第九話 そういえば第十四区画って問題児が集まる場所でしたね……
「――それで、うちに相談という訳ですか」
「そ、そういうことになるね……」
傍目に見たらSランクの俺がBランクの小学生にしか見えない中学生を相手にギクシャクした態度をとっているという不思議な光景に見えるだろうが、俺にとっては守矢要を相手にしてだとギクシャクせざるを得ない。
「何処かに潜伏しているとかいう名前しかわからない人物の捜索って……無理じゃないですか?」
「一応、第十四区画でGPSが反応しているから、あんた達の手を借りた方がいいと思って――」
「はぁ、いつものように適当に反転させて解決させればいいじゃないですか。それこそ、未解決を解決に――」
「何があたしにとって漠然としすぎているし、そもそも規模が大きすぎて無理だっての」
目の前の少女――守矢は俺の正体を知っている数少ないうちの一人だ。Dランクの俺こと榊真琴がSランクの榊マコとイコールであるという事実を知る者は少なく、それこそ同じSランク相手にすら情報開示されていない中、彼女は俺の正体を知っている。
「でも最初のあの『品行補正』の時は相手の能力に干渉していたし、それこそ世界改変になるんじゃないです?」
「あの時はできたけど……何ていうか、自分の能力を制御できるようになればなるほど、自分の中でルール作っちゃってる気がしなくもないんだよね」
「ふーん……でも、まあわからなくもない気がしなくもないですぜ。……それと別に、こっちも現在進行形で色々と困っているんですけどね」
いつものごとく俺が奢った機嫌取り用のパフェを頬張りつつ皮肉の一つでも言うかと思いきや、こちらの言葉に同意するかのような言葉をため息交じりに吐いている。
「どうしたの? もしかしてまた姉妹喧嘩?」
「それが、ちょっとヤバい爆弾……じゃないや、あれはもはや核兵器といっても刺し違えないレベルでしたぜ……」
一体何があったというのか。核兵器といわれたらSランククラスの問題を抱えていると察するしかないのだが。
「……もしかしてあんたのお姉さん関連?」
「小晴姉さんは……半分当たりです。というより、小晴姉さんが連れてきて今匿ってる人がヤバいってレベルを通り越してる能力者で……」
「そっかー……」
それがまさか彼氏だったり……そんな事はないか。とはいえあのSランクのおしとやかな人でさえガトリング砲を持ち出したりするワケだから、Sランクの時点で何があってもおかしくはないか。
「なんか大変そうだね」
「そんなところにもう一つ依頼してくるんですからたまったもんじゃないですぜ……そうだ!」
嫌な予感がする。
「榊のその依頼、本来なら断るところでしたけど――」
「いやそのまま断ってもらって構わないんだけど」
「うちにいる奴をどうにかしてくれたら受けてあげてもいいですぜ!」
ほらやっぱり。言わんこっちゃない。
「いや、やっぱり気が変わって――」
「それじゃさっそくついて来て貰いますぜ!」
「だからあたしは別に――」
「栖原に正体、バラしてもいいんですぜ?」
こいつ絶対将来まともな大人に育たないぞ。俺が言えた話ではないかもしれないが。
◆◆◆
そんな感じで第十四区画に――って本来ならば一般人は迂回するべき区域に軽く足を踏み入れてしまっている自分に少しだけ嫌気がさす。いや別に守矢姉妹に会いたくないという意味では無いし、自分がSランクとして能力者としては当然なのかもしれないが。
「……ん? ここは……」
俺の記憶が正しかったら、この三方をマンションに囲まれた中庭は確か穂村と誰かが戦っていた場所だったはず。そしてここを少し行ったところが俺と名稗が初めて遭遇した場所になる。
「……もしかして守矢姉妹の家ってこの近辺?」
「そうですよ」
「だったらもしかしてあたしと名稗が戦っていたの見えてた可能性あり?」
「そういえば和美姉さんがそんな話をしていた気が」
だったら助けに来てくれたっていいんじゃないんですかね。それとも過干渉する程の仲ではないからスルーされた感じか?
「とはいってもうちらはときどき家を変えますから、また変わるかもしれませんが」
「だったらあんた達を訪問したいときはどうすればいいのさ」
廃屋となったマンションの階段を昇りながら至極当然の質問をすると、守矢もまた至極当然の答えで返す。
「そのためのVPじゃないですか」
そう言って守矢はデコレーションが施された自分のVPを俺に見せつけ、そしてさらに続けてこういった。
「そして先に言っておきますが、何があっても驚かないでくださいね」
「逆に何が起きてるんだよ……」
その直後だった。
「グハァッ!!」
階段を昇りきった先にあるドアが突然開いたかと思えば、中から火だるまとなったダストの男が飛び出してくる。
「チッ、塵がッ! 俺がコンビニから買って来いっつったのは激辛ナゲットだ! 誰が普通のやつ買って来いって言ったァ!? アァ!?」
なんか中から男の声が聞こえてくるし、しかも乱暴だし……えっ!? もしかして小晴さん悪い男に捕まっちゃった感じ!? 確かにだったら俺が追い出した方がいいんだろうけど――
「しかしそれにしても、何か聞いたことがある声なんだよなぁ」
そう思いながら俺は蹴破られたドアから顔をのぞかせ、中でふんぞり返っている一人の不良少年と目を合わせる。
するとそこには――
「――ゲッ!? なんであんたがここに!?」
「アァン? ……クヒヒッ、何だテメェ、退屈しのぎにオレ様に殺されに来たのかァ?」
ソファの上でVPをいじっているのは、髪の色を灰色にして瞳を紅に染めたAランクの関門の姿であった。




