馬鹿ってことか」

「クククク、この期に及んで軽口を叩けるとは流石はSランクか? それとも俺以上に馬鹿ってことか?」


 イラッ。


「緋山さん、ここはあたしが――」

「待て。今のお前が手の内を見せる必要はねぇ。俺一人で十分だ」


 そう言って緋山さんは俺の一歩前に出て、最初に俺に会った時と同様、地面を徐々に徐々に熔岩へと変化させていく。

 そして夜となった今、臙脂えんじ色に輝く地面はより一層緋山さんの顔を赤く照らし上げている。


「測定不可っつーことはよ、雑魚すぎて能力判定でなかったってことだよな?」

「ちっ、いちいち癇に障る野郎だ。あん時もいきなり俺様のツラをぶん殴りやがって、てめえからぶちのめしてやるよぉ!!」


 そう言って科方は何らかの能力を発動させるかと思いきや――ただひたすらに前へと突撃を始めた。


「チッ、救いようのないバカかてめぇは」

「そう思うんならさっさと攻撃してみろよ!!」

「言われるまでもねぇ」


 そう言って緋山さんは地面に手を当て、辺り一面に亀裂を走らせ始める。


「おい、お前は少し離れ――いや、かなり離れていろ」

「えっ、ちょ――」

「消し炭になりたいのか?」


 あーはいはい分かりましたよもう!

 俺はさらに広がっていく亀裂から逃げるように、二人が作り出していく戦場から退避しようとした。

 しかし――


「あ……もしかして既に障壁出来ちゃってる感じ?」


 そういえば最初らへんにSランクが絡む戦いは周りに被害が出ないように封鎖されるって話があったような、無かったような――


「――そろそろ始めるか」


 いやまだ始めないでください、俺まだ逃げ切って――


「とりあえずいっぺんくたばっとけ」


 緋山さんのこの言葉が、全ての皮切りとなった。


「なっ――」


 亀裂は赤く輝き始め、地鳴りと共に産声を上げる。

 ――そして次の瞬間、俺の目の前で火山が噴火した。


「うわわっ!?」


 あっつ!? ってか反転反転!


「熱風だから涼しい風!?」


 急いで指を鳴らし、俺の周りの風を反転させ、そして既にダメージを受けた箇所も反転させる。とりあえずこれで大けがは回避できた。

 しかしそれにしてもなんてことだ。これがSランクの戦い方なのであろうか。確かに辺りを封鎖しないと、こんなのどれだけ被害が出ているのか――って、ビルがあまりの熱でひん曲がっているし、それに噴き出した火山弾が遠くの建物を破壊しているしでおっそろしい光景が広がっているんですが。


「――『猛り狂う爆炎(ベルセルクブラスト)』って聞いたことあるか? ……って、もう消し炭になっているか……」


 かろうじて遠目に見えるのは、焼け落ちる鉄筋やその他もろもろの中に一人立ち、陽炎に歪む緋山さんだけ。


「これでもう流石に――」

「――危ない所でした。あと少しでも補正がかかっていなかったら、あそこでコンクリートに潰れされている標識と同じ末路をたどっているところでしたよ」

「何だと? ……どういう意味だ」


 そして俺は、遠くで衣服をボロボロにしながらも、ニコニコとした表情で立つ科方の姿も目にすることとなる。


「嘘でしょ? あれの中で生き残れるの? あたし外にいたのに結構ダメージ喰らったんですけど」

「おい……」

「いやすぐに治したんで大丈夫ですよっ!」

「おやおや、その言い分ですとそこの御嬢さんもまた、何らかの力を持っているご様子で」

「チッ!」


 無駄に敵に手の内をさらすこととなってしまって舌打ちをする緋山さんだけど、まだこの程度は他の能力でも代用できそうな気がするから大丈夫でしょ。俺の能力の真骨頂じゃないわけだし。


「それにしてもどうやって回避しやがった。辺り一面全部ぶち壊す勢いでやったわけだが」

「おやおや、でしたら私以外に大勢の人が死に追いやられたのでは? そうなっては私の心が痛んでしまいます」

「ケッ、何が心が痛んでいる、だ。それにここいらのやつ等は俺とおしゃべりしている間にとっくに避難済みだ。死人なんざいるはずがねぇよ」

「本当ですよ、この時の間だけは本当に心を痛めているのでしたが……そうでしたか、被害を受けた方はいらっしゃいませんでしたか…………だったら遠慮なくてめぇをぶちのめせるよなぁ!!」


 そこからまた態度を豹変させ、今度は科方の猛攻が始まる。


「オラオラオラオラァ!!」

「単純な殴り――ッ!?」


 そう、単純に殴りつけるだけ。しかもまだ拳の射程範囲の外から。それでも緋山さんはダメージを負った。

 ただの拳圧で。


「ッ、どうなっていやがる!? 遠距離攻撃か!?」

「全然違いますぅー、馬鹿には追撃イッとくかぁ!?」


 緋山さんと科方、拳と拳の肉弾戦。身体強化フィジカルチューン型じゃない緋山さんは足元に熔岩を発生させるなど相手の移動から封じて戦いを有利に進めようとするが――


「――ぐっ、なんで避けれるんだよッ!」

「ハッハァー! 逆に単調すぎて欠伸あくびが出るぜ! そんなもんで澄田詩乃を守りきれるとでも思っていたのがお笑いもんだなあオイ!!」

「ッ!? まさかそこまで知っているとはよ……上等だてめぇッ!!」


 ――傍目に見ると、それはまるでカンフー映画のように思えた。怒りに任せて必死で殴り掛かる緋山さんに対し、科方は軽々とかわしていきつつ的確に殴打、蹴りを加えていく。

 少しずつだが緋山さんが押されている。その姿を前にいてもたってもいられなかった俺は、思わず加勢に入ろうとしたが――


「――なっ!? どういうことだ!?」

「本当はてめぇごとき(・・・)に使いたくなかったんだがよ……俺にとっちゃ、噴火させる能力なんざ元々オマケみたいだったもんだ。本領発揮はこっちの方よ」


 そういう緋山さんの横腹には、科方の蹴りがめり込んでいる。

 いや違う、科方の蹴りが刺さっているんじゃない。緋山さんの方の身体が変化している。

 緋山さんは自分の身体の一部を砂に変化させ、不敵に笑いながらこう言った。


「――おい榊、万能ヴァリアブル型ってのと第二能力セカンダリってのは聞いたことあるか?」


 いや全然。


「この際だからレクチャーしてやるよ、このゴミクズ野郎を使ってなぁ!」

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