第十四話 覚醒の焔
「――まさかあんたに会えるとはな……ある意味ラッキーだぜ」
「その雰囲気だと最後に呼ばれたから他の参加者なんざ知るはずも無かったって感じか……それより、年上に対して随分とナメた口のきき方じゃねぇか」
辺りは半ば火の海に沈みつつあった。未だ赤黒い光を放つ熔岩と、未だ轟々と燃え盛る炎。そのどちらもが彼らの力を示すものであり、彼等の闘争をより一層色鮮やかに燃え上がらせる要因でもあった。
『焔』、穂村正太郎。
『粉化』、緋山励二。
両者の目があってから数秒と経たずだった。ほぼ同時に互いの体は鮮烈な赫を見に纏い、そしてほぼ同時に飛び出し、その拳は激突した。
そこからは怒涛の爆裂音と噴火が絶えず交わり合い、戦場を炎で染め上げていった。
Aランクの関門である穂村にとってこの戦いはある意味チャンスであった。ここでSランクの、しかも炎熱系最強の能力者に打ち勝ったとなれば自身の力がSランクになったことの何よりの証拠となり、そして穂村の目的を満たす一番の近道となっていたからだ。
「ったく、面倒な奴に絡まれちまったか」
「そう言わないでくれよ先輩……同じ炎熱系能力者としてあんたと一度は戦いたかったんだ、少しばかり付き合ってくれよなぁ!!」
そうして穂村の身体は再び赤い炎に包まれ、巨大な火の玉となって宙を舞う。
「チッ、またその技か……」
「この技があんたに一番効いたみてぇだからな……有効な限り使わせてもらうぜぇ!! ――紅蓮拍動!!」
空中にて穂村は自信の身体を高速で回転させ、その場に巨大な炎の渦を作り上げる。
「ハッハァー!!」
そうして穂村は炎渦巻く巨大な龍の形となり、その首をもたげては今にも緋山に向かって飛び出さんとしている。
「単純にB.Sで相殺できなかった辺り、奴の方が“炎”の扱いは上手ってことか……ハッ、砂の扱い片手間にしていた分奴の方が専門家ってことか」
炎熱系最強とはいえど、この場は素直に賞賛せざるを得なかった。地に両足をつけ、その大地から燃え盛る炎自体を出せば、単純な熱量差で穂村に打ち勝つことはできるだろう。しかし穂村はあくまで炎という純粋な炎熱系の能力範囲内でその力を高め、そして成長させている。こうなれば単純な炎熱系でははっきりと甲乙つけることはできないだろう。
しかしそれはあくまで炎熱系としての戦いであって、『焔』と『粉化』の戦いではない。
「俺も炎熱系最強としてのメンツってもんがあったんだが……ひとまず賞賛の意味をこめて、こっちの力を使わせてもらうぜ……!」
緋山は右手で地面に伏せるようにして触れると、穂村に分からないように徐々に徐々に足元全てを砂へと変えていく。
「――炎龍迫撃!!」
「――D.D!!」
炎の嵐と砂嵐、二つが相対しぶつかり合い、巨大な渦となって周辺全てを飲み込んでいく。
「ハッ! 砂嵐がどうしたってんだ!!」
「砂嵐だからこそ、都合がいいんだよ」
砂嵐――巻き上げるは無論細かい粒子。しかしそれらは全て非可燃性のものであり、穂村の炎を更に延焼へと導くものではない。そしてその効果は、徐々に徐々にと現れてくる。
「火力が弱まってきている――まさか!?」
「流石に気が付くか。だがもう遅い……!」
炎の龍は完全に弱りきり、中心を担っていた穂村の周囲を除いた全てを砂の嵐が支配する。
「これで攻略は済んだワケだが、次はどうする?」
「……やっぱすげぇよあんた」
穂村はそれまで燃え盛っていた炎を一瞬にして沈めると、何をする訳でもなくその場に呆然と立ち尽くしている。
「ん? ……何のつもりだ」
「ハッ、分からん殺しぐらいはさせてもらってもいいだろ?」
この時穂村が放とうとしている技――それは穂村自身が思いついた技ではなく、他の誰か――『アイツ』がよく使っていた技を炎でもって応用させようとしていた。
そしてこの技こそが、穂村が今までのAランクの関門程度では収まらないという、決定的な瞬間を見せつけることとなる。
◆◆◆
次の瞬間のことだった。
「――ッ!?」
この俺、榊真琴もとい榊マコが縁に減ったお腹をさすりながら食料探索に歩き回っていたところで、信じられない光景が俺の目の前に広がった。
「……なんだよ、これ…………!」
一瞬火柱が打ち上がり、そしてまるで世紀末でも起こったのかと錯覚すら感じる巨大な爆炎が広がっている。
「……まさか!」
俺は嫌な予感に駆られた。それはあの巨大な爆炎が、とある人物の『大罪』を想起させるかのようであったからだ。
「……緋山さん……!」
俺は爆炎が収まりまでその場に立ちつくし、廃ビルの間を吹き荒ぶ爆風を反転してなんとかその場に踏みとどまると、急いでその爆心地の方へと向かって行く。
「出来るだけ、早く……!」
俺はできる限り早く着くように、熱によって徐々に変わりゆく光景を後にして真っ直ぐに走り過ぎていく。
そして――
「――なに、これ……?」
目の前に広がるのは巨大なクレーター。それも今までにないレベルのもの。俺は思わず言葉を失った。
「…………いったい、誰が……」
「ハァ、ハァ……よぉ、野次馬に来たんなら少しばかり遅かったじゃねぇか」
クレーターの中心。そこに立っていたのは緋山さんではなく、ある意味俺とは因縁の深い相手だった。
「……穂村……」
「よぉ……また会ったじゃねぇか」
しかしその姿は全くもって俺の見覚えの無いものだった。瞳の色が、完全に鮮やかな色を帯び、その目でもって俺を見つめている者が、そこに立っている。
「なに、それ……」
「これか? ……これが、俺の新しい力――」
――“蒼”の焔って見たことあるか?
緋山励二対穂村正太郎の戦いの全編はパワーオブワールドの方で詳細に書いて行こうと考えています。




