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第十六話 全ての歯車が回り始める瞬間

「――というワケなのよぉ」

「というワケになってたまるか!」


 なんで女子会に女子とは言い難い年齢の名稗が当然のごとく入り込んでいるんだって話だ。


「でもそれを言ったら榊もダメじゃないですか」

「うっ……」


 反転している時は身も心も女子とは言い切れない自分がなんとも情けない。いや、言いきったら言いきったでマズいけれども。

 いまいち反論ができない俺の立場を知ってニヤつきながら、名稗は机に置いた写真を指差して俺に向かってその場の四人に情報を流し始める。


「なんか噂によるとぉ、市長がとある二人の能力者に莫大な賞金を掛けたらしいよぉ」


 Sランクに賞金……? 均衡警備隊バランサーですら手におえないときにかけるような賞金を、わざわざ市長名義で掛ける意味が俺には理解ができなかった。


「そしてその二人の写真がこれって訳ぇ」


 続けて名稗が机の上にスライドさせた二枚の写真を見て、俺は二重に驚くと共に動揺を隠せずにいた。


「なっ、えっ、ちょっとこれは――」

「ねぇ? 中々面白いでしょぉ?」


 全身を黒の包帯でぐるぐる巻きにされた男の写真と、その姿かたちはAランクへの関門であるはずが灰を被ったような白い髪と灰の内側で燻ぶるかのような紅蓮の瞳を携えた『大罪』の姿を映した写真。


 ――『苦労人G(クローリング)』、オズワルド=ツィードリヒ。

 ――『フレーム』、穂村正太郎。またの名を、アッシュ=ジ=エンバー。

 

 いずれにせよ俺とはある意味縁のある奴らだ。


「……それで、わざわざこれをあたし達に見せに来た理由って何?」

「別にぃー? 面白そうな話だから振っただけでぇ」


 その割にはこっちの動揺を予定通りといわんばかりにニヤついた表情で見ている辺り性格の悪さが推し量れるのだが。


「せっかくSランクがいるんだし、狙ってみればぁ?」

「別にSランクだからカードで十分まかなえるし……」


 一体何のつもりでいるのかは知らないが、俺が目的としているのはこの二人の内でもオズワルドだけ。しかもそれをわざわざ名稗に教える義理もない。しかし最初にわざとアクアとゲオルグの写真を見せてきた辺りから何かしら考えがあるかもしれない。


「……まあこの写真の人達Sランクだし、それがわざわざ市長の件でAランクの関門を殺しに行くらしいから、あんたはどうするのかなーって思ってさぁ」

「どうもしないっての」

「つまんないわね」

「そりゃどーも」


 下手にオズワルドを狙っていることを悟られるのも面倒だし、ここはさらっと受け流して終わろうと思っていたが、名稗は一向にこの場を立ち去ろうとしない。


「……で? いつまでここにいるワケ? 用は終わったんでしょ」

「…………」


 名稗はそれまでのからかうような態度を変えて、神妙な顔つきとなって俺の方をじっと見つめる。口を閉じ何も言葉を述べないが、その目で何かを訴えている。


「……はぁ、ごめんみんな。あたし少しだけこの人と別席で話してくる」

「うん、いいよ」

「ありがとう澄田さん」


 そう言って俺は所狭しに料理の置かれたテーブルを後にして、名稗の誘導に従って改めて綺麗にメニューと薬味類だけが置かれているテーブル席へと腰を降ろした。


「その調子だと、この人に何かありそうだけど」


 俺はそう言って先ほどテーブルから回収していた写真の内の一枚、オズワルドが写った写真を改めて名稗の前に差し出す。


「……まさか、例の『最初期の能力者プロトタイプナンバーズ』に関連してる感じ?」

「まさに、その通りってトコロ」


 それまで見た事が無かった真剣な眼差しで俺の方を向いて、声色もいつものお調子に乗ったものではなく低い声で答える。


「そもそも何なの? この力帝都市で、能力者に何が――」

「そんな事はどうだっていい。今はあたしの依頼にはいかいいえで答えて」

名稗は写真を指さして、俺に対するある依頼を一つお願いにかかる。

「この人を生け捕りで捕まえて欲しい」

「えっ、別にいいけど……」


 どうせ数藤に引き渡す時もそのつもりでいた俺はあっさり返事を返したが、名稗は目を丸くしていた。


「あ、あんた……本当にいいのかい?」

「だから、別に生け捕りって元からそのつもりで――」

「あんた市長の賞金を出す条件ちゃんと見てた?」


 ここで名稗から追加事項といわんばかりに端末を見せられ、そこに載っていた賞金を出す条件を確認する。するとそこには二度目の俺の動揺を誘うような一文が載っていた。


「賞金の条件は……対象を殺すこと!?」

「要は皆がオズワルドの首を狙っているってことになるんだけど」


 一気に難易度が上がったんですけど!?

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