第二十一話 身バレの危険!?
「そういやお前、大丈夫だったでござるか?」
「何が?」
「何がって……金曜にAランクの関門に襲撃かけて唯一無傷で済んでいるじゃないかでござる」
あ、そういえばそうだった。ここ二日間が普段と違って内容が濃厚すぎて、もう遠い昔のことのように思っていた。
学校に通っている間はもちろん俺は男でいる。そしていつものように、まるでDランクであるかのような素振りを見せている。
……というか急にSランクになってから、Dランクの時だった身の振る舞い方を忘れかけている自分がいる。
そして三日ぶりに見るこのおデブさんは、俺のような日陰者友達(?)だ。名前は覚えていない――というより、周りからは『ぶたまんじゅう』としか呼ばれていないから俺も正確な本名は覚えていない。とはいえそのぶたまんじゅうは俺にとってはそれなりの仲でもあるし、うっとおしい奴でもあるが。
「そりゃ、逃げ足だけは一級品だし……」
「確かに状況判断で逃げるのは得意だよなお前。俺もその逃げ足は欲しいな」
別に今は反転させる能力あるし、逃げ足くらいなら彼にあげてもいい気がする。なーんて。
「んん? 今日は妙に余裕ありげでござるな? 何かいい事でもあったのか?」
「うん? いや何も」
やっべぇ、こいつの前で女の子とかになったら面倒なことになりかねんことに今気がついた。能力については黙っておこう。
そう思いながら俺は、静かに紙パックのオレンジジュースにストローを突き刺す。
「そういえば、真琴殿は知っておられるか?」
「え? 何を?」
知っているかと聞かれても何をとしか答えられないなあと思いつつ、俺は口元にストローを近づける。
「この力帝都市に現れた、謎のピンク色の髪の超絶美人のことを!」
「ブフォッ!?」
俺はその瞬間、口に含んでいたオレンジジュースを思いっきり机の上に噴き出してしまった。
「どうしたでござるか真琴殿! まさか知り合いでござったか!?」
「いや、違うんだけど……」
思いっきり俺っぽい気がする。てか確かに反転した後は淫乱ピンク髪の女の子になっていたけど、そんなに目立ったのか。
「ほら、Valtubeでも動画で上がっているし」
「マジで? 見せてみせて!」
「ほほーう、やっぱり真琴殿も男であったか。巷で美人とされる娘が気になるでござるか」
いや俺は自分かどうかの確認をしたいだけだ――ってこれはもう、確定ですな。
「……マジかよ」
「おっ! 真琴殿のお目にかなうレベルでござったか!」
一昨日に守矢と戦った時の動画が見事にサイトにあげられている。これはまずい。あんまり目立っちゃいけないはずなのに早速目立っちゃっているし。
しかも動画タイトルが「謎の巨乳美少女、Bランクの守矢を圧倒!!」とか無駄に煽るようなタイトルになっているからか再生数がもう五十万を突破している!?
しかもまだサイズの合わないブラを着ているせいかコメントが見事におっぱいが揺れていることへのコメントしか並んでないんだけど!?
「はぁー、しかもこの動画の子の為に力帝都市の名簿リストをハッキングしたやつがいたらしいんだが、Aランクまでのリストを漁っても一切この子に関する情報が見つからないらしく、一説によれば新しいSランクなのかもしれないとかいう噂も――」
「う、噂なんだろ? あくまでも」
「そうだが……もしや真琴殿、彼女について何か知っておられるな?」
「いや別にそういう訳じゃないぞ!? ただそんなに騒ぐことかと思ってさ……」
実際今からの身の振りを考えないと、緋山さんの言っていた通りに――
「おい、榊いるか!?」
教室の休み時間だってのに何を騒々しくしている――って、この前俺を穂村の所に連れて行きやがった奴が、教室の入り口で汗だくといった様子で俺を探している。
「な、なんだよ?」
「二年の緋山先輩が呼んでいるぞー」
げっ!?
「要件は!?」
「とにかく来い。来ないとぶっ飛ばすって半ギレで言っていたぜ」
考えられる原因は一つしかない。だとすれば俺はどうすればいい。
「とにかく行くしかない、か」