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第十九話 仕事が全ての人って結構嫌われがちな気がする

 目の前に立っているのは均衡警備隊最高幹部。そしてAランクの最大火力をいとも簡単に呑みこみ、そしてそっくりそのまま相手に返すことができる存在。


「……ヴァーナード=アルシュトルム」

「ほう、やはりそれなりのランクともなれば、この名を知った上で罪を背負って生き延びるか」

「そもそもあたし悪いことしてないし」


 こうも連発ラッシュでバトルとなるとこっちの体力ももたないし、そもそも最初の目的から大分外れているし、腹が減っては戦はできぬということで――


「――この場から退散させてもらいますよっと!」


 俺は即座にヴァーナードの背後に転がる石ころと自分の位置を入れ替え、まずは相手の死角へとまわり込み、そのまま退却を測ろうとしたが――


「――何をたくらんでいる」

「えっ!?」


 先手を打たれたのはこちらの方だった。ヴァーナードは俺が瞬きした一瞬の瞬間、目の前から消えて俺の背後へと回り込み、攻撃を仕掛けてきた。


「っ、流石にボスからは逃げられないって感じ!?」

「その減らず口をまずは更生しなければなるまい!」


 丸太を突き出すかのような前蹴りのラッシュを回避し、俺はとにかくヴァ―ナードから距離を取るために反転を繰り返してその場を離れていく。しかしいくら距離を離そうが相手は一瞬にして距離を詰め、しかも必ずこちらの死角から攻撃を加えてくる。


「単純な身体能力は不足無し。ならば――」

「――ッ!?」


 ヴァーナードが振りかぶった右腕の先――拳に穂村のような赤い炎が握られ始める。


「先ほど放った分のお釣りだ」


 振りかぶった拳を叩きつければ、あの時穂村が放ったと同じ火柱が襲い掛かってくる。


「ちょっとそれは炎熱系の専売特許じゃないの!?」

「クククク……他にもこんな力も持っているが」


 挨拶代わりにと今度はワイヤーが振り回される。そしてまるで俺が知る限り一人の使い方とよく似た戦法でもって、こちらの背後にある廃ビルを引きずり倒してくる。


「それは名稗の……!」

「ああ。ここに来るまでそいつとも戦った。結果は言わずもがなだが」


 ビルが瓦解する音をBGMに、俺は目の前の男が振り回す微細な糸の合間を潜り抜けてまずは一撃と手に拾っておいた小石を投げつけ、大岩へと反転させる。


「無駄だ」


 その程度造作もないとでもいわんばかりに、ヴァーナードは自ら鍛えあげた足で大岩をまっすぐに蹴り砕き、破片をその場に散らばせる。


「……茶番は済んだかね?」

「結構ガチの攻撃なんだけどなぁ」


 ここで思い出したのが、ついさっきヴァーナードが穂村の技を吸収したという現象。となると現時点で予測できるのは――


「――相手の力を奪い取って、還元できるってこと……?」

「……勘がいいようだね、君は」


 ヴァーナードは不敵に笑ってこちらを見やるが、俺は決して笑みを返すことは無かった。


「何? まだ能力を隠してる感じ?」

「さて、どうかな」


 そうして瞬きした一瞬をついて、ヴァーナードは再び俺の死角へと回り込むが――


「ッ! そう何度も――」

「通用するのが私の力だ」


 背後から来るのは読めていた。だからこそ俺は自分とヴァーナードの位置を反転させて逆に背後から一撃を喰らわせようと能力を発動させていた。

 ――発動させていたはずだった。


「能力が、通用しない!?」

「ククク……ハァッ!!」


 背後からの蹴りに対して身をよじることで回避したものの、俺の中に広がる驚愕の震えは留まることを知らなかった。


「ど、どういう事よ……!」

「どうもこうも無い。君の力よりも、私の力の方が上回っているだけの話だ」


 ヴァーナードの力の方が上回っている――


「……それ、マジで言ってる感じ?」

「本気と書いて、マジと読む」


 妙にノリがいいのはおいておくとして、となると逃げに徹しても死角からの攻撃がいくらでも続けられるから逆に不利。かといって真正面から相対するとしても今まで戦ってきた相手を合成したようなキメラと戦わなくちゃいけないのは面倒だ。


「……エクスキューショナーズ」

「ん?」

「はいよー」


 そういえばまだいたっけこいつ等。でもまあ同時に三人から攻撃を仕掛けられていなかったことは幸いかな。


「彼女は私の獲物だ。残党を狩りに迎え」

「ちぇー、まあいいけど」

「ば、馬鹿!」


 エムがつまらなさそうに口をとがらせたが、その瞬間にヴァーナードの指先から稲妻が放たれ、エムのすぐそばにある建物に焦げ跡を刻み込まれる。


「……すぐに動け」

「り、了解!」

「急ぐよ、エム!」


 どうやら同僚だからといって仲がいいという訳ではなさそうだ。


「そんなこき使うようなやり方だといつか見放されるよー」

「……フン」


 ヴァーナードは俺の注意を端で笑うと同時に、両手の上に立体的な魔法陣を展開して見せる。


「はたしてあの二人が、この私から受けた力を忘れて敵方へつくなどと……まあ、付いた瞬間に始末するがな」

「……どういう事よ?」

「クククク……」


 どうやら『吸収アサルト』にはまだ秘密があるとみて間違いないようだ。


「……どっちにしても、勝つのはあたしだけどね」

「この私を前にして、無償で勝利を得られるとでも?」


 ――それ相応の対価は支払ってもらうぞ? 犯罪者風情が。

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