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第十六話 Good Luck

「ちょっと待って別に敵対するとは一言も――」

燗灼玉レッドボールッ!!」


 穂村の両手に握られたいくつのもの火球が、空からまるで流星群の如く降り注ぐ――ってこれしゃれにならないレベルの破壊力を持つあれじゃん!


「うわっと!?」

「チッ、火加減を間違えたか」


 加減を間違えたって、やり過ぎってことですかそれともまだまだ弱火ってことですかどっちなんですかね。流石の俺も反転うんぬんより回避を優先する程度にはビビっちゃってるんだけど。

 ……多分Dランク時代のトラウマ的な何かも関与しているのかもしれないけど。

 それにしても本当にかんしゃく玉サイズの火球の爆発範囲にしては大仰過ぎる。なんで直径一センチ程度の火球から直径一メートルほどの爆発が起きるんだよ。

 しかしそれでもまだ物足りないというべきか、本気を出していないというべきか、穂村は現状に不服といった様子で眉間にしわを寄せている。


「アハッ、おにーさんこわぁい」


 そんな穂村の眉間のしわをさらに増やすような発言が飛び出した時点で、俺は嫌な予感を感じ取って更に穂村から距離を置いて遠くへと退避する。


「この期に及んで挑発ってぇことは、もっと火力を上げてもいいってことだよなァ!?」

「やっぱり……!」


 予測通り、バカ正直に挑発に乗った穂村が更に火力を上げて燃え上がり、辺り一面を煉獄へと変えようとしている――いや、比喩的な表現じゃなくてほんとに火の海に沈めようとしている辺りが洒落にならない。


F(フィンガー).F(フレア).F(ファイブ)――」


 それまで穂村の右腕を覆っていた炎が全て、右手の五本の指先へと集約されていく。

 そして――


爆炎塔バーナータワー!!」


 右手を地面に叩きつけると同時に炎の柱が打ち上がる。それも一発限りではなく、エスの方へと向かっていくかのようにいくつもの炎の柱が次々と打ち上がっていく。


「おっとこれはヤバい!」


 エスはとっさに鎌を振るって即座に魔法陣を描くとその場から消え、穂村の死角から再び姿を現そうとしている。


「今度はこっちの番――」

はなからてめぇの番なんざねぇんだよォ!」


 火柱を回避し、穂村正太郎を死角から襲撃――のはずが、穂村の姿は陽炎に消え去り、その場には揺らめく人型の炎だけが残されていた。

 エスが声に気づいた時――その時には既に穂村はエスの更に背後を取っていた。そして後ろからエスの背中に右の手のひらを向けた。

 そしてこれから始まる一連の破壊活動こそがこのクレーターを作り上げた正体なのだということを、俺達は目に焼き付けることになる。


「――炙装煉成崩壊レッドブリードデストラクションッ!!」


 幾重にも重なる爆炎の炸裂。そしてそれらが今回エスのいる方角へと一直線に爆発が突き貫いていく。

 爆発ははるか彼方まで連鎖して炸裂し、遠くで囲っている壁のところまで爆発は続いていく。


「……やっべー」


 こんなのとか明らかにSランクは下らないレベルの威力だと思うんですけど。力帝都市の目は節穴だとしか思えないと思っていると、穂村は今の一撃でエスを仕留めきれていないことを感じ取ったのか、舌打ちをして更なる火力を己自身に籠め始める。


「チッ、逃げやがったかあのガキ……さっさと出てこいよ!! 次は完璧にブチ殺してやるからよォ!! アァ!?」


 穂村の口がどんどん悪くなっていく最中、それまで余所見をしていた俺にも遂に攻撃が飛んでくる。


「ッ!」

「余所見をしたらダメだよおねーさん」

「っ、あんたもねっ!」

「えっ? うわっと!?」


 俺にレーザーを放ったエムのすぐそばを、巨大な炎の火柱が打ち上がっていく。もはや無差別といった方が正しいのかもしれない。というよりも当初穂村が言っていた通りのバトルロワイヤルと化している。


「これはあたしも本気でやらないとマズいってことかな」

「最初から本気でやろうよー」


 そんなに最初から手の内見せるほど俺は単細胞じゃないっての。


「……でもまあ、それでも穂村あいつほどの隠し玉は今のところ持っていないんだけどね」


 ――ほんと、Bランクの癖にあれだけやるとか化け物かよあいつ。

榊「そういえばあんたの技名って結構厨二病入ってるよね」

穂村「うるせぇ。最近番外編挟めないからってこういうところに持ってくるな」

榊「でもネーミングセンス――」

穂村「うるせぇ!!」


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