第九話 歩く核弾頭
終盤が三人称視点の文章になっています。
「片方は逃がしたか……だがまだてめぇは残っているようだな」
「かなり不本意だけどね」
こうなったらやるしかないのか。俺はそう覚悟を決めて、目の前の相手と戦うための姿勢を取る。
「…………」
相手が能力として扱っているのは炎。ならば反転した先は水のはず。
「次に攻撃を仕掛けたら、水浸しにしてやるんだから……」
そんな俺の考えを知ってか知らずか、穂村は俺を倒すためだけの技を繰り出そうとしている。
――先ほどと似たような構えだが、右手に集約されている巨大な火球がそれまでとは圧倒的に違う火力を表している。
「灼拳――」
火球は灼熱の光を隙間から洩らしながら穂村の手の内へと握りしめられ圧縮してゆき、そして目がくらむような光を放ち始める。
徐々に光度を増していくそのさまにあっけにとられていた俺は、穂村のチャージをしながら歩いてくる動作に対して何もせずに突っ立っていた。
「……やっべー」
そして目の前でまるで小型の太陽が眩く輝く光景を見て、俺は直感的に理解した。これは当たったら死ぬ技だと。絶対に回避しなければならない技だ、と。
「――爆砕ッ!!」
穂村の右腕が振り抜かれる瞬間――全ての光が解き放たれ、荒れ果てた都市の隙間を統べて埋めるかのような眩い光が影を真っ白に塗り決していった。
◆◆◆
「――あっぶな」
よく死ななかったな俺。今回ばかりは自分をほめるべきだぞ。
というよりも穂村が光を叩きつけた爆心地を中心に建物など関係なく全て焼失あるいは完全に熱で溶けきってしまって巨大なクレーターだけが残っている様をまざまざと見せつけられてはそう思わざるを得ない。
「……マジかよ」
それはこっちのセリフだ馬鹿ヤロー。何自分の手を見つめて驚いてんだよ。自分で放った技の威力ぐらい把握しておけよ。
「……とりあえず、今の内に逃げよっと」
しばらくあいつとは関わらないようにしておこう。というより昔のダストの連中はこの事を知っているのだろうか? このままだと蒸発するのがオチだぞ。
「まったく、あんなのが力帝都市のAランク関門って、この都市の格付けって随分とレベルが高いなぁ」
本当に俺の能力ぐらいでSランクでいいのかぁ?
◆◆◆
「――し、信じられません!! 序盤にして穂村正太郎が、とんでもない力を隠していたことが明らかになってしまいました!!」
ひなた荘の大広間に、大音量の実況音声が響き渡った。テレビ中継を見ていた澄田は、突如として成長した緋山励二の競合相手の実力に言葉を失っていた。
「何、あれ……あんなの、励二でも本気を出さないとできないことじゃないの……?」
自身のVPの方で恋人である緋山に密着したサバイバル放送を流しながら、ふとテレビの方に注目していた矢先のことだった。
「あははっ、すっごいねー彼。あの調子なら最後まで生き残れるんじゃない?」
「そうかもしれないですけど……」
楽観的にあくまでバラエティ感覚の感想を述べる藁墨とは対照的に、澄田は直感的にとある危機感を感じ取っていた。それは穂村が緋山にとっての脅威となる可能性からくるものではなく、あくまで穂村自身に対する危機感であり、そして過去の緋山と重ねられるような感覚でもあった。
するとそれまで楽観的でいた藁墨が急に態度を変え、慎重な声色でもって澄田に問いかける。
「……もしかして、気づいた?」
「気づいたって……そう言われたら、そうかもしれません」
「――『大罪』、持ってるよ。彼」
「分かっています」
Bランクとは思えぬほどの火力に、ともすると不安定にも感じ取れるような本人の感情。まさに過去の緋山励二にも通じる何かがそこにある。
「しかも詩乃ちゃんの彼氏である励二君を上回る二つ」
「二つ!? それってあり得ることなんですか!?」
一つあるだけでも二重人格――『大罪』の持つ人格に悩まされなければならないにも関わらず、稿墨の話によれば穂村正太郎という少年はそれを二つも抱えているのだという。
「多分このサバイバル合戦、大いに荒れると思っていいかもよ?」




