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第十話 たらいまわしの気配

「クヒヒャハッ! 面白ぇヤツを連れてくるじゃねぇかクソガキィ。ちったぁ褒めてやってもイイってかァ?」


 灰を被ったような髪色に、内に潜む熱を映し出す紅の瞳。服装は相変わらず中二病的な髑髏のシャツにジーンズなんだけど、その所々が能力のせいか黒く焦げてついている。

 そして俺は、その人物の別人格(?)を知っている。


「……穂村、正太郎……」

「アァ? ……ククッ、そういえばコイツの名前がそうだったなァ。あれから一週間たつがずっと外に出てくる気配もねぇから忘れかけていたぜヒャーハハハハハハ!!」


 言動からして中二病を通り越して傲慢さながらに思えるのは彼が元より持つ素質せいかくのせいであろうか、それとも内に秘められた別の因子が原因なのか。今の俺には全く以て判断が付かない。


「それよりも、だ」


 目の前にいる魔人に似た存在――ソファの上で足を組んでVPをいじり倒す不良の姿、見た目はあのAランクの関門であるが、中身が違う。違い過ぎる――


「――テメェ、オレ様と同じ……いや、『大罪』っつった方がテメェ等の方に伝わるかァ? ソイツを持ってるだろ」

「ッ!」


 ――“ありゃりゃ、一発でバレちゃった?”


「……ちょっと黙っててもらえるかなー」


 どうやらやっこさんには俺の素性がバレてるっぽいけど、あくまでしらをきるつもりでいる。


「ケッ、あくまでしらをきるつもりか。まっ、いいだろ」


 そういうと灰色の不良はソファから立ち上がると、右手に握っていたVPを灰に――って、燃やしちゃってどうするの!?


「あんた馬鹿なの!?」

「ハッ! よりにもよってオレ様を馬鹿呼ばわりとは面白れぇじゃねぇか! クソがよォ」

「誰がクソ野郎――って」


 ――もしかして俺のこの姿が本来とは違うってバレてる!?


 ――“まあ、キミが知らないだけで以前ボクは戦ったからね”


「ちょっとあたしの中で勝手にしゃべらないでくれるかなー」

「テメェまさかオレ様にバレてねぇとでも? テメェが本当は――」

「ちょっといいですか! うちは榊がとある人を探しているっていうんでみんなで手伝いましょうって話に来たんですけど!」


 穂村(?)が俺に向けてくる詮索を遮ったのは、俺をここまで連れてきてくれた守矢要だった。


「穂村も! その辺にしてください!」

「んだと糞ガキ――」

「まあまあ正太郎さん、落ち着かれてはいかがでしょう」


 それまで大人しくソファに座っていた少女――守矢もりや小晴こはるがここでようやく穂村を宥めに入る。


「だぁーから、オレ様は穂村正太郎じゃねぇっての!」


 まあ言動からしてあの穂村じゃないことは皆も承知の上だと思うけど。特段『大罪』に興味とか知識が無かったら、単に穂村がご乱心しているようにしか思えないよね。


「いいか何度も言わせるな! オレ様の名前はアッシュ=ジ=エンバー様だ! そのシケた脳みそにしっかりと刻みこめ!」

「そうですね、正太郎さん」

「マジで殺すぞクソアマァ……」


 ――“一応これでもボクと同じ『大罪』だから……”


「あー、うん、そろそろいいかな?」


 俺の中にいるアイツの様子も含めて、この問題児は下手に相槌を打った方が面倒になることが分かってきた気がする。それを理解した俺は自分の用を済ませるためにさっさと今回の要件を離し始める。


「実はちょっと人探しをしていて、それでこのへんの地理に詳しい守矢四姉妹に訊いた方が早いと思って」

「クヒヒッ、確かにここ最近キナ臭い野郎がいるみてぇだからな」


 どうやら穂村改めアッシュの方も勘づいている様子で、俺の言葉に追従する形でその侵入者の事について話し始める。


「ただ這いまわってるだけの蛆虫だったらいいんだけどな、キヒヒッ!」

「それがどうにも研究者の研究対象みたいで、アタシはその捕獲依頼を任されたってワケ」


 特に隠す必要も無いと思った俺はつらつらと今回の目的を話し、大抵の者の理解を得ることが出来た。しかしその場において守矢小晴がふとした様子で疑問を投げかけてくる。


「あら、そういえばあのサバイバルの後貴方だけが何故か均衡警備隊バランサーに素直に捕まったみたいだけど、何のお咎めも無かったのかしら」

「……何もなかったわよ」


 今まさにそのツケを払っている真っ最中とはいえない。


「ハッ、せいぜい足掻くこった――」


 一瞬の出来事だった。穂村アッシュの頸椎を貫く銃剣バヨネットと同時に、それまでいなかった次女の姿がその場に現れる。


「いい加減にくたばれ!」

「――ッ、バカじゃねぇかテメェ」


 烈火のごとく怒りの声を挙げる守矢もりや和美かずみ。それに対して折れた首を向けて嘲笑を送る怪人。『大罪』という常軌を逸した存在に、躊躇なく致命の一撃を加える少女。一触即発の雰囲気に俺は思わず息を呑んだ。


「いい加減、我々の元から去れ!! 穂村正太郎では無い貴様を、かくまう義理などない!!」

「あーあ、言っちゃってくれるじゃねぇか寂しいじゃねぇか。アァ!? テメェ等この場で全員灰にしてやってもいいんだぜェ!?」


 脅しの言葉に現実味を帯びさせるために、目の前の怪人は、その身に高熱を帯びた灰燼を纏い始める。


「ヒャーハハハハッ!! 遊んでやるから掛かって来いよォ!!」

「今度こそ貴様を殺す!!」


 怪人と和美の戦いを止める者などいない。それどころか壁を突き破って遠くへと離れいく二人に対し、守矢小晴など手を振るばかり。


「ちょ、ちょっと!? あのまま放置していいの!?」

「大丈夫よ。どっちかが飽きたら返ってくるから」


 飽きたら返ってくるってレベルで済むのか? しかしそういった疑問を俺が抱えている事など小晴にとってはそれこそどうでもいいことである様子で、事態を引っ掻き回す存在がいなくなった隙に俺の依頼について話を切り出し始める。


「ところで、誰を探せばいいのかしら?」


 そこで俺は具体的に情報を提供するべくVPを起動し、画像を守矢小晴へと見せてこの男を見た事が無いか質問をする。


「探している男の名前はオズワルド=ツィードリヒ。なんかサバイバルでも特別ヤバい奴枠で出していたところ、あの事件で脱走したんだって」

「まあ、この人なら見た事がありますよ」

「えっ、何処で!?」


 早期解決に踏み切れると思った俺は少々前のめりになりながらも小晴の答えを引き出しにかかる。しかし小晴の方はその答えを出すのを渋っている様子。


「教えてあげてもよろしいですけど、一つ条件があります」

「えっ」


 また面倒事が……と思っていたが、意外にも相談は簡単なものであった。


「買い物にお付き合いいただければ、喜んでお教えしますよ」

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