第五話 似た者同士?
「勝手に人の名前を教えるのはあまりよろしく無くってよ?」
「別にいいじゃない? 自己紹介の手間が省けて。それに貴方の方はこの子を知ってそうだし」
「……そっちの方がどうでもいいわ」
それにしても驚くべきことだ。目の前で液体が固体になるとは想像できなかった。しかも途中ボディライン丸見えだったし色々とR18な気がするぞ。
とまあ、俺の目の前に現れたのはかの魔人――じゃないが、恐らくあの魔人はこの子を見てファッションセンスを真似たのであろうと思えるほどに服装だけは似通った少女が目の前に現れた。
「…………」
「あらあらぁ? まさか私を前に驚きを隠せないといった様子ねぇ。まっ、無理もないけど」
そりゃ驚くでしょ。まさかこの現代にゴスロリを狙ってじゃなくて素で着こなす同年代の少女がいることに。しかも室内だというのに傘をさしているし、しかもその傘の外側じゃなくて内側が湿気で濡れているし。
「丁度いいわ、貴方にも仕事の話をしようと思っていたところなの」
「仕事? 面倒ね」
「研究所側だってそれなりに貴方のワガママは聞いているんだから少しはお手伝いをお願い」
「仕方ないわね……」
そういうとアクアはその場で傘を閉じたかと思えば内側の水滴を手で触れて集約し、そして自らの足元に水でできた椅子を形成してそこに腰を降ろす。
「? 何よ」
「いや、凄いなーって思って……」
「ハァ……? まさか私の力を知らないの? Sランクの癖に」
何もそんな目立つ見た目で水を操るSランクなんて一回でも目にしていれば覚えている筈だが、どうも記憶には一切ない。
「仕方ないわよ。あの個人情報の名前と写真、まだ更新されていないもの」
「もうっ! いい加減更新しないとあの似非眼鏡男も壁のシミにしてやろうかしら!」
「それは困るわ。そうなったら貴方、折角の貴方の計画も全てパーよ」
そうこうと二人で話している間に俺はこっそりとこのアクア=ローゼズについて調べようとしたが、突如として端末がバチバチと音を立ててショートしてしまい、使い物にならなくなってしまう。
「うわっ! 何してんのあんた!?」
目の前で精密機械を浸水させるアクアに対して俺は文句を言ったが、アクアはあくまで自分は悪くないといったスタンスで自信満々にこういった。
「私のことを知りたいからってわざわざVPで調べる必要はないわ。だって目の前に本物がいるもの」
そうして堂々と胸を張るが、無い胸に手を当てたところで平坦さが際立つだけで哀しいと思うぞ俺は。
「……何かしらその目は」
「いや、何も――」
「うるさいわね! そんなだらしない脂肪を胸につけるなんて動きづらいだけに決まってるじゃない! それに私だってその気になれば水風船の一つや二つくらい作れるわよ!」
「えぇ……」
そこまで声を荒げる必要はない気がするが……まあ元々男の俺とはまた違う意味で胸の大きさというものは色々と問題があるようだ。
「そろそろいいかしら? 本題に入るわよ」
無理矢理話に割って入る数藤の方へと体を向けると、数藤はコホンと一つ咳ばらいをした後に俺とアクアに対して同じ内容の依頼をし始めた。
「先ほど少しだけ『反転』には話をさせてもらったけど、私は今とある重要な情報が詰まったチップを求めているの」
「チップ……?」
「そう。そこには貴方達変異種に関する重要な研究データが入っているわ。私は是非それを手に入れたいの」
変異種、つまり様々な力を保持する能力者に関するデータが欲しい様子である。
「何の為に?」
「今後の貴方達の役に立つかどうかは知らないわ。でも役に立つものなら欲しいでしょ? 特に――」
――『大罪』についてのデータは。
「ッ!?」
「なんで『衝動』って言わないの?」
「フフ、世の中には古い言い方の方が通用する場合があるのよ」
「どういうこと……? はっ! もしかして貴方って見た目だけ美人で中身はお婆さん――」
「んな訳無いでしょぶっ飛ばすわよ」
それにしても『衝動』か……てことは魔人は結構白髪通りに年を取っているのか?
「いいかしら。その『衝動』についてまとめられたデータが入ったチップを奪い取ってほしいの」
「奪い取るって、これまた物騒な物言いじゃない」
アクアの言う通り、まるで今から強盗でもするかのような言い草に俺も不満といった表情を浮かべたが、それを見ていた数藤は苦笑した後にある意味至極当然の言い分でこの考えを一蹴する。
「何を言っているのかしら? そもそも市長が何でもアリって宣言している時点で物騒も何もないわ」
「それもそうね」
「いや……でも……」
手のひらを反して納得するアクアとは別に、俺はまだ踏ん切りがつかなかった。そんな俺の選択肢を奪うためか、数藤は更にこういった。
「安心して、今回は善人から奪う訳じゃないから。何しろ今回の相手はあのオズワルド=ディードリヒよ」
「……はぁ!?」
俺は目を丸くした。あのギルティサバイバルの時一人だけヤバそうな雰囲気満々のあの犯罪者がデータを持っているとは思いもよらなかったからだ。
「GPSの方でを使って位置を特定しているから、後は貴方達が始末をつけるだけよ」
「あらそう。簡単じゃない」
簡単って相手の力が分かってないのに何を根拠にしているんですかね。
「っていうか、そもそもその依頼をアクアが受けるならあたしがやる必要ないじゃない」
「あら? 受けるつもりは無いということかしら?」
「そういうことよ」
「残念ね……貴方の秘密を世界に公開すると言ってもその決心が揺るぐことは――」
はい今揺らぎました揺らぎ過ぎて考えが百八十度変わりました。
「やるわよ、やればいいんでしょ!?」
「あら、ありがたいわ」
「じゃあ私は適当に遊んでいたら――」
「貴方も遊び過ぎると個人情報を悪い意味で書き換えてあげるから」
「サッサと片づけるわよこの仕事」
……実はSランクを簡単に動かせるこの人が一番ヤバいんじゃないか?




