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第十七話 首取屋

「うーん……どうしたものか……」


 反転を解いて家のベットに寝転がり、俺は改めて考えをまとめていた。

 均衡警備隊バランサーの奉仕活動の一環としての依頼として、オズワルド=ツィードリヒが持っているであろう変異種(スポア)に関する重要な研究データが記録されたチップの回収。これはまず最優先事項であることは間違いない。そのついでとしてそのオズワルドの捕獲。これは名稗からの依頼だが、少なくとも依頼に対する報酬は用意するとも言っていたし、できる限りこなしておきたい。


「となると……やっぱり駄目だ」


 いつもみたいに守矢や栖原に手伝ってもらおうにも、今回は大義名分もないし(まだ色々と疑惑が晴れていないし、奉仕活動なんて自業自得って言われそうだし)。かといって澄田さんは戦わないだろうし、まず緋山さんと明日デートってリア充爆発しろ。


「ラウラは……アクセラのお守りがあるし」


 台所で流し台の片づけをしているラウラの方を見つめて、俺はポツリとつぶやく。流石にアクセラを一人で置いておくわけにはいかない。ギルティサバイバルの時はラウラがずっと見てくれていたからいいものの、そうそうと一人にするのもよくないと『アイツ』も言っていたし。

 ところでアクセラはというと……テレビに釘づけのテレビっ子となりつつある。本当なら同年代の友達でもいておかしくはないのかもしれないが、何せ別世界の子故にこの世界に友達と呼べる同年代の子は――


「……今度守矢に紹介してみるか。となると……」


 やはり一人でやるか、もしくは癪だけどアクアと手を組むしかない。


「早速連絡しよう」


 これからの考えをうまくまとめることが出来たところで、俺は再び反転し直して早速数藤から教えてもらったアクアの連絡先へと電話をした。


「……あっ、もしもし」

「誰かしら?」

「あたしよ、榊だってば」


 いつも思うが、口調まで女の子っぽくなるのは知らず知らずのうちに性格まで反転してしまっているからなのだろうか。いつもならば穏便に済ませる案件も、何かと能力で踏み倒している気がしなくもない。

 物思いにふけっているせいか、相手の呼びかけを俺は何度か無視していたらしく、目を覚ますような罵声が飛んでくる。


「貴方の方から電話したのに無言は無いでしょう!!」

「あー、ごめんごめん。それはそうと――」

「どうせ、例の賞金の件でしょ?」


 だったら話は早い。俺は改めて手を組もうと提案を投げかけようとしたが――


「残念だけど、もうワタクシの方は狙いを変えたし、数藤にも納得してもらったから、貴方一人でオズワルドを追って頂戴」

「……は?」


 一体どういうことなのか、俺は一瞬言葉に詰まってしまった。その間にもアクアは更に事情を説明することで、俺に手を貸すことは無いことを決定づけていく。


「実は『冷血クルエル』って人と、もう一人の方を追うことになったのよ」


 多分それ俺も知り合いになると思うんだが。殺しあったけど。


「ネットで知り合っ――じゃない、たまたま手を組むことになった訳」


 ゴスロリ衣装の癖に変な所はハイテクだなオイ。いや、最近だと一周回ってそれで合っているのか?


「じ、じゃあオズワルドを追うのは止めたってこと!?」

「だからそう言ってるじゃない。ついでに、捕まえたら均衡警備隊バランサーの奉仕活動も終わりだって数藤からの伝言もあるわ」


 奉仕活動も終わりなのはありがたいが、それでも一人なのは心もとない。なにより恐らく――


「あたしにあのゴキブリっぽい奴を一人で倒せって事なの!?」

「あら? 虫の一匹や二匹、潰せばいいじゃない」


 そのゴキブリを潰さずに生かして捕まえる以来まで追加されてるから問題なんですよ!


「とにかく、あたし一人じゃ無理だっての!」

「ふーん……まあ私の方も『冷血』の手を借りないと中々戦うだけでも一苦労だから、貴方にも紹介くらいはしてあげるわ」

「紹介って何を……?」


 恐らく今頃電話の向こう側ではどや顔でふんぞり返っているであろう姿が想像できるほどに、アクアは自信たっぷりの様子で俺に対してこう述べてきた。


「私が贔屓にしている賞金稼ぎ二人と合わせてあげるから、その人達とがんばって頂戴。依頼料はオズワルドの賞金を使えばいいから。集合場所は後でメッセージを送るから、じゃあねー」

「ちょっと! 待ちなさ――って、通話きれてるし」


 代わりにメッセージだけが届けられており、俺は一通り目を通すとひとまずその二人組の賞金稼ぎとやらと顔合わせをするしかないと、俺はベッドに身を投げてその日一日を終えた。



          ◆◆◆



 翌日、俺は第三区画にあるショッピングモールの一角にあるハンバーガーが売りのチェーン店のテーブル席に一人座っていた。少なくとも周りに一人で座っている客はいない中、独り孤独に座るSランクというある意味普通ともいえる光景がその場に広がっていた。


「そういえば、元々Sランクが誰かとつるむこと自体が珍しいんだっけ」


 頭にSランク同士で、という言葉が付きそうだが今はそんな事はどうでもいい。問題は――


「――時間をかなり過ぎているんだけど」


 流石に待ち合わせを三十分以上過ぎている状態で一人この場所にいるのは俺のDランク時代の虚しさが蘇ってくるからそろそろ来て貰わないと俺の心が折れそうです。というか、早く来てほしい。

 そう思っていると、突然として目の前に相席を求めてもいないのに俺と同年代くらいの少女と大学生くらいの女性のコンビが勝手にテーブルの反対側に腰を降ろそうとしている。


「ちょ、ちょっと何ですか!?」

「えっと確か、榊マコさんですよね? この度は我々『首取屋ネックハンガー』をご利用いただきありがとうございます」

「そうだけど……」


 二人のうち片方、俺と同年代と思わしき少女はよく見れば背中に一振り大剣のを背負っている。それに流石は賞金稼ぎというべきか、髪が邪魔にならないようにと後ろで短く束ねてある。発育の方は……残念ながら俺の方が凹凸がある。といっても、そもそも手前味噌かもしれないが俺自身、澄田さんとタメを張るくらいには中々にナイスバディだからしょうがない。後はその妙に純粋そうな、賞金稼ぎを名乗る割には人を殺した事など無さそうな真っ直ぐとした瞳をしているのがある意味眩しい。

 そしてもう片方、こちらの方は小晴さんよりも更におっとりしてそうな、どこを見ているのかすらも分からない糸目の女性であった。これまた服装からして賞金稼ぎというような雰囲気などまるでなく、長いスカートに半袖の上着と大人しい服装である。まあ、その大人しい服装の上から見えるボディラインは中々のものだが。そして何より、先ほどから随分と静かにソファにもたれかかって、って――

「ねぇ、あんたの相方早速寝てない?」

「あっ! ちょっとなるさん!? 仕事だから起きないと!」

「えぇ……眠たいし、怠いし……貴方がやればいいじゃない」


 何ともだらしない人だ。それにしても無防備すぎる。服がはだけて色々と見えそうなくらいに。


「……本当に大丈夫なのかな」

「だっ、大丈夫ですって! なるさんもやる時はやるんですから! ……たまに暴走しますけど」


 暴走という物騒な言葉が出てきたところで、この剣を担いだ少女となるさんと呼ばれている女性の素性が気になってきた俺は、率直な質問を二人にぶつける。


「それで? 二人は能力者なの? それとも魔法使い?」

「えっ? あー! 紹介が遅れましたね!」


 そこで改まった様子で両手を膝に置いて、剣を背負った背中を姿勢よく伸ばして、少女は俺に対してとびきりの営業スマイルを見せていつも述べているであろう営業文句を並べる。


「毎度ご利用ありがとうございます! 迅速丁寧! 即日遂行! 『首取屋ネックハンガー』の獅子河原ししがわら神流かんな椎名しいな鳴深なるみが、必ずあなたのご要望にお答えしましょう!」


 これはこれはご丁寧に。それにしても、『首取屋』ってなかなかに物騒な名前だよな本当に……。

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