第二十五話 豹変する男、科方藤坐
「別に俺といる時は反転しなくてもいいんだが」
「い、いやーできる限り能力に慣れておかないとって思って」
「……実はお前女になるの癖になってきてんだろ?」
ぎくっ。そ、そんな訳ないじゃないですか……。
「別にそういう訳じゃないですよーやだなー」
「棒読みで言われても何の説得力も無いんだが……」
といった感じで、俺は私服の女の子になった状態で緋山さんと二人で学校から帰っている。
反転したのは性別、制服から私服といった感じでだいぶこなれてきた。
それとどうして今回澄田さんがいないのかというと、先にヨハンさんが車で送っていったとの連絡が緋山さんのVPに来ていたらしい。理由は簡単で、今日のアパートの料理当番が澄田さんだからそうだ。
「それはそうとグレゴリオから聞かせてもらったが、お前Sランクになったらしいな」
「はい、カードももらいました」
「あの胡散臭い眼鏡のやつから貰ったか?」
「『秤』の人ですよね?」
「ああ。あいつがこの街のランクを管理しているからな、嫌でもこれから何度も顔を合わせることになるだろうよ」
あんまりいい雰囲気の人じゃないから、俺としては会いたくないんだよね。
それはそうと緋山さんに早速貰ったカードを見せようとしたけど、緋山さんに「あまり人前で出すな」と一喝され、渋々またポケットの中にしまい込むことに。
「そんなもんを簡単にちらつかせるな。バカが寄ってくるぞ」
「分かっていますよ。緋山さんにだけ見せるようにしたんです。それと、女の子になるのも緋山さんとか澄田さんの前でしかしていないですし」
「……そうかよ」
あれっ? 緋山さんもしかして少し照れてる? 気のせいだよね。
「それよりもお前に伝えておきたいところがある。例のあの男と、ラグナロクについてだ」
「ラグナロクはともかく、例のあの男って……ああ、もしかして科方藤坐のことですか?」
「ああ、お前をぶん殴ったクソ野郎だ。そいつもどうやら昨日、能力検査を受けたみたいだな……お前と同じ研究所で」
ぎくっ、もうそこまで調べがついているんですね。
「……結局そいつのランクってどれくらいだったんですか?」
「……それがな――」
「おやおや、誰かと思えばこの間は私をいきなりぶん殴ってきた方と……あの後研究所の外で待っていたのですが、いつまでたっても出てきませんでしたね。まさか夜通しで検査を受けておられたのですか?」
嘘でしょ? 俺一応出る時に確認したけどいなかったんですけど?
俺が内心怯えると共に不思議に思っていると、何やら科方の方はブツブツと小さく何かを呟いている。
「これは補正が足りなかったか……ちっ」
「補正……?」
「分からんが、あいつの能力と関係があるかもしれないな」
「……まあいいでしょう。それよりもこの前から気になっていましたが、お二人はどういった後関係で? 特に緋山励二さん、貴方には澄田詩乃さんがいるはずでは?」
「んだよ名前知ってんのかよ……つーかてめぇには関係ねぇだろ。こいつは詩乃の友達で、たまたま帰り道にあった。それだけだ」
「ふぅん……そうきますか」
辺りも既に暗くなり、街にはびこる空気も異質なものとなっていく。科方の纏う雰囲気も、それまでの柔らかな物腰から少しずつあの本性とも思える者へと変わっていくのを感じ取れる。
「一応知らなかった場合困るから教えておいてやる。夜間は六時以降、自室内にいない奴にだけ戦いを仕掛けることが出来る」
「えっ? それって逆に昼間は不意打ちありってことですか?」
「昼間の不意打ち程度でやられる奴のランクなんざそんなものだ」
そんなむちゃくちゃな……といいたいけど、元々力を誇示する都市だしそんな者なんだろうと納得せざるを得ない。
そして緋山さんがわざわざ今それを言うという事は、既に相手の意図を読み取って戦闘態勢に入っているという事。
「今何時だ?」
「今……六時をまわった所です」
つまり夜間限定ルールが適応され、今俺達が外にいるという事は場合によっては戦わざるを得ないという状況になる。
「フフフフ……友達の前でもいい所を見せてあげなければ、ですからねぇ……特にSランクは」
「てめぇこそ猫被らなくてもいいのか? その下卑た本性が見え隠れし始めている気がするが?」
「くくくく……最初は下手にでりゃいいと思っていたけどよぉ、やっぱ駄目だ。女ってやつは無理やり押さえつけて従わせた方が手っ取り早いってなぁ!!」
今まで大人しく降ろされていた髪が、急に逆立つ。科方藤坐の本性が、俺達の前で如実にあらわになる。
「緋山励二、確かてめえのランクはSランクだって話だよなあ? 俺も昨日能力検定受けたんだけどよ……研究所じゃ決められずに測定不可って言われちまったぜヒャーハハハハッ!!」