第十七話 ヒートアップ
前回の描写でありませんでしたが、穂村は最初に榊に蒼い焔を見せたきりで後はいつもの赤い炎で戦っています。
「あーもう! さっきから攻撃する暇もないし!」
「残念、僕だってまともに戦えないからね」
爆風と爆炎に支配された戦場で誰がまともに戦えるだろうか、いや誰も戦えないだろう――なんて、反語を使った下らない感想を述べている余裕もない程に穂村とエスの戦いは……否、穂村の一方的な蹂躙は留まることを知らなかった。
「爆走烈脚!!」
穂村は両足からバーナーのように噴出する炎で加速し――
「火炎放射ァ!!」
――そこから蹴りが放たれ、それと同時に一直線に前方へと炎の渦が一直線に突き抜けていく。馬鹿げた話に聞こえるかもしれないが、現状緋山さんよりも強いように思えてくる。
「ただ、そろそろ大人しくしてもらわないとこっちもまともに動けないからね」
俺は静かに周囲に広がる炎の海を見渡すと、高らかに右手を掲げて俺は指を鳴らす構えを取る。
「炎の反対……まっ、単純に考えたらこれしかないよね」
そうして俺はその場に響き渡るような音を……鳴らすことはできなかったが、代わりに――
「反転」
――炎の海がそのまま水の塊、海となって波を打ってクレーターを満たしにかかる。
「ッ!? どこから水がッ!?」
「えぇっ!? 今度は何が起きたの!?」
両足のバーナーを吹かして空を飛ぶ穂村と、大鎌を箒に見立てて空へと飛びあがるエス。
「くっ……」
そしてエムはというと、本来ならば切り札として隠し通すつもりであった極大レーザーで水の一部を蒸発させ、そして今度は反対側へとレーザーを放つことで反動を利用してクレーターの外へと離脱をはかっている。
「さて、と……」
俺はというと、本来ならば沈むはずの現象を反転させることで、水面の上に降り立っている。
「……やっぱりてめぇか」
「いやー、盛り上がってるところ悪いけどあたし達もいるからね。その辺考えて戦ってもらえるかな?」
それまで標的としてエスだけを見据えていた穂村であったが、今度こそ完全に俺の方に狙いを定めている。
「……チッ、それだけの水分は流石に一発で蒸発させるのは無理か……?」
「出来たらあんた、Sランクにでもなれるわよ」
「別にSランクが目的っつぅワケじゃねぇんだけどな」
だったらどうしてギルティサバイバルに放られた上に、自分から進んで闘いまくってるんだよってツッコミは無しですか?
「だがここで生き残るにはてめぇ等くらいはブチのめせるくらい強くねぇとな」
「それもそうかもだけど」
こうなるくらいだったら最初に手を組むのを了承しておけばよかったと後悔せざるを得ない。
「後悔先に立たずってことかな」
「どうでもいいが、かかってくるならこいよ」
「……あっそう」
俺は静かに両手を目の前に掲げると、本来ならば集まるはずのない水をその両手の間に球体として集約させていく。
「このまま断裂激流でぶった斬ってもいいんだろうけど、その前に回避されたら困るわね……」
だとしたら――
「……面白い事考えた」
俺は両手を広げてより大きな水の球体を作り上げると、そのまま自分の体ごと水の中へと飛び込んだ。
「ハァ? バカかあいつ。あのままだと窒息する――」
窒息するのはあんただっての。
「――交換」
「――ッ!?」
次の瞬間俺の位置と穂村の位置が入れ替わり、立場と状況が逆転する。
「ゴボガッ!?」
「さて、炎にもなる事が出来ないあんたがその中で一分持つかどうか――」
「一分も持たせる訳ないじゃん」
「ありがとうおねーさん。これで安心して穂村を殺せるよ」
そうしてエスとエム二人同時に穂村に向けて攻撃を仕掛けようとしていたが――
「――ふざけんじゃねぇぞクソ共がァアアアアアアアアアアアア!!」
またも蒼い焔がその場に顕現し、それまで穂村を包み込んでいた水を一瞬にして水蒸気へと変えていく。
「ッ……!」
一度に大量の水が水蒸気と化したせいで、一時期その場をサウナよりもひどい湿気を纏った爆風に対応しなければならなかったが、水蒸気が晴れたその先に、蒼い焔を纏った怪物が降臨している。
「そんなにオレを怒らせてぇんなら、望みどおりブチ切れてやるよォ!!」
ちょっと穂村さんさらに沸点下がってないですかね!?
「沸点下がってるけど温度はあがってる感じかな? なんて、余裕もはけない感じ?」




