第十五話 一対一対二
土壇場に来て覚醒という訳じゃないけど色々と主人公じみたこと止めて貰えませんかね穂村正太郎さん。おかげでこっちの脳内警告音がMAXでピーピー鳴っているんですけど。
「……あんた、何やったのさ」
「何って言われてもな……相手の予測を上回る火力で一気に焼きつくしてやった、といえば正解か?」
それだけでなんでそんな世紀末を想起させるようなバ火力が出せるんですかね……本当にこいつBランクなのか? なんだか力帝都市のランクづけそのものが胡散臭く感じてきたぞ。
「その調子だと勢い余って相手を殺しちゃった感じ?」
「こっちは殺す気でやったが……逃げられた」
「そりゃ残念」
殺す気でやるって結構物騒だな……で、逃げられたところでNEXTチャレンジャーで俺登場ってところなのか? まあ俺も隙を見て逃げさせてもらうが。
「それでだ。わざわざここまで野次馬に来てもらって、タダで帰ってもらうワケにはいかねぇよなぁ?」
「押し売りならお断りなんだけど」
そうはいってもこのようなクレーターのど真ん中だと見晴らしが良く、逃げも隠れも出来そうにない。俺は仕方なく戦うために、一歩一歩とクレーターの中央へと歩みを進めていったが――
「――おっと、先客がいたみたい」
「ざんねーん、エス達が一番乗りで狩れると思ったのにー」
「……なんだお前等」
俺が思っていたことを既に穂村は口に出しており、俺が考えるよりも早く穂村は戦闘する構えを取っている。
振り返った先にいるのは均衡警備隊が誇る精鋭二人組。エム&エスがクレーターの縁に立ってこちらを見下ろしていた。
「相手はヤる気満々みたいだけど、どうする姉さん?」
「どうするも何も、ヤるしかないでしょ」
姉さんと呼ばれた方――エスは得物である大鎌を振るいながら、フードの奥でクスクスと笑い越えを漏らしている。
そして蛍光職のメイクが二人の不敵な口元を妖しく照らしながら、会話の内容を明らかにしている。
「姉さんどっちがいい? 僕はあのおねーさんとやりたいなぁ」
「だったら私があの強そうなおにーさんの方とヤればいいのかな?」
「御託はいいからさっさとこいよ」
「ふーん……」
あくまで穂村の挑発には一切乗らず、エスは不敵に笑みを浮かべるばかりかと思いきや――
「……――片鱗よ、その――を以て、……に力を示せ――」
「ん? ぶつぶつと呟いて、どういう――」
「異重――」
――擂球。
「ッ――」
エスがその手に持つ大きな鎌を振るうと突如として黒球が発生し、一直線に穂村の方へと向かう。
「ッ、避けろ!!」
「んだと!?」
とっさに俺は穂村に回避するように叫び、穂村もまた俺の声に応じるように即座に黒球の道を開けると、黒球は穂村のすぐそばを通過しそのまま地面をまっすぐに貫通していく。
「あーあ、もう少しで巻き込まれて死ねたのに」
「どういうことだ……」
「……もしかして、『動』と同じ力……?」
「おぉー、よく知ってるね」
つまり通過する軌道上の一切合財を擂り潰すブラックホール級の重力球体が、たった今エスの手から放たれたということになる。
「えっと、つまりどういう事? エスも重力を操る能力者――」
「チッチッチ、違うよおねーさん」
がきんちょから自信満々に否定されたらイラッとくるのは俺が大人げないだけなのだろうか。そんな事を思いながら、指を振って俺の考えを否定するエムの方を睨みつける。
「姉さんは僕と違って、魔法使いだから」
「あぁー! もうネタばらししちゃう?」
姉が不満げに頬を膨らませているが、ネタ晴らしされたからといって俺達にとっては何の有利にも働いていないことは間違いないだろう。
「ケッ、魔法使いだったら何でも有りな分更にこっちが不利なだけだ」
そういうことになるよねー。
「てことで、あんたがあっちの相手をしてよね」
「ハァ? なんでだよ」
そりゃ一度戦ったことのある方とやりあう方が楽だし、魔法使いの相手なんて普通の攻略法が通用しない面倒な相手しかいないってことぐらい今までの戦いで十分学習しましたし。それに――
「相手はあたしと戦うって言ってるのよ?」
「そんなの知るかよ」
そう言って穂村は俺の方へと右手を差し出し、事もあろうにとんでもない提案を投げかけてくる。
「……何その手」
「一時休戦だ。まずは共通の敵を倒した方が楽だろ?」
「えぇ……別に勝手にすればいいじゃん?」
俺としてはこの場でその話に乗るのもやぶさかではなかった。だが現状として手を組んだところでSランクとBランクだとBランクが足を引っ張る可能性の方が――
「そうか。ならもういい」
「――ッ!?」
返答に対してあっさりとした返事が返ってきたかと思えば突如として炎の渦が巻き起こり、渦が消えたかと思えば穂村はそこになく、はるか上空にて燃え盛る一人のBランクの姿がそこにある。
「だったら全員が敵だ。この場にいる奴らで――」
――バトルロワイヤルといこうじゃねぇか。




