第十二話 目的は同じ、でも道順が違う
「……何で貴方がここにいるのかしら。それも、『ダストクイーン』を引き連れて」
今俺と小晴さんの前に立っているのは、ゴスロリスタイルの少女。そしてその服装を着こなす者で俺が知っているのは二人。しかし片方は既に変態狼男と実家に帰っているからこの場にはいない筈。
となれば自動的に一人に絞られることは自明の理であり、そしてほんの一日前に見た筈の顔を俺が忘れることなど無い。
「あんたこそなんでここにいるのよ」
「私は新しい服を買いに来ただけよ。貴方達こそそんな大きな荷物、どうするつもり?」
「同じく服を買っただけよ。ただ、あたしも小晴さんも着ないけど」
そう言って俺は両手にぶら下がる大きな紙袋を軽く前に差し出すようにしてアクアに見せつけると、アクアは何かいたずらでも思いついたのか右手に小さな水玉を作り始める。
「……あんた、それで濡らそうなんて下らない真似考えてないでしょうね?」
「あら? それはどうかしら――」
「お願いだからイタズラは止めて貰えるかしら?」
カチャリ、という金属音と共にアクアの額につきつけられたのは水鉄砲ではなく本物の鉄砲――って何やってんですか小晴さん!?
「へぇー、喧嘩を売ってるのかしら?」
「そんなもの投影しちゃってどうするつもりなんですか!?」
「あら? Sランクが戦闘態勢に入ったのよ? それなりの武装ぐらいはさせて貰うわよ?」
だからといって即座に鉄砲投影はやり過ぎな気がするのは俺にまだSランクじゃなくて一般的の常識が残っているからだと思っておこう。
「まったく、ここでSランク同士がぶつかったら面倒事になることぐらい考えなさいよ」
「だったらまずその鉄砲を納めさせなさいよ。話はそれからでしょ?」
「貴方の方こそ、その怪しい水の弾を解除したらどうでしょう?」
一触即発。というよりもどうしていきなりアクアの方から仕掛けてきたのか。理由も分からずに戦いが起ころうとしている事に俺は困惑しながらも、ひとまずアクアの方を何とかなだめようとしたその時だった――
「――ッ!?」
「爆発!?」
「ちっ、何よもう」
それまでの緊張した意識は別の方向へと向けられることになった。俺の視線の先に移るのは二人の少女の対立する姿ではなく、巨大なビルの屋上が爆破され、瓦礫が一面へと落ちてくる風景である。
「くっ、重力を反転!」
俺はとっさに落ちてくる瓦礫の重力を反転させ、落下から浮上へと瓦礫の向う向きを逆に反転させる。小晴さんはというと俺が対処したことで特に動揺などする様子もなく俺が反転し損ねて落ちてきた小さな破片だけを反射させている。
そしてアクアはというと、俺とは違った意味でその爆発に驚きの表情を隠せずにいた。
「はぁ!? あのビル今から私が用がある場所ですけど!?」
「どういうこと?」
「数藤と待ち合わせをしているのよ! ……あれは」
アクアが目を細めて対象を見つけると同時に、俺と小晴さんもその倒壊するビルの壁を這う一人の男の姿を目の当たりにする。
「……あれってもしかして」
壁を這う黒いミイラ男。俺はその人間を知っているというより、今までずっと追っていた。
「『苦労人G』……ようやくターゲットを見つけたわ」
「お二人とも、あの方とお知り合いでしょうか?」
知り合いというよりも、捕獲対象といった方が正しいだろう。先ほどの爆発も恐らくあの男の仕業だということは想像するに容易いだろう。
「しかしそれにしてもあいつの能力、爆発させたってことはそれなりに攻撃力のある能力と見ていいんだよね……」
それにしても第十四区画にいるってのは嘘だったの? ここ何の区画か分かってるのか?
「数藤! 数藤! ……電話に出ないわ」
アクアが焦っている様子だがそれだとこちら側もそれはまずい。
「……もしかして数藤博士死んじゃった可能性あり?」
「だったらすぐに行く必要がありそうじゃない」
俺とアクアがビルの方へと徒歩で向かおうとしたその時だった。背後からバラバラと風切り音と共に暴風が背後から吹き荒び始める。
「なっ!?」
「また爆発――」
「歩いていくよりも、こちらの方がいいと思いますよ?」
俺とアクアが振り返ると、そこには戦闘用ヘリコプターを投影した小晴さんの姿と、Sランクの戦闘を察知してせり上がる壁が視界に映る。
「どうやら市長さんも公認するようですし、思いっきりやりましょう?」
「……やっぱり、小晴さんどこか捻子が外れている気がする」




