第一話 何で俺だけ……
――ギルティサバイバルからほぼ一週間。力帝都市は依然として何も変わりの無い日常を生み出している。いや、本当なら俺の知らないところで変化があっているのかもしれないが。
力帝都市では相変わらず突発的な戦闘が起こっているが、それでも殺傷沙汰になることは稀であって、あくまで勝つか負けるかの戦いしか起こっていない。バトルによるランク変動もつつがなく行われている。そして戦いの場の修復もまた、何も無かったかのように見えるまで修復されている。
「結局、市長が現実として突きつけたのは街に犯罪者が野放しにされましたよーってだけで、均衡警備隊の仕事が増えただけか」
今回のサバイバルの脱走劇も実は予定調和で、結局はそれまで必死で捕まえていた有力者を改めて野に放ってリセットさせたかっただけだという噂が流れるくらいで、日常が何か大きく変わることは無かった。
「……それで、あたしはなんで昼間からこんなことやってるんだろ」
「奉仕活動だね」
「奉仕活動だよ」
「双子から同時に言われなくっても分かってるっての」
八月に入り夏休みもいよいよ半ばになってきたというのに、俺が今やっていることといえば反転した女の子の姿でゴミ袋を持ってゴミ拾い。しかも均衡警備隊の秘蔵の双子の処刑人キッズの監視下だ。
「何であたしだけがこんなことを……」
「だってあの後壊れた障壁の近くにいたのはおねーさん一人だけだったし」
確かに馬鹿正直にあの場にいたのは何故か俺一人だったけど、何の原因も理由も分からないままに俺だけが度重なる器物損壊を起こしているなんて怒られるはおかしな話だと思うのだが。でもまあ第三区画をゴミ拾いながらぶらつくだけで済むならそれでいいけど。
「でも奉仕活動に能力使用禁止は流石にひどすぎない?」
「だっておねーさんの能力使ったら一瞬で終わっちゃうじゃん」
「そうそう」
こいつ等の仕事は俺が能力を使ってズルをしないかの見張りらしい。まっ、その気になればこの二人くらいは軽くいなしてもいいんだけど、問題はこの二人のバックにいる均衡警備隊最高指揮官なんだよね。
「まさか『アイツ』が入れ替わっている間にぶっ飛ばしてたなんて……しかもそのことについては何故か市長から黙殺するように連絡が来たらしいけど」
要は俺みたいな悪人(?)をそのまま見逃して野放しにするのは癪らしいから、こうしてせめてもの奉仕活動らしい。
「大体あたしよりか穂村とかあの辺の方が物ぶっ壊してるでしょうに……」
というか、あれ以降穂村も姿を消しているらしい。噂ではこの力帝都市の闇の部分に巻き込まれたとかなんとか、穂村によく似た灰色の怪人が街を暗躍するようになったとか。
あっ、そう言えば思い出した。
「あんた達さぁ、あたしの見張りもいいけどこの力帝都市の裏稼業の噂の解明とかしないで良いワケ?」
「ん? 何が?」
何がって自分達だけコンビニでアイス買ってんじゃねぇよぶっ飛ばすぞ本気でこの姉弟は。
「ほら、この前のサバイバルで結果的に街に犯罪者ばら撒いちゃったじゃん。その辺でなんかネット上じゃ犯罪者同士が裏で暗躍している話とか――」
「確かにそういうのがあるけど、現状事件として何も起こっていないから捜査に動くわけにもいかないよね」
弟の方がカップアイス付属のスプーンでこちらを指さしてさも当然とでも言わんかのような指摘するが、それでいいのか均衡警備隊。
「何かが起きた後じゃ遅いんじゃないの? よりにもよってAランクSランク級の奴等が脱走しているワケだし、それに――」
「もしかしてオズワルド=ツィートリヒでしょ? まあ確かにあれに関しては流石に捜査しているよ」
今度は姉の方が棒アイス片手に端末《VP》をいじってはごく最近の捜査記録を見せてくれたが、進捗は芳しくないようだ。というよりそもそもその辺もあまり俺にとって興味はないが。
「ていうか、こんなの一般人に見せて大丈夫なワケ?」
情報クリアランスが高そうなデータを軽々しく見せてくるエスに対して俺は怪訝そうな表情を浮かべたが、エスはというと平然とした表情でもって言葉を返してくる。
「大丈夫だよ。おねーさん一般人じゃないし」
「一般人じゃないって……確かにDランクじゃないけどさ」
そこまで言ったところで、俺はある違和感に気が付いた。
「さて、と……昼の分の奉仕活動はここまでっ!」
「ここから先は夜の奉仕活動で罪を償ってもらおうかな」
ちょっと待てなんだその怪しげな笑みは。夜の奉仕活動ってどう転んでもそっち方面にしか想像が膨らまない上に中身男だぞ俺は!?
「ち、ちょっと夜は外に出ないって決めてるから――」
「大丈夫だってば。ちょっと捜査に手を貸してもらうだけ」
「そうそう。おねーさんがさっきから気にしている――」
――噂の解明のお手伝いだよ。
「……ちょーやりたくねー」
新編突入です。無論いつもの女子グループも出てきます。




