第十話 刺客
何とか逃げ切ったところだが、この調子だとまたどこかで鉢合わせそうな気がしなくもない。
「そうなったら面倒だからまた逃げるんだろうけど」
それにしてもあいつの能力あんなに強かったっけ? 確か最後に会った時はその場に火柱を立てて周りのダストを吹っ飛ばすくらいだったのに、さっきの戦い方はまるで違うような、明らかにこっちを殺しにかかってきているレベルの火力だったんですけど。
「全く……あれ?」
能力使ったせいかお腹が空いてきた――って、まずいことに気が付いた。
「これ、食糧確保しないとまずいのでは?」
ルールはたった一つ。三日間生き残るだけ。しかしそうなると第一区画のどこかに食料が無ければ普通は三日で餓死してもおかしくない。
「……やばい!」
となれば急いで食糧確保に動いた方が得策に違いない。しかしここで俺は走りだそうとしたその一歩目でその場に立ち止まって考えた。
食糧難。それは均衡警備隊側も同じ条件のはず。しかしこうしてエムは最初に食料を取りに行かずに俺と争いを優先させた上に、穂村にちょっかいもかけていった。その余裕から恐らく考えられるのは二つ。
一つは残りの二人が食料調達をするなど役割分担を行っているパターン。これだと穂村にちょっかいをかけたのも時間稼ぎをしたということで理由が付く。
そしてもう一つは、均衡警備隊のみに食料は別途配給等があるパターン。この場合だと下手したら罪人側には元々食料すら用意されていないという可能性もわずかながらにあり得てくる。
「でもそれだと穂村やその他の大勢の囚人とか自給自足できない組はそもそも生き残り不可だよね……あたしはその気になればあの『喰々(イートショック)』よろしく食べられないものを食べられるように反転させればいいんだろうけど」
それはそうと、そうなったら緋山さんや日向さん達はどうなるんだ?
「……とにかく急いで合流した方がよさそう」
いずれにしても一人でいるよりはましだと思いたい。
「っと、その前に」
俺は敢えて攻撃を外すために、近くにあった小石を蹴り飛ばして反転し、大岩をビルの方へと直撃させた。
「隠れてないで、さっさと出てきたら?」
ビルの物陰……さっきから異様に視線を感じるんだよね。まあこれは直感なんだけど。
「――貴公、よくぞ私がここにいると気づいたな」
ビルの影から人の形が模られてゆき、そしてそのまま立体的に浮かび上がって人の形をより鮮明に色鮮やかにしていく。
そうして姿を現したのは、一人の忍。
「そんなのさっきからいたことくらい気づいてたっての」
……やっべー、本当にいるとは思わなかったわ。いや、やっぱりいてよかったかもしれない。確かこれ放送されているんだよね? だとしたらいてくれないと俺が単に痛い子扱いされていただけだし。
「せっかくだから名前くらい名乗ったら?」
「名前など無い」
まあ風体からして忍者だし、そういった名乗り上げるようなタイプじゃなさそうなのは予測できていたけど。
「ふーん……まっ、後で後世に名前を残したくなっても知らないよ?」
「後世に汚名を残すくらいなら、貴様と共に死ぬまで」
あれ? ヤバくない? 道連れ御覚悟の上でしょうか?
「何それ!? あたしあんたに恨みを買うようなことしたっけ!?」
「恨みは御座らん。これはとある御方の命故に」
だとしても命をなげうってまで完遂しようとするのはおかしいと思うのは俺だけでしょうか。
「これ以上のお喋りは無用。いざ!」
「あーもう、食料調達とかもしなくちゃいけないってのに!」
こうなったらさっさとご退場願いますか!
「という訳で、反転! 地下埋――」
「斬鍔刃!」
ほんの一瞬だった。俺がこの男を地下5メートルほどに埋葬しようとしたその一瞬の思考の隙をついて俺の首めがけて刀を抜いて飛び掛かってきた。
「うぉっとぉ!?」
身体能力を反転しておいて心からよかったと思う。ほんの少し仰け反りが遅れていれば、今頃俺の首はそこらへんに転がっていただろうから。
「踏み込みが足りなかったか」
「くっ! 反発!!」
俺は更に距離を詰めようと近づく忍の接近を反転させて離脱し、俺は改めて距離を取って目の前の相手と対峙する。
「名前を言いたくないなら、せめて検体名位言ったら?」
「……残念ながら私は能力者でもなければ、そもそもこの戦いの参加者でもない」
「……は?」
「私は貴様を始末するためだけに送り込まれた刺客……ただ、それだけだ」
――てことは、正真正銘の忍者に命を狙われているって事なのか俺は!?
「……なんであたしだけこんなに無駄にハンデ付いた状態で臨まなくちゃいけないんだっての!」
今回榊マコを狙っている彼ですが、依頼人は今までに出てきた登場人物ではないとだけ書かせていただきます。そして依頼した理由は意外なものであることをあらかじめお伝えしておきます(一応ヒント的なものは今までに出てきてはいます)。




