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第十二話 不信

 悪対正義。ならばこの勝負の勝者としてあるべきは正義であることは間違いないであろう。しかし現実として横たわっているのは、真っ赤な帽子を自らの血で更に深紅へと染め上げる少年と、平然とした表情でそれを見つめる女性の姿という光景であった。


「これに懲りたら正義の味方ごっこなんてさっさと卒業しぃや」


 通常なら十二分に少年は痛めつけられていると考えられる状況であるが、この状況を作り上げた本人はというと、十分とはいえど十二分とは言えないといった心境であった。


「ご……はっ……」

「…………」


 前半の破壊こうげき。これは確実に、着実に百パーセントイメージ通りに伝わっている。しかし問題は後半。イメージ通りの破壊よりも数ランク下がった伝わり方でしか少年を攻撃はかいできていないことに、日向は不信感を覚えていた。

 内臓破壊は内臓への単なるダメージへと。骨折は打撲へと。打撲は擦り傷へと。切り傷はかすり傷、かすり傷は無傷に。致命傷は重傷へと収まっている状況をして、日向は相手の能力次第ではこの場で始末しなければならないとまで考えていた。


「状況の軽減、あるいは対象の弱体化……? いずれにせんと、一時的なもんならともかく永続的ならばこの場で殺しとかんとあかんな」

「えぇー? 未来ある少年を殺すって物騒過ぎやしないかい?」


 日向の冷徹な判断に異を唱えたのは、それまで黙って戦いを観戦していたヨハンであった。


「それにさ、今や俺達も晴れてDランクなんだしさぁ――」

「ほんまに力帝都市がわし等を無害(Dランク)や思うとるんやったら、こんなところに放り込んどらんやろ」


 あくまでおかれた状況内でも最善だと思える方を選択肢として取ろうとするヨハンと、常に最悪を想定して動こうとする日向。両者の意見が対立するのは何も今回に限った事ではなく、昔からそうだった。


「放り込むっていうけどさぁ、これって別に犯罪者じゃなくてもランダムで放り込まれることもあるみたいよ? 特別ゲスト的な意味でさ」

「そら前科も何もない『創生者クリエイター』みたいなもんやったらそういえるかもしれんわな。けどわし等の過去を知っとるもんは、情報クリアランスSとはいえど少なからずおるはずやで」

「あーもう全く、これテレビで放映されていること分かっているかい? その言い方の方がまずいような気がするんだが」

「今更テレビがなんぼのもんやねん。もうこの場所にいる時点でわし等はいわくつきっちゅうことが知られとるも同然やからな」

「全く……」


 冷静にあくまで話し合いで決着をつけようとするヨハンに対し、いら立ちを募らせる日向は脅しをかけるかのようにビルに右手を置き、亀裂を走らせ始める。


「ほんま、昔っから色々口だけは出してくるし、今も家賃は払わんことでわしの機嫌をとことん損ねるし、ここいらで一発しばいとった方がええんか?」


 既に臨戦態勢を取り始める日向に対し、ヨハンは頭を抱えながらも左手を前に突き出してその指先から氷を生成し始める。


「はぁ……少し頭を冷やしてたらどうだ?」


 ロートルとはいえSランク同士の争いとなれば、それなりに実況も盛り上がるであろう。しかし二人の耳には到底届くことは無く、ただひたすらに目の前の相手を黙らせることに意識を集中させていた。



          ◆◆◆



「あわわわ、日向さんとヨハンさんが喧嘩しちゃった!?」


 その時偶然にしてひなた荘の二人の様子を見ようとチャンネルを変えた時の事だった。澄田の目に飛び込んでみたのは家主と居候が仲たがいを始めようとしている光景。しかも下手しなくても流血沙汰になることは二人の能力を知っている澄田にとって想像に容易いもの。


「どうしよう、連絡を取ろうにもあの二人普段通りならVPなんて持ってないだろうし……」

「クカカカッ、好きにやらせてりゃいいじゃねぇか」


 澄田が振り返った先、そこには返り血をぬぐいながら笑う魔人の姿が。


「えぇっ!? 血が――」

「お、おっかえりー。その様子だと、外に()()?」

「ハッ、読み通りだったぜ」


 読み通りだった、とはどういう意味なのか。分かりきっているかのような二人の会話に澄田は首を傾げる。


「日向久須美にヨハン=エイブラムス、そして緋山励二。そして今回美味い話のバイトで之喜原のきはらすずめをこの場所から排除……そして狙いは――テメェ等ってワケだ」


 そうして魔人は澄田と藁墨の両方を見やると、また新たな気配を感じたのかその場から踵を返して外へと出て行こうとする。


「待って! それってどういう意味なの!?」

「気にするな。どうせすぐにカタがつく」

「そうだねー。いざとなったらあたしの奇跡に頼ればいいしね」


 藁墨はあくまで保険程度にというつもりであったが、魔人はそれを鼻で笑うとともに頭から否定する。


「ハッ、残念ながらオレは神を信じてなんざいねぇからな」

「クスクス、自分が魔人という神話的存在なのに?」


 魔人は小さく舌打ちをした後、その場にこう吐き捨てて出ていく。

 ――神ってヤツを知っているからこそ、信じられねぇんだよ。

この後一話だけ魔人が動いてその後緋山励二の部分を少しだけ進めて、再び榊真琴に戻る予定です。

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