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第十五話 Sランクが集まりだすと大抵ヤバいことが起きる法則

 こうしていつもの喫茶店に四人集まるのは、何時ぶりになるだろうか。日々山積みになる問題を忘れられるこのひと時が、今まさに俺には必要だったのかもしれない。


「榊が男と判明してから二回目の女子会? になりますね」

「何で疑問符が付くのさ」

「だってマコさん――じゃないや、真琴は男じゃないですか」


 お前だって実際見た目だけは男みたいだろ、とかいったら栖原からぶっ飛ばされるんだろうなぁとか思いつつも、今まで騙してきたようなものの負い目から、俺はただ苦笑いを浮かべるばかり。


「そりゃそうだけどさー……」

「そういうことで! この場は全て榊の奢りです!」


 何も言い返せないのをいいことに、守矢は俺に無理難題を――って、それっていつも通りのことじゃないのか?


「あんまり今までと変わらない気がするのはあたしの気のせい?」

「何を言っているんですか? 今までは遠慮がちに注文していたのを遠慮なく注文できるんですよ!」


 いやそれでも元々Sランクのカードなら全て無料だから意味がないと思うんだが。


「……これでも、要ちゃんなりにマコちゃんをフォローしてくれてるんだよ」


 メニュー表の料理に目移りしている守矢と栖原をよそにして、俺の隣に座ってくれていた澄田さんは密かに耳打ちをしてこの会の真意を俺に伝えてくれた。


「実は一回だけ、マコちゃん抜きで女子会を開いたんだ」

「そうなんですか?」


 それを聞いたところでどうしたと思っていたが、どうやらその内容が俺に関することだったようで、しかもそれを俺自身に聞かれたくなかったらしい。やはり本人を抜きにして、本当のところどうなのかということを話していたようだ。


「マコちゃんが真琴くんだって分かった時、茜ちゃんは最初怒っていたんだけど、それまで色々とみんなのために動いてくれていた事とかを考えると複雑だったみたいで」


 普通に考えたら野郎が懇切丁寧な女装して女子の間に混ざっているという恐ろしいことなんだが、それまで澄田さんや栖原の為に色々と考えて行動していたことと、この女子会メンバーの中で女子更衣室に行くような真似は決してしていない(何回か澄田さんに下着店に引きずり込まれたことはノーカン)という二つの功績がある。

 それよりも一番は消えかけていた澄田さんの為に俺がどれだけ必死に動いていたのか澄田さん自身が話してくれたみたいで、そのおかげか一回目の時ほど張のむしろ感は無くなっている。


「さて! 今日は榊によるフルコースですぜ!」

「料理するのはここの人だけどね」


 それにしてもどれだけ注文をしたのか、俺は要が手に持っている店員要らずのタッチパネル式のメニュー表を取り上げて目を通した。するとそこには俺どころか隣で座っている澄田さんですら目が点になるような、おおよそ女子会で注文されるような内容とはかけ離れた量の注文がなされていた。


「ちょっとこれ、ちゃんと残さず食べられるの?」

「いやそんな悠長なこと言えたものじゃないですよ澄田さん! 明らかに男が食う量ですよこれ!」


 俺と澄田さんの感想を聞いてようやく我に返ったのであろうか、守矢と栖原は俺の手からメニュー表を取り上げては自らが頼んだはずの料理の個数を数え始め、そして二人顔を見合わせて青ざめた表情を浮かべ始める。


「だぁああああー! せっかく体重を減らしたのにまた増えてしまいますぜー!」

「どうしよう最近筋トレの為に食生活に気をつけ始めたばかりなのにー!」

「栖原のそれは女子とはかけ離れている気がするのはあたしの気のせいか……?」


 俺の冷静なツッコミをよそにして、テーブルの上には注文した料理が続々と並べられ、渋滞を起こし始めている。


「どうしましょう! 食べきれる訳がありませんぜ!」

「そうだ! 真琴くん! この料理を――」

「いっておくけど、あたしの能力を当てにしないでね」

「なんで!?」


 Sランクの能力をそんなくだらないことに使わないでほしいと、俺は今まで自分がやってきたことを棚に上げながら栖原の提案を却下した。


「じ、じゃあどうすれば――」

「それじゃあ、あたしが食べてあげよっかぁ? 何だったらそこの可愛い男の子も一緒にさぁ」

「なっ!?」


 俺が振り向いた先――反対側に座っている栖原と守矢が唖然とした視線の先には、俺が寄りかかっていた椅子にもたれかかる元賞金首の姿が。


「なんであんたがここにいるのよ!」

「何処にいようがあたしの勝手じゃなぁい?」


 長い髪を俺の上から垂らし、そして相も変わらず澱んだ眼をした最初期の能力者の一人、それがこの名稗閖威科の特徴であった。


「あたしが全部食べてあげてもいいけどぉ」

「それじゃ、あたしの能力で反転させるからどんどん食べてー」

「って、折角でてきたのにそれは無しじゃなぁい!?」

「だって相手にするのも面倒だし」


 名稗の相手をして得したことなんて一つも思い出せない現状、相手にするメリットが一切見受けられない。


「そんなこと言っていいのかなぁー? あたしだけが知ってる榊マコの秘密、ここでバラしちゃうぞぉ?」

「榊が実は男だってことならみんな知ってますけど」

「ちょっ!? マジで!?」


 どや顔が見事に肩透かしになった所で俺は名稗にこの場から退場して貰うように言ったが、それも一枚の写真を前に開こうとした口が閉ざされる。


「それなら、これはどう?」

「……えっ、それは――」


 そう言ってなびえが取り出したのは一枚の写真。そこに写っているのは最近俺がよく一緒にいるゴスロリコスプレ少女のアクアと――


「何であの冷血野郎が一緒なのよ……」

「なんでって、そりゃ裏で色々とSランクが動いてる案件があるってことを教えてあげようかなって思ったんだけどぉ」


 ――返り血を浴びた氷結の殺し屋の姿が、そこにあった。

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